第13話 思惑


「いつまでそんな中途半端な気持ちなら俺がみのりちゃんもらうから」

 



 その言葉に俺は絶句した。

 まさかこんな事言われるなんて予想だにしなかった。


 今の発言は肇がみのりの事が好きと言っているものであり、彼がいつからみのり事を好きなのかは知らない。

 ずっと前からかも知れない。だけどそんな様子は少しも見当たらなく、困惑した。


「冗談……だよな?」

「さあ、どうだろうね」


 肇の声は酷く冷たく、ぞっと背中をなぞるように寒気がする。

 思考が追いつかず、何か言える事がないかと思考を巡らせ言葉を探す。


「……いつから?」

 

 やっと出た言葉がこれだった。


「彩人にいう必要あるかな?」

「ないけど……」

「さっきも言ったけどその中途半端な気持ちやめてくれない? 彼女の身になって考えたことある? いつまでもそんなんじゃ彼女は幸せになれない。彩人じゃ無理だよ。幸せにすることなんてできない」


 俺じゃ無理か……。

 こうやって肇に言われて気付く。俺は今嫌だと思っている。みのりが肇と付き合うことを考えるだけで嫉妬する。

 でも知ったような口で言われるのは無性に癇に障る。

 何も知らないくせに全部知った風な口ぶりはやめろ。


「ふざけんな。俺だってちゃんと考えてる。それはみのりにも伝えてあるし、知った様な口きくな」

「怒らせた? でも俺から見たらね、何も考えてない。彩人は皆んなに優しすぎる。それで勘違いすることだってある」

「皆んなに優しい? 優しくて何が悪いんだ。一人に固執して優しくする様な人間には俺はなりたくないね」

「それだよ。あの時彩人が行く必要なんてどこにもない。僕が行ったってよかったし、みのりちゃんでもよかったことなんだよ」

「だったらなんでお前はその場にいる事を選択したんだ。知らないふりしてみのりの隣にいる事を選んで自分の都合のいいようにして、俺を行かしてるじゃないか。お前が言ってることなんて所詮ただの欺瞞だろ」


 肇が言ってることは矛盾だらけだ。自分で言ってて気付かないのか? そんな馬鹿じゃないはずだ。


「ふふっ」

「何がおかしい」

「冗談だよ! えーくんごめんね」


 はぁ? なんだこいつ。


「えーくんがどんな気持ちか知りたくてね」

「どーいうことだよ。全然わけがわからん」

「俺はね、えーくんの事ならなんでも知ってんの! 五十嵐ちゃんに振られたことも、みのりちゃんがえーくんの事好きなことも知ってるし、告白されたことも知ってる」

「なんで知ってんだよ。こえーよ」

「まあちょっとした情報屋ってとこかな?」

「もはや俺のストーカーだろ……」

「失礼な! 情報屋!」

「はいはい」

「今日えーくんが走り出した時、何考えてんだろうって思ったのは本当だよ。あんだけみのりちゃんとイチャイチャして手も繋いだりしてんのに、気があるそぶり見せといて急に突き放すように五十嵐ちゃん追いかけちゃってさ、みのりちゃん半泣きだったんだよ。だから中途半端なことやめろって言いたかったの。ちょっとした脅しさ」


 肇はいつものおどけた表情に戻り、いつもの声のトーンにも戻っていた。


「手を繋いでたことも知ってたのかよ」

「まあね。気持ちはみのりちゃんよりになってるんでしょ?」

「みのりにも言ったけど俺は今の気持ちがよくわからないんだ。まだ五十嵐のことを心の何処かで引きずってるのかもしれん」

「そうかもしれないね。振られたけどまだ何処かで気にかけてるえーくんがいるのも見てたらわかる。……もしあの行動で五十嵐ちゃんがえーくんの事好きになっちゃったらどうすんの?」

「ないだろ。振られてるんだし、ましてや失恋したばっかりだぞ?」

「人を好きになるタイミングなんて俺たちにはわからないよ。えーくんだってもうみのりちゃんのこと好きになってるかもしれない、今の話を聞くと五十嵐ちゃんの事まだ諦めてないような感じもする。それで悩んでるんじゃないの?」

「まあ……そうだけど」


 俺の心の中の隅々まで見透かされている気分だ。肇はあえて何も言わず応援してくれてたって事なんだよな。だけど痺れを切らしてこうやって俺に伝えて来たってことか。


「最終的に選ぶのはえーくんだから、細かい事を俺が言う権利なんてないけど、どっちにも中途半端な行動してると後悔するよ。ほら、よく言うじゃん! 二兎追うものは一兎も得ずってね。よく肝に銘じておく事だね」

 

 肇は五十嵐が俺を好きだと言わんばかりに伝えてくるが、俺のことを五十嵐が好きになることなんて万が一いや、億が一ない!

 だって俺振られてるし、失恋したばっかだ。そんなすぐ切り替えなんてできないだろう。

 ……冷静になってみるとめっちゃブーメランだな。七里彩人。

 自分で自分にツッコミを入れる。俺、めっちゃ切り替え早かったわ。でも流石にないだろう! ガッハッハ!



『私なんて今日チューしたもん!』

『私だって頭なでなでしてもらったし!』



 突然隣から大きい声が聞こえてくる。

 みのりと五十嵐が言い合っている。



 ―――待て。


 今日チューした?


