第4話 GWに向けて:1


 何も変わっていないのに、何かが変わった、あの日から1週間が経った。

 何事も無かったように、俺達はいつも通りの日々を送っている。

 そして今は、授業が終わり放課後だ。


 鞄に荷物をしまい、いつもと変わらず、ぼけっと外を眺めている。

 教室の色んな所から、ちらほらと聞こえてくるのはゴールデンウィークの予定だ。


 この連休で、海外に家族で旅行に行くとか、予定がなくて暇してるから遊びに行こーよなど、そんな話だ。

 クラスは、ゴールデンウィークの話題で持ちきりである。


 ゴールデンウィークか、特に何するか決めてないなぁ。誰か私を誘ってくださいな……私も暇してるよ……


「えーくん! えーくん!」


 他力本願で、自らは誘わない。だって、断られたら嫌だもんでね! 


「ちょー!! えーくんってば!」

「あ、ごめん。気付かんかったわ」

「うっそだぁ! 肩叩いてるのに気付かない訳が無い!」

「いや、本当にごめん。気付かんかった」

「まあいいや。あのさ、ゴールデンウィークは何してる系?」


 はい来ました。私の救世主。肇が声かけてくれなければ俺は休み中、家から一歩も出ない事になるとこだった。


「特に予定はないけど」

「じゃあさじゃあさ! 休み初日から旅行行かない!?」

「おお! いい提案だな!」


 今年のゴールデンウィークは、元号が変わるからなんかで休みがとても長い。

 日本では、初めての10連休であるそうだ。有給を使わずに取れる休みらしい。それもどうなのよって感じですけども。もっと海外見習ったらどうでしょうか。働きたくないなぁ……


 ニュースでも10連休のことばかり報道されている。なので、観光地やテーマパークは混雑することが予想されている。

 わざわざ、人が多いとことに出かけるのは気が引けてしまうが、姉に言われた通り現在いまを楽しむと決めたので、こういう誘いは積極的に参加するのだ。


「グロスタとかどう?」

「大阪か、悪くないな。久しぶりにジェットコースター乗りたいわ」

「んじゃ、決まりだね! 他は誰誘う? やっぱり女の子いた方がいいよね? これを機にみたいな事、ワンチャンあるかも!」


 それはお前の願望だろうが。

 でも、2人で行くよりそれなりの人数居た方が楽しめるだろうな。


「みのりちゃーん! ちょっとこっち来てー!!」


 え、は? こいつ、み、みのり誘おうとしてんのか!?

 あ、いや、あ、ちょっ……まっ……


「はいはい! 肇くんどしたー?」

「今年のゴールデンウィーク休み長いじゃん? 今、えーくんと初日から大阪に1泊2日で行こうって計画立ててるんだけどさ、みのりちゃんも一緒に行かない?」


 なぜか、肇はニヤついている。するとバシッという音と共に、肇とみのりはがっしり手を組んでいた。

 ふふふ……ふふふ……と言葉が表に出できてそうなくらい、2人はニヤついている。とういうか心の不気味な笑いが外に漏れちゃってるよ!


「その話、乗らせてもらう!」

「お前ら、めちゃくちゃ不気味だぞ」

「じゃかしぃ! えーくんは黙らっしゃい!」


 なんで俺怒られたの。もうこいつキャラおかしくなちゃってるよ。あ、それはいつものことだな。


「1泊2日って言ったけど何処に泊まるわけ?」

「えーくんの親戚って、たまたま大阪で旅館を経営してらっしゃると聞いた事があります。なので、えーくんの力で何とかしてくれ!」


 おいおいおい、何言ってんだこいつは。今更予約なんて取れるのか? こんな繁忙期になる二週間前に空いてるとは到底思えない。

 嫌だなぁ……。その経営している俺の親戚の都築薫つづきかおるさん怖いんだよ。マジ勘弁。

 おばさんって言ったら、おもいっきしぶん殴られた事あるんだよ。俺からしたら立派なおばさんじゃん。叔母でしょ? 年の方じゃないんだけど。そっちのおばさんじゃないって言ったら、またぶん殴られ、しかもグーで。

