第3話 斯くて立った攻略フラグ

 はたして晩餐会で起こったことは俺の予想通りなものとなった。


 王宮の要職に就くため幼少期よりエリート教育を受けてきた彼らからすれば、このサマースクール参加者の中で最も地位のあるオルアに取り入ろうとするのは当然の行動だと言える。問題なのは彼らはまだ子供であり、幼さ故に「貴族」という地位を絶対視しているということだろう。




「お前! オルアさまに一体何をしでかした!?」


「そうだ! あの方を無理矢理謝罪させるという屈辱を、亜人の身で……!」




 会場の隅、そこでゲームでオルアの取り巻きでラストに報いを受けて破滅した小太りとガリガリの兄弟がセリアに暴言を吐いていた。そして最悪なことに傍を通る貴族や低い地位の王族も何も言わないのだ。

 理由としては彼らが貴族の中でもかなり上の爵位を持っているということと、俺の名前を使っているからだろう。

 加えて獣人を含めた亜人の地位は低い。彼らからすれば助ける道理はないのだ、胸糞な話だが。


 さらに『オルア』の名を持ち出されたのだから、それに反抗することは「王族への反逆」ひいては「王国への謀反」と見なされて爵位没収や牢獄送りになるかもしれない。そんな考えから暴言が始まってからセリアを助けようとする動きは何一つみられなかった。


 だからこそ、俺が助けるしかない。






「何をしている」




 少々気取りながらセリアの前に立ち、文字通り人気声優譲りのよく通る声で少年たちを牽制する。何だかんだ言ってオルアはイケメンだから、昔テレビで見たミュージカルの主役のようなことをしても似合っている、というより自然に見えるのだ。




「お、オルアさま!?」


「非礼を詫びなければならないのは俺であり、そしてすべての責任も俺に帰結する。貴様らこれが愚行だと知っていながら同じ愚を犯すと真正の愚者になるつもりか?」




 変声期を参加している子供の中で誰よりも早く迎えたことは幸いだった。意識して低い声を出すことで威圧感を出すことが出来るのだから。


 この先、誰からも傷つけさせない。そう彼女に約束したんだ。


 反感を恐れて取るべき責任を取らないなんて、最高に格好悪い。


 この場に、ひいては育ってきた環境の中にオルアへ物申せる人間がいないことは知っている。だからこそ俺が言ったことは全てとされるのだ。




「それに、今日はここで会うまで"俺"は貴様らと話した記憶はないぞ。俺とセリアの会話を部外者の貴様らが『なぜ』知っているのだ?」


「そ、それは……、貴族としてオルアさまをお守りするために……」


「なるほど。政を為す者とならんとするのなら、それは称賛されるべきものなのだろう」


「はい! ですから!」


「ならばバレた時のリスクを考えておくように。実際の政では不問に処す、なんて甘いことは起こらない。少なくとも俺のやったことは十分に責めを受けるに値することだ。再び問おう。知っていながら同じ愚を犯すつもりか?」


「「い、いえ!」」




 その問答を聞いて貴族の坊ちゃんや下級王族の子供、さらには家庭教師までもが俺に追い詰められている二人組を指差し嗤っている。


「愚かしいことを」


「これで彼らも終わりね」


「お坊ちゃま(お嬢様)はあんな真似をして、オルアさまのお顔に泥を塗るようなことをしないでくださいね」




 それ自体は貴族の間では普通の行為なのだろう。だからオルアの名を使っても完全に止めさせることは出来ないのはわかっている。


 けれど、俺の目の前で起こさせないようには出来るのだ。




「お前たちもやるなら気づかれないようにしろ。少なくともわかっていて愚行を犯したのだ。もっと救われない阿呆になる所信表明、と捉えてもらいたいのか?」




 その言葉に場が凍る。いままで政敵・ライバルの失態を嗤っていられたのに、気づけば自分が危機的状況に陥っていたのだから相当に肝を冷やしているのだろう。




「少なくともこの7日間は俺の眼が届く範囲ではハイリスクなことはしないことだな。無論、俺を舐めることはないだろう? 知ればこんな温情にはならないからな」


「お前たちには期待しているんだ。だから下手な真似はするなよ。


 威嚇するような視線でそう告げると少年たちは足を震わせながら逃げていく。


 あとでフォローしないとな。流石にやり過ぎた。




「さて、改めてこれまでの非礼を詫びさせて欲しい。本当に申し訳なかった」


「いえ! こ、こちらこそオルアさまの真摯な態度を疑ってしまい、申し訳ございませんでした……」


「当然だ。あんな暴言を浴びせ置いて突然謝れても信じられないのは何らおかしくない。お前が俺の愚を引き継がないのなら、誠心誠意で非を詫び責任を取る。7日間はお前への理不尽な暴力から守る「騎士」にでもなろう」


「! ……勿体なきお言葉です」




 そうして視線をそらした彼女の耳は赤くなっている。やはり怒りが張れないのだろう。


 セリアは慌てて俺のもとを去る。まあ必要以上に仲良くなる必要はない。責任を取って謝罪の意を示す。


 自分はオルアという男の末路を知っている。ならば同じ愚を犯さないよう気を付けるだけだ。

 本当に、ゲームならまだしも現実でセリアには嫌われたくない。


 本当に彼女には社畜時代を救ってもらったんだ。だから。


 でも、やっぱりセリアを前にすると緊張しちゃうな。



――――――――――――――――――――




 セリアは焦っていた。昨日の暴言を彼女は許せなかった。反発できる身分でないことも彼女の怒りをより濃いものとさせていたのだ。


 なのに。




「(なんでこんなにドキドキしてるの?!)」




 今日の彼は昨日とは別人だ。喋り方も纏うオーラも御伽噺の王子さまのようで。


 一言で表すと、惚れてしまった。


 不倶戴天の敵、そう思いかけたのに。




「(あんなことをされたら、わたしがおかしくなっちゃうに!)」




 セリアは自分の一目惚れに気づくことなく、晩餐会を過ごすのだった。


 なお彼女がこの日もう一度オルアの顔を直視することができなかった、ということも付け加えておく。

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