第8話 君のような勘のいい美少女は嫌いじゃないよ

「ど、どうぞ」

「ありがとう、今日はもう休んでも構わない。厨房長には俺から言っておこう」

「ありがとうございます!」


 その言葉を聞いてメイドは一礼すると、これまた足早に食堂から出て行ってしまう。さて。


「人払いは済んだ。自由に話してくれ、君が何を望んでいるのかを」

「……はい、実はオルアさまにお尋ねしたことがありまして。よろしいでしょうか?」

「俺に答えられることなら」


 その言葉を聞くと、セリアは深呼吸して気を引き締めて俺に問いかける。

 彼女の質問は、正直に言えば「まだ」来ないと思っていたものだった。簡単には答えられないし、素直に打ち明けることも出来ない。


「あなたは、誰ですか?」


 その質問は、この世界が"決められた行動しか取れないNPCだけのゲーム"ではないこと、もっと言えばここが正真正銘の異世界で自分がだという事実を残酷に突きつけられたようで……。ただただ現実に恐怖した。

 加えて恐ろしかったのが、俺はこれからも秘密を隠し別人として生きねばならない。

 けれどこの真実は事実として向き合わねばならない。

 それができなければ、ゲームのオルアのように滑稽な破滅ネタENDに墜ちてしまうのだから。


「質問の意図が分からない。俺が影武者かという意味か? それとも"どこぞの誰か"が不敬にもこの"オルア・フォン・ヴァレンタイン"の名を騙っているとでも?」

「わたしにはオルアさまが1日で、その、言動が変わり過ぎているのが不可解で……。今日もソフィーさまと話しているのを見て、非礼だと言うのはわかっています。ですが、その……」

「確かに俗人ならそう考えてもおかしくない。人は自身の言動を急に改めることはできない、……自分の考えをどう簡単に変われるはずがないのだからな。故に君が不審がるには当然のことだろう。

 だが、ヴァレンタインの名を継ぐ者を俗人と同じと考えるなよ。貴様も含めてな」


 既に不審がられている以上は弁明したところで期待できる成果は出ない。だったら相手に反論する暇を与えず押し通せばいいんだ。結局これが一番楽だと思います。

 質問に答えず意地悪な対応をしていることに罪悪感は沸くけれど。加えて精神年齢が倍以上違う大人が子供を騙そうとしていることへの羞恥心も。


「いえ、そういう訳じゃ、ないんです……。ただ教えて欲しくて、どうしたら人が変わったように言動を改めることができるのかを、知りたくて」


 たどたどしいながらもセリアは真剣な眼差しで俺を見る。ああ、これは茶化していいものじゃない。


「お願いです! ……わたしは立派な王族にならなくちゃいけないんです。だからその知識をご教授してください!」


 幼いながらも必死に考えて出したその本音は、本当に切実で。

 だからそれに誤魔化した応答するなんて、俺には出来なかったんだ。


――――――――――――――――――――


「あの世間知らずのせいで、どうしてこんな恥を……!」

「だ、だけどゲールさま。オルアさまはあの大魔女さまと」

「うるさい! 言い合いできたから何だって言うんだ! 南方大領主の跡取りであるゲールに歯向かって、それもこれもあの阿婆擦れのせいで」

「そうだ! 兄上の言う通りで間違いない」


 本来ならオルアの忠実な取り巻きとなるはずだったゲール兄弟は、セリアへの暴言を咎められたことでかつてない屈辱を味わっていた。だからこそまだ子供な彼らは元凶と捉えた、非人間で地位の低い獣人の王族であるセリアへの逆恨みによる復讐を計画したのである。

 彼らの怒りは越えてはならない一線を越えてしまっていた。その復讐というのも18禁ゲームの悪役だからこそ考えられる極めて外道なモノ。彼らはオルアに歯向かうことはせず、ただ溜まった怒りを吐き出したいのだ。


 不幸にも同じく地位の低い獣人の少女メイドは彼らの計画、否、犯行に付き合わさてしまった彼女は、その内でどこかでほくそ笑む。


 予期せぬところで運命は歪に狂い始めている。

 それをオルアが知るのは、もうすぐだ。

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