第17話 ストレス発散

 五十嵐を振ってから、彼女は何故だかとても協力的だ。

 みのりの誤解も解いてくれると、一言伝えておくと、そう俺に言ってくれた。

 何を考えているのか全然わからんけど、正直なところありがたいとしか言えない。

 

 ただあの男。一ノ瀬優はどうも気に入らない。

 あいつは俺を敵と判断している。それは俺も同じだ。

 早く手を打たないと、最悪な事態に陥ってしまう。

 

 俺は未だに、両思いだと知っていながらも、その先に進めない。

 多分、小さい頃から一緒に過ごしすぎた。それが根本的な原因で、なかなか一歩が踏み出せないんだろう。クヨクヨしている自分にイライラする。だけど進めない。先は見えているのに、どちらにも捉えられる先が。

 足枷が外れて、彼女を一人の女の子としてみるようになった。だけど、現状は幼馴染が邪魔をしている。

 これが幼馴染じゃなかったら、俺はどうなんだろうか……。ちゃんと告白しているのだろうか、それとも……。


 これは、俺だけの問題でしかないけど、『好き』という言葉を伝えたくても、言葉が喉の奥に詰まって言葉として発せれない。

 たった二文字。たった二文字を発することだけなのに、それが言えない。

 友達以上恋人未満とはよく言ったものだ。俺たちは小さい頃からずっとそんな感じだったから、付き合うとなると恥ずかしい。

 そうやって思っていたのも俺だけなのかもしれないけど。


 みのりは俺の友達かと言われると、それ以上の気持ちがあるのは間違いない。

 親友? 違うな。どちらかと言えば、家族に近しい。

 

 壊れるのが怖い。付き合うことより別れのことばかり考えてしまう。

 ———離れるのが怖いんだ。


「アヤトくん? そんな怖い顔して何考えてるの?」

「悪い。なんでもない」


 今、俺たちはドムジャにある、小洒落たカフェに来ている。

 あの場から立ち去り、いや逃げてきたと言ったほうが正解か。


「あんまり考えすぎても疲れるだけだよ?」

「そうだよな」

「みのりちゃんが羨ましいなぁ」

「なんで?」

「好きな人にすごく考えてもらってるからだよ」

「そ、そうか……」

「でもさ、今いるのは私なんだからさ、ちょっとくらい私に気を使って欲しいな」

「すまん。気をつける」

「じゃあチョコパフェでいいよ」

「なんでそうなるんだよ。まあいいけどよ」

「ありがと! この後、少し運動でもしない?」

「運動……?」

「ほら、バッティングセンターとかどお? スカッとするかもよ。空振りをね」

「桜さぁ、俺の運動神経舐めすぎじゃない?」

「大分舐め腐ってる」

「よし、パフェはやめて今すぐ行こう」

「えぇーパフェェー」

 俺は伝票とり、レジへと向かう。

 五十嵐は渋々着いてきた。

 

 こうして二人でバッティングセンターへと向かった。

 五十嵐は、俺に大分気を使っている。いい女だなぁ。いい嫁さんになれるよ、君は。

 それと同時に申し訳なくなる。

 よし! 切り替えて行こう! 


*****


「さぁ、アヤトくん! どっちが早くホームラン当てれるか勝負ね!」

「当てれるのかよ……」

「舐めないで頂戴! やるときはやるよ!」

 

 バットを持ち、後ろから眺めている俺に向けてくる。

 そしてニカッと笑う。そんな彼女はとても可愛かった。


「スタート! 打ってやるゾォ!」


 時速は100キロ。女子にしては速い方なのかわからないが、五十嵐はカキーンという快音を場内に響かせ、バコバコと次から次へと打ち返していた。

 

「すげぇ……」

「へへーんだ! ホームランには当たらなかったけど、次はアヤトくんの番だよ」

「俺もすごいからな」


 五十嵐と入れ替わるように、バッターボックスに入った。

 バットを持ち、スタートボタンを押す。

 

「シャア! こい!」


ガガガッと ピッチングマシーンが動き出す。

 俺は集中して、一点を見つめる。ボールが放たれ、フルスイング。


 ————バットは空を切った。


 それとともにボスっと情けない音が聞こえてくる。


「うわぁ、下手くそじゃんアヤトくん」

「ばっか。これはわざとだし。タイミング狙って少し上を振ったんだよ」

「口だけは達者なこと。はい、次くるよ」

「わかって、る!!」


 またもや空を切る。

 あれれー? おかしいぞぉ? 当たらないなぁ。


「タイミングは完璧だったはずなのに……」

「見栄を張るからだよ。もっと脇締める!」

「はい! 先生!」 


 手のひらクルクルパーな俺は五十嵐先生の言う事をすぐ聞く。


 集中。脇を締め、ボールをよく見る! そして振る! 


 カキーン!


 快音が響いた。ボールは綺麗な弧を描き、ホームランと書いてある看板に当たる。


「やった! 当たった! 桜当たった!」

「すごい! 私のおかげ! 私のアドバイスのおかげ! ということは私がすごい!」

「おい、それは違う」

「次くるよ次!」

「お、おう」


 アドバイスのおかげか、バコスコ打てるようになった。あの一発以外はホームランには当たらなかったものの、それなりにヒット性の当たりは打てるようになった。


 バッターボックスから出ると、両手を上げてハイタッチを待ってる五十嵐がいた。


 パァーンとハイタッチを交わす。


「やったね! やるじゃんアヤトくん!」

「桜のおかげです」

「じゃあジュースでも買ってもらおうかな!」

「なんでだよ……」

「誰のおかげだった?」

「桜さんです……」

「そうだよね。じゃあ文句言わず買って?」

「買わせていただきます」

「よろしい」


 それから俺たちはバッティングセンターを後にし、帰路へ着く。

 

「桜、今日はありがとう。なんかスカッとしたわ」

「いえいえ、私も楽しかったよ! また来ようね!」

「そうだな。楽しかった。また相談に乗ってもらったりするかも知れんがいいか?」

「うーん。考えておく」


 ふふっと悪戯めいた笑顔を見せ、


「じゃあまたね!」


 そういって彼女は帰って行った。

 その後ろ姿は、どこか寂しそうに見えたのは俺の見間違いだろうか。

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