1‐4

 梅雨が明けて嫌になるくらいの暑さが毎日続いた。大学構内を歩いていると同じ大学で高校からの腐れ縁の加奈子が僕の名前を呼んだ。


「夏休みの合宿先決まったって!」

『今年どこ?』

「海だよ海! 場所は千葉!」

『ふぅん。海ねぇ……』


 加奈子に誘われて無理やり入部させられたサークルの夏合宿。もうそんな時期か。

僕の合宿参加希望も加奈子が勝手に出していた。合宿と言えば泊まりだ。杏奈と会える貴重な時間が減ってしまう。


「慎也、彼女できたの?」


僕の表情から何を読み取ったのか知らないが加奈子が唐突に聞いてきた。


『ああ、うん。言ってなかった?』

「聞いてない。今度はどんな女?」


 僕がどこの誰と付き合っても加奈子には関係がない。高校時代から加奈子とは体の関係はあった。僕の方は加奈子と恋愛した覚えはない。

しかし加奈子はそうは思っていないようだ。


『バイト先の予備校の生徒』


加奈子が目を丸くしている。そんなに驚くことかな?


「それ本当の話?」

『嘘ついてどうするんだよ』

「予備校の生徒ってことは高校生? 慎也ってロリコンだった?」

『まさか。でも本気だから』


 恋愛ごっこじゃない。この時点で僕は本気で杏奈を愛していた。


「私とその子、どっちが好き?」

『この場合、加奈子って答えればそれで納得するのか?』


どうして女は聞かなくてもいいことをわざわざ聞きたがるのだろう。本当のことを言えば怒るか泣くか、どちらかのくせに。


「そうだよ……嘘でもいいから私だって言って」

『ごめん。嘘はつけない』


 キスをせがむ加奈子を振り払う。誰も傷付けずに生きていくのは難しい。

杏奈を大事にするために僕は加奈子を傷付けた。だけど気持ちに嘘はつけない。


「……変わったね、慎也」


僕に背を向ける加奈子の背中が寂しそうに見えても、追いかけて抱き締めることはしない。


 変わった……そうなのかもしれないな。

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