第18話 こうして一歩を踏み出す。

 

「やっと帰ってきた……」

「こんなところで何やってんだよ。みのり」


 俺は五十嵐と別れ、家へとやっとの思いでたどり着いた。

 バッティングセンターまで行っていたので相当帰ってくるのに時間が掛かった。

ただいま夜の九時になったところであり、彼女はいつから家の前にいたのだろうか。


「待ってたの。話がしたくて」

「いつから?」

「一時間くらい前から」

「そんなんだったら連絡してくれよ……」

「うるさい。私の勝手じゃない」

「何そんなに怒ってるわけ? 俺、なんかしたか?」


 みのりは少しイライラしているように見えた。語気も荒いし、とにかくなんか怒ってる感じだ。怒られるような事が俺にあっただろうか。全然身に覚えが無い。

 ――――1つだけ、あったわ。


「んで、何?」

「今日、優くんに告白された」

「そうなんだ……ってえぇ!?」

「どうしようかなって……悩んでるところ」

「え、何好きになったの?」

「好きじゃ無いけど、こんなにも好きって言ってくれる人がいて、悪い気分はしないじゃん。もし私はこの人と付き合ったら幸せなのかなって」

「そうか……それを俺に話してどうするんだ。止めてほしいのか? みのりが決める事じゃ無いのか?」


 思ってない事を、言葉が先走ってしまった。

 そんなのは嫌に決まってる。

 でも俺にも決めたことがある。それまでに向こうがどうしようと俺には口出し出来ない。そんな自分勝手は許されない。現に今、そうであるように。


「何それ。最近桜ちゃんとばっか一緒にいて、名前で呼び合ってるし、前よりもっと距離が近づいて……私なんか距離が開いていくばかりなのに」

「それは、みのりも一緒じゃないか。俺だって……お前があいつとばかり一緒にいるから、入りこめる場所なんてなかったじゃないか!」


 みのりが言っていることはずるいと思う。

 私はそうじゃ無いと、違うと、言っているようなものじゃんか。


「私が悪いって、そうやって言いたいわけ? 彩人は何考えてるかわかんないよ! そうやって人のせいにして、逃げてるだけじゃない! 中途半端な気持ちなら振ってくれた方が清々するよ! 期待なんてさせないでよ!」

「俺はもう逃げてなんてない。……確かに現実から目を逸らしてた事だってあるし、まだいいだろうって思ってた……だけど、今は違う!」

「違わない。何も変わってない。じゃあその言葉をはっきり言ったらどう? 言えないんでしょ? 桜ちゃんに気持ちが寄ってるからじゃないの? どこがいい方向に進んでるの? 全然進んでないじゃないっ! もういい加減にしてよ!」

「もういい。話にならん。そんな喧嘩腰で、俺が何か言ったところで言い訳にしか聞こえないんだろ。少し冷静になれよ。もう……帰れ」


 俺はどうしたらいいかわからなかった。

 振り返る事なく、俺は玄関を開ける。

 その時、啜り泣きしているのが耳に届いてくる。……でも俺はそれを無視して家の中へ入った。


「何で……こうなるんだよ。違うだろ……こうじゃないだろっ!」


 中へ入って、座り込み項垂れる。

 喧嘩したいわけじゃないんだ。なのにイラついてみのりに当たってしまった。

 冷静になった方がいいのはどっちだ。何もしない俺が悪いに決まっている。みのりは何も悪くない。自ら一ノ瀬のところに行っているわけではないのだから。

 人のせいにしてる。何もずるくなんてない。

 ずるいのは俺だ。





*****





 玄関に座り込んでから、三十分くらい経っただろうか。

 俺はその場から動けずにいた。


 外からみのりの声が聞こえる。


「何でまだ外にいるんだよ……」


 誰かと会話しているようだ。この周辺には知り合いはいない事から電話だと思う。

 それから五分くらい経ち、声が聞こえなくなった。

 制服のポケットに入ってる携帯が振動する。

 俺は携帯を取り出し、画面を覗くとそこには五十嵐桜だと表示されている。少し電話を出るのを躊躇したが、出ることにした。


「……はい」

「今すぐ外に出なさい!!」


 電話越しに怒鳴られ、耳が痛くなる。そして、すぐ切られてしまった。


「何なんだよ」


 とりあえず言われた通りに重い腰をあげ、外へ出た。

 玄関を開けると、みのりが泣きながらこちらを見ている。

「ごっ……ごめん……なさっ……い」

「な、何でそんなに泣いてるんだよ」

「私、何も知らないのに、自分の事しか考えずに、彩人に怒っちゃった……」

 