 思い当たる節がある。


 なでなでしてもらった。


 これも思い当たる。


 これは俺がみのりにされた事と五十嵐にした事だ。

 なぜ2人はそんなことを言い合ってるんだ。


「えーくん? 今のってさあ……」

「……」

「今のさぁ、えーくんに関係あるよね? ないわけないよね? チュー?? なでなで? まじで何してんの?」

「……いやこれには深い、それは深い理由があるんですね?」

「なんか自慢大会始まってるよ? 俺が言ったことがまさに今、目の前で起きてない? 五十嵐ちゃん多分―――」

「待て! それ以上言わないでくれ。なんとなく言わんとする事は分かっているつもりだ」

「あーあ。どうすんのよ」


 考えなくてもわかるよ。肇が言いたい事はわかる。俺も同じ事多分考えてる。

 

 なんだか頭がクラクラしてきた。

 

 五十嵐が俺のことをす―――




「ちょっ!! えーくん!?」



*****




 気がつくと目の前には見慣れない天井があった。

 

「俺は……頭が混乱してのぼせて気を失って……」


 周りを見渡すと扇風機が当てられており、心地よい風が俺の身体を冷やしている。


「目が覚めたかい?」

「あぁ、ここまで運んでくれたんだよな。ありがと」

「突然沈んでくんだもん! びっくりだわ!」


 身体を起こし、シャワーを浴びにいく。


 そして身体を洗いお風呂から上がって着替えて外に出た。


「肇、ちょっと肩貸してくれ」

「あいよ。ちょっと長風呂しすぎたね。あと考えさせすぎちゃってごめんね」

「気にすんな。俺がいずれぶち当たる壁だ」


 肩をかりながら歩いていると、後ろからみのりと五十嵐が話しかけてきた。


「彩人! 大丈夫!? さっき肇くんの焦った声が聞こえたけど」

「のぼせちゃった?」

「大丈夫。五十嵐の言う通りのぼせた」

「桜って呼んでよ……」


 五十嵐がボソッと何かを言ったが聞こえなかったのでスルーした。

 正直なところお前らのせいだよ! って言いたいです。言えないけどね。


「みのりちゃんも五十嵐ちゃんも、もう少し周りのこと気にして話した方がいいよ? 自慢したいのはわかるけどね!」


 ケラケラと笑いながら肇は先程の話を掘り返す。

 俺は余計なことを言うんじゃないよ!! と思ったけどまあ聞いてしまったものは聞かなかった事にはできないししょうがない。

 

 2人はびくっと肩を震わせ、みるみる顔が紅潮していく。


「いや! あれはなんと言うかね? ね? 桜ちゃん?」

「うん! そうだよ! 別に2人には関係ない話だもんね?」

「そっかそっか! でも聞こえてたからそう言うのは静かにね」


 肇はニヤニヤしながら俺を見てくる。

 もういいよ。分かったから。


 というかみのりさんよ。2人には関係ないって言ってる五十嵐のフォローは全然フォローになってないからね。

 俺はあなたに告白されてるんですから意味ないんですよ……


「いやぁ、それにしてもその人羨ましいなぁ」


 これは本音だろうな。


「どっちか僕でもよくない??」


「「それはちょっと」」


 ハモった! ハッピーアイスクリーム!!


 はい俺の勝ち。アイス奢れよな。


「2人してさぁ……肇ショック!!」


 そう言いながら俺の手をつねるのやめてね。

 笑ってるけど目が笑ってないよ。なんかわからんけどごめんね。


 

 部屋に戻ると、ご飯の準備ができていた。

 杏と蓮は仲良くアニメ観ながら待っていてくれたようだ。


「では、いただきます」




*****



 

 それから俺たちは薫さんが用意してくれてたご飯を食べ終わり、ささっと寝る準備をして部屋はもう真っ暗だ。

 俺たちは間仕切りで二手に分かれて寝ている。

 もちろん女子と男子で分かれている。蓮と杏だけ一緒に寝ようとしていたが全力で阻止。許さないリア充。


 部屋を暗くしてからすぐ他のみんなは疲れていたのか寝てしまったようだ。

 肇のいびきがうるさい。

 


 布団にくるまり今日1日を振り返る。

 


 いろいろあったなぁ。手とか何回繋いだんだろう。思い出すだけでドキドキする。

 抱きつかれてわんわん泣かれるし、なでなでしちゃったし……

 一体全体俺は何しちゃってんだよう! 自分がした事を思い返せば恥ずかしくて蒸発しそうになる。



 まあだけど、すごい楽しかった。

 1日とはあっという間に終ってしまったな。


 

 みのりのこと五十嵐のことはいずれはっきりしないといけない。

 どうしたらいいのかはわからないけれど、とりあえずまだいいだろう。

 


 俺はどうにも寝付けず、部屋に備え付けられてる縁側に行き、ドアを開け腰をおろして空を見上げる。

 

 なにも考えず、ただ無心で星を眺めていた。

 



「まだ起きてたんだ。隣いいかな?」



 後ろから話しかけられ、彼女はそう言って隣に腰掛けた。



 拳一つ分にも満たない間隔をあけて。

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