 その時、たまたま一緒にいたみのりは固まっていた。呆然とただ立ちすくしていたなぁ。懐かしい。

 小さい頃、俺とみのりはよく一緒にいたので、薫さんに遊んでもらった事もある。

 なぜか、みのりはその頃から薫お姉さんって呼んでたな。仕込まれたか。


「彩人……大丈夫? 怒られない……?」

「確実に怒られるだろうな」

「頼んだよ! えーくん」

「あとは蓮くんとかあんずちゃんとかどう? みんな知ってるし、いいんじゃない?」

「んじゃ、蓮は俺が声掛けとくわ。杏はみのりが誘っておいてくれ」

「りょーかい!」

「ではでは、今日は解散という事で!」


 その場で解散になったので、先ほど話に出て来た蓮の所に向かう。

 スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てながら寝ている葉月蓮はづきれん

 クラスでは、1番のイケメンさん。1年の頃に仲良くなり、学校帰りや、休日に遊びに行ったりする仲だ。


 基本的には、静かな奴であまりテンションは変わらない。常に横ばいって感じ。

 だが実は隠れオタクであり、アニメの話をするとテンションは右肩上がりになる。ラノベなどもよく読むみたいで、杏とよく話をしている。杏もそっち系が好きみたいで話が合うそうだ。


「おい、蓮起きろ。もう授業終わってるぞ」

「……ん、あぁ……おはよう。彩人くん」


 目を擦りながら起きる蓮。一つ一つの仕草がいちいちかっこいい。


「おそよう。気持ちよさそうに寝てた所悪いな」

「構わないよ。それでなにか用でもあった?」

「ああ。蓮はゴールデンウィークの予定はあるか?」

「特にないよ。アニメ観るくらいかな」


 本当に顔に似合わないな。


「皆んなで大阪に旅行に行こうって話なんだけど、一緒に行かないか?」

「いいね。行くよ。誰がくる?」 

「今決まっているのは、肇とみのりだけだな。多分、杏もくると思う」

「わかったよ。日付決まったら教えて」

「日付は決まってる。休み初日からだ」

「了解。じゃあ詳しいことはまた連絡して」

「はいよ。じゃあ俺行くわ」


「七里ー! 五十嵐ー! ちょっといいかー」


 鞄を取り、帰ろうとした時に先生に呼ばれる。

 あー、絶対パシリだ。教卓を見るとノートがたくさん積まれている。


「このノートを職員室の俺の席まで運んでくれ」


 やっぱりか……


「先生も持ってよ。楽すんな。ましてや五十嵐にも持たせて、女子ですよ? 力仕事は男の仕事」

「七里。お前は最近先生に対して口が悪くないか? 俺はこのまま会議室に行って会議なんだよ。だから頼んだぞ」


 先生はそう言いながら教室から出て行った。


「七里くん。大丈夫だよ! 私、持てるから!」


 力こぶを見せながら、自慢げに行ってくる。……おい、すげぇ可愛いな。

 あかん! ちょっと待て! よく考えろ。俺は振られてるんだ。


「それでも、あんまり無理はしないでくれ。多めに俺が持つから」

「あ、うん。ありがと」


 荷物を持って、教室を出る。

 あれから一週間も経っているので、五十嵐とこうして学級委員の仕事をすることはたくさんあった。


 自分の中では、もう大丈夫だと思っていたけど、実際にこうやって喋るのは少し気まずかった。

 それは五十嵐も同じだったみたいだ。だったら振るなよな。

 今ではもう平気だが、そう簡単にはいかなかった訳だ。


「あのさ、七里くん。話があるんだけどさ、このノート運び終わったらちょっとだけ時間いいかな?」

「え、何? もしかして俺また振られちゃう?」


 冗談めかして言うが、ここ最近五十嵐との会話に振られネタをよく使っている。


「違うよ! さっき、葉月くんと話してるの聞いちゃって―――」


 そう言った矢先、職員室に着いてしまった。話はまた後でという感じになってしまい、とりあえず職員室に入る。


「失礼しまーす。2年の七里でーす」

「失礼します。五十嵐です。木村先生に頼まれてノートを運んできました」


 木村先生の机まで頼まれたノートを持って行く。


「おいおい、机に置けないじゃんか」

「す、すごい散らかってるね」


 相変わらずの有様だった。

 よくこの状態で机の上に置けと言ったな、あのハゲ。


「どうしようね?」

「床に置くしかなくないか?」

「でも、一番下のノート汚れちゃうよ?」

「じゃあ、俺のノートを一番下にしてくれればいいよ」

「本当にいいの?」

「あぁ、大丈夫。俺は全然気にしないから。他の人が汚れるよりは、置いた本人のノートが汚れた方がいいだろ?」

「じゃあ、全員分積み上げちゃうと倒れちゃうかも知れないから二つに分けて、もう一つは私のを一番下にして置くよ」

「そうだな」


 床にを置く前に、自分のノートの一番最後のページを破りとる。


「これでよしっと」

「なんで紙破いたの?」

「これから先生にラブレターを書くんだよ」


 五十嵐は首を傾げて、頭の上にはてなマークを出している。

 だからそういうのやめてくれよ。可愛いんだよ。わざとか!?

 俺はそんなことを思いつつも先生にラブレターを書く。




『親愛なる木村先生へ』

 

 机がまじで汚い。掃除しろ。


 よくこの状態で、机の上に置けと言いましたね。


 出直してきてください。


                五十嵐より




「ちょっとちょっと! なんでそこ私の名前なの!?」

「だって、ラブレターだもん。俺が書いたら気持ち悪いだろ?」

「だってじゃないよ! 消してよー!」

「冗談だよ。この前の振られたちょっとした仕返しだ。んじゃ行くか」

「それとこれは違うでしょー! ねぇー! 行こうとしないで! 消してよー!」

「あ、バレたか。そのまま行けると思ったんだけど。残念」


 七里よりと書き直して職員室を出る。


「七里くん。あんな事したら先生に怒られない?」

「まあ、怒られるだろうな。でも、先生には反省してもらわないとな」

「ふふっ! 何それ! おかしいよ!」


 五十嵐は面白かったのか、クスクスと笑っている。

 今までに、こんなことがあっただろうか。俺と話すことも全然なかったのに、今はこうして俺の話で笑ってくれているこの状況が。

 学級委員として仕事をするようになって、あの日を境に俺らの関係は変わったと思う。

 正直、今はこの状態をすごく気に入っている。ある意味、振られてよかったとさえ思ってしまう。

 俺と五十嵐の距離は少し縮まった気がした。



 あくまでも、これは友達として。





「さてさて、振った男に話って何?」

「すごく根に持ってるよね!?」


 俺たちは、中庭の例のベンチに座っている。


「まあまあ、話は何かい?」

「うん。あのね、さっき葉月くんと話してるのを聞いちゃってさ」

「あぁ、旅行の話か?」

「あのね……私も一緒に……行きたいの」


 消え入りそうな声で、モジモジしながら伝えてくる。


「一緒に行きたいと」

「うん。……ダメかな?」

「いいよ」

「即答!?」

「俺はそんな嫌なやつじゃねーよ。振られたとしても、友達だ。断らんよ」

「ありがとう」

「俺からも一つ聞きたいことあるんだけどいいか?」


 今なら聞ける気がした。

 五十嵐が俺を振った理由を。


「うん。何かな?」

「なんで告白してない俺を振った?」

「……それはまだ言えない」


 なぜ!? もう言っちゃってもいいでしょ。でもまだダメなのね。了解です。


「じゃあ、旅行も連れてけないな」

「えっ……」


 なんで泣きそうな顔してんだよ。絶望しすぎではございませんか?

 そんなに俺達と旅行に行きたいのか。

 というか腕掴んで、抗議で体揺らすのやめてもらえませんかね……


「冗談だよ。本気にするな」

「……よかった」

「だが、一つ条件を出させて頂こう」

「私に出来ることなら良いんだけど」

「そのだな、今更感あるけど七里くんって呼ぶのやめてくれないか? 苗字で呼ばれるの慣れてないんだよ」

「じゃ、じゃあ……アヤトクン」

「名前の部分だけカタコトになってんぞ」

「だ、だって、急に名前呼びなんて緊張しちゃうじゃない」

「そうなのか?」

「そうだよ! じゃあ私のこともみのりちゃんみたいに名前で呼んでよ! 私だけ苗字じゃん!」


 なぜ俺まで名前で呼ばなくちゃならない。

 呼ぶなら、どう呼べば良いんだ?


『桜』 いやいや、急に呼び捨てとか図々しいし、馴れ馴れしい気がする。

『桜ちゃん』 なんか、チガウ。

『桜さん』 お、これだな。これが一番しっくりくる!


「良いでしょう。桜さん」

「はいダメ。なんでさん付け? 距離感感じちゃうんだけど」

「やっぱやめるか。呼び慣れた呼び方にしよ」

「何それ!? アヤトくんが先に言ってきたのに!」

「あ」

「あ、普通に言えたよ」

「すげーな五十嵐! コミュ力がお高い!」

「そこは桜でしょ! もう!」


 プンスカ怒っている五十嵐もまた可愛いのである。

 こんな可愛い友達がいるのも悪くないな。


「俺はいずれ呼ぶよ」

「うん。まあしょうがないね。わかった」

「んじゃ旅行の話はまた明日、肇とみのりに話せば良いだろ」

「わかった。じゃあまた明日だね」


 それから俺らは、教室に鞄を取りに戻り自宅に帰った。

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