 全部知ったような口ぶりでみのりは話しているが、この三十分で何があったんだろうか。……さっきの電話、五十嵐か……?


「五十嵐から聞いたのか?」

「うん。さっき桜ちゃんから電話掛かってきて、全部聞いたの。私はアヤトくんに今日振られたの。誤解しているみたいだったから言っておく。って……それで、私今喧嘩しちゃった事話したら、電話切られちゃって……」


 それで、俺に掛かってきた訳か。

「俺も冷静じゃなかった。ごめん。でも前に進んで行きたくて……色々考えてたんだ」

「私もごめん、何も知らないくせに、自分勝手に怒っちゃって……あと、告白の事なんだけど、あれ実はもう断ってるの……意地悪言ってごめんなさい」


 みのりは、頭を下げ謝ってきた。

 

「こちらこそ本当にごめん」


 俺も頭を下げて謝る。


「私は、前向きな気持ちで……いていいの?」

「ま、まあそういうことになるな」

「それって今じゃ……ダメなの?」

「今はダメだ。雰囲気があるだろう? TPOだ。TPO」

「何よ! ヘタレ!」

「うるさいな! ちゃんと俺だって考えてるんだよ! その時まで待てよ!」

「もう少しで半年になるんだけど! どんだけ待たせるのよ!」

「そ、そうだなぁ……あと二、三ヶ月っていったところかな」


 ぽりぽりと頬を掻きながら答えた。


「もういい! 優くんのところ行く!」

「ごめんごめん! そういうのはやめてくれよ。冗談……ではないんだけど……とりあえず、はい。これ」


 俺は彼女に一枚の紙を渡す。

 

「えっ? これって」


 みのりに渡したのは、俺が夏休み中にしこたま働いたお金で買った、グロスタの入場券である。

 その日付は、クリスマスイブになっており、もちろん薫さんの旅館も予約してきている。泊まりで、そして二人きりで。


「よかったら、俺と……一緒に行かないか?」

「二人で……?」


 自分でこうすると決めたのに、恥ずかしくて耳まで熱い。さぞ、今の俺は顔が真っ赤であろう。肌寒くなった季節であるのにも関わらず、夏のように体が熱い。

 中々、一ノ瀬優というやつのせいで渡せなかった。

 結局、まだ遠回りしまくってまた三ヶ月くらい先延ばししてしまっているのは申し訳ないが、俺は意外とロマンチストなのだ。


「二人で。GWに言ってたじゃないか、二人で来れるといいねって。だから二人でいかないか」

「……覚えてたの?」


 みのりは目を見開き、驚いていた。

 

「覚えてた。というか忘れないだろ。言ったじゃないか。いい方向に進んでるって」

「進んでるようには見えなかったけど」

「一緒に行ってくれますか?」

「……はい。もちろんです」


 嬉しそうに、チケットを抱きしめる。

 

「じゃあ、仲直りの握手しないか?」

「うん」


 昔から、俺とみのりは喧嘩をしたら、最後は決まって仲直りの握手をする。小さい頃からの慣わしだ。

 お互いがお互いを許し、仲直りの握手。


 みのりとがっしり握手をする。


「「なーかーなーおりっ!」」


 よし。いつも通り。


「もう寒くなってきてるから、家に入りな?」

「明日!」

「ん?」

「明日、朝一緒に学校行こうね! おやすみ!」

「わかった。寝坊しないように頑張る。おやすみ」


 

 

 みのりは足早に家へと帰って行った。

 こうして喧嘩して、仲直りをして一日が終わった。


「はぁー。……渡せてよかったぁー」


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます