第9話 気持ち

 俺達はあれから空いている事を理由に、園内にあるありとあらゆるアトラクションに乗りまくった。

 その中でも、後ろ向きに進んでいくジェットコースターは最高に楽しかったし、最高に怖かった。

 その時も隣に座っていたのはみのりで、案の定絶叫しており、またもや手を繋いでいた。そんなに怖いのなら乗らなければいいのにね。


 普段であれば絶対しない事を、こういう特別な日にだけできてしまう大胆さには自分でも驚く。

 こんな事を言っているが、俺も手を繋ぎたいと思ってしまっている。

 だから俺は誰にも隣を譲らず、みのりの隣に座っているのだろう。他の奴にはそうさせたくないと、彼女でもないのに自分の物のように独り占めしている。


 俺はみのり事をだいぶ意識しているし、この状況なのにハッキリとしないが好意を寄せてるのではないかと『まだ』思っている。

 そこには色んな感情が渦を巻きながら頭の中を彷徨っているのだ。 

 振られて1ヶ月も経たないうちにみのりのことを好きになってしまっていいのか、好きと言われれば好きになってしまう自分が嫌なのか、だけどいつまでもみのりとの返事を遅らせてもいけないとか、安易に返事ができなくて……とにかくいろんな物が混ざり合って整理がつかない。

 

 

 振られる前の自分はどうだっただろうか。

 五十嵐のことをなぜ好きになったのか、今自分で考えて思い出そうとしてもよく解らない。好きになったのはいつで、どこを好きになったとか全然思い出せず、その瞬間がわからない。


 でも状況だけは思い出せる。

 振られる前までの俺はみのりには一切の目もくれず、幼馴染という枠組みにはめ込み、五十嵐ばかり目で追っていたという事。

 一番近くにいたのに、ちゃんと見てこなかったという事だ。


 だが、今は違う。

 

 あの日をきっかけに幼馴染という枠組みから外れ、1人の女の子として見るようになった。

 今思えば、相当勇気がいる事だと思う。みのりの告白、あれで俺の枠組みという足かせを外し、対等になれるように俺を引きずりあげたと言っても過言ではない。

 そんな俺はみのりの思い通りに、今ではすっかり目で彼女を追ってしまっている。

作戦勝ちと言ったところだろうか。

 まあ、目で追ってしまうだけで別に好きと言ってない。まだ気になってるだけ。


 だから、わからないんだ。

 恋ってなんだっけ?

 誰か俺に恋の定義を教えてくれ。



*****

 

 

 日が暮れてあたりはすっかり暗くなり、もうすぐパレードが始まる時間だ。

 夜のパレードでは、最後に花火が打ち上がる。

 それを見たくて、場所取りする連中はたくさんいる。

 なので、この時間帯のアトラクションは必然的に待ち時間が少なくなる。

 それを見越してか、蓮と杏がもう1個だけアトラクション乗りたいと伝えてきた。


 俺はもう勘弁。疲れた。座りたい。

 

「俺とみのりはパス」

「へ? なんで私まで?」

「だいぶ滅入っているだろ? 顔に出てるぞ」

「あーうん。バレちゃったかー」


 あんだけ叫んで、ガクガクと子鹿のようにしてたら流石にわかる。

 今日はもう疲れただろう。


「じゃあ僕たちは行ってくるよ」

「はいよー行ってらっしゃい」


 蓮達を送り出し、俺らは座れる場所を探した。

 パレードを見る人が多いので、人の往来が盛んであり、みのりの手を握る。


「あ、彩人っ!?」

「何だよ? こうでもしないと逸れちまうだろ?」

「そ、そうだけど……」

「嫌なら離すけど」

「嫌じゃない! むしろ推奨だよ!」

「なら落ち着ける所見つけるまでちゃんと握ってろよ?」

「うん」


 みのりは少し照れくさそうにしていたが嬉しそうだった。

 俺はというと、顔を背け明後日の方を見て恥ずかしさを誤魔化していた。


 我ながら何を言っているのかと自問自答。

 もちろん答えは出ない。

 わかるはずないのだから。



 だいぶ歩き、人気の少ない落ち着ける所にベンチを見つけ、俺たちはベンチに腰を下ろした。

 

「はぁー、つっかれたー」

「喉乾いたよー。飲み物なんかない?」

「あー、切らしてるわ」

「じゃあ買ってこようかな」

「俺が行くよ。みのり疲れてるだろうし、ここで少し待っててくれ。すぐ戻るから」

「うん。ありがと」


 立ち上がり、売店へと向かう。


 えーっと、何がいいのかわかんねぇなぁ。

 とりあえず炭酸でいいかな? 

 喉乾いてる時の炭酸は最高に気持ちいいからな。

 飲み物を買い、急いでみのりの場所へと戻る。

 

「お待たせ、炭酸だけどいいか?」

「うん! 丁度飲みたかった!」


 ゴクゴクと一気に飲んでいく。


「っぷはー!! おいしー!!」

「いい飲みっぷりだな」

「喉乾いてたからね! 彩人も飲む?」

「おう、サンキュー」

  

 俺も喉が渇いていたので、染みる炭酸が気持ちいい。


「間接キスだね」

「ブフッ!!」

 

 飲んでる最中に言われ、せてしまった。

 あー、もうと呆れながらテイッシュを渡してくる。

 俺は口を拭きながら、答える。


「変なこと言うなよ。噎せちゃったじゃねーか」

「何よ、間接キスくらいで動揺しちゃって。ウブだね」

「うるさい。俺はピュアピュアハートの男の子なんだよ」

「キスぐらいで何を言っってるのやら」

「した事……ある……のか?」


 俺は瞠目した。


「気になる? 私のファーストキス」

「全っ然気にならんし!」


 みのりは悪戯っぽく言ってくるのだ。


 気にならんとは言ったものの、まるでした事があるかの様に含みを持たせて言ってくると、それは心底気になりますけど。


『え? 誰としたの?』


 聞けない! こんな事聞けないよう!


「まあした事ないんだけど」

「へっ!?」


 声が裏返り、口が開いたままパクパクしてしまった。


「した事ないよ。ほっぺたにキスした事はあるけど」

「誰に?」


 俺は間髪入れずに聞いてしまう。

 そしてゴクリと息を呑む。


「彩人に」

「またまたご冗談を」

「ほんとだよ。今日の朝、彩人が寝てる時にこっそりと」


 今日の……朝?

 言われてみると確かに……何か柔らかい感触がした気がしなくもない。

 無意識にキスされた左頬を触っていた。


「あ、あの時の柔らかい感触!?」

「だって全然起きないもん。私ちゃんと言ったもん。キスしちゃうぞって」

「はぁ? 聞こえるわけないじゃん」

「ちゃんと起きてれば、口にチューして私のファーストキスあげたのに」

「いや……結局キスしちゃうのかよ」


 っておい! 何俺は普通に受け入れちゃってんだよ。

 頬っぺたとはいえ、キスされちゃってんだぞ!

 それはちゃんと意識がはっきりしてる時にお願いしますね。

 いや、お願いしちゃうのかよ……。


「今日ね、嬉しかったの。なんか彩人さ、すごく私ばかり見てくれてる気がして」

「そうか? いつも通りな気がするけど」

「ううん。全然違った」


 一呼吸するとまた口を開く。


「私から聞くのはあれだけど、彩人は今どういう気持ちかな?」


 どう答えればいいのか、俺には分からなかった。

 重々しい表情で訴えらえているのがわかる。

 ちゃんと答えなければならない。

 だが、残念な事に俺はまだしっかりとした返答を持ち合わせておらず、困惑している最中だ。

 曖昧な言葉で飾ることは簡単にできる。

 ただ今はそんなことで誤魔化しが効くとは到底思えない。

 だから真摯にその言葉を受け止め、返答する。

 

「正直に言うと、まだよく分からない。自分の中でこれを好きと言うかが分からないんだ」

「そっか」


 その一言の返事だけだった。

 それ以上追求してこない。

 

 言葉が足りなかったと思い、俺はさらに付け足す。


「でも、悪い方向に向かっているわけじゃない……むしろ逆だ」

「いちいち分かりづらい言い方やめてよ。喜んでいいのか分からなくなっちゃうじゃん。でもそっか……それなら良かった!」

 

 みのりは溢れんばかりの笑顔を見せた。


 その瞬間、空一面が明るくなる。

 大きな音と共に、煌びやかな華を広げて夜空を彩った。

 

「おぉ、綺麗だな」

「うん。すごく綺麗」


 明るく一面を照らした花火はとても綺麗で


 花火の明かりがみのりの横顔を照らし出す。


 気付けば俺は、息をするのも忘れて



 その横顔に見惚れてしまっていた。

 

 

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