第3話 姉は偉大。

「あれ? 彩人!? どうしたの!? 大丈夫!?」



「おお!?」



「だから! 彩人のこと好きなの!」



「き、急にそ、そないなこと言われると思いもせんやんけ! どないしたらええねん!?」



 動揺が止まらない。名古屋人なのに関西弁になってしまった。

 みのりが俺のこと好きだと!? 

 けど冗談だと思わないというか、思わせないくらいにみのりの目は真剣だった。


「そうだよね。そうなると分かってたよ。今すぐ付き合ってほしいとかじゃないから安心して。ただ、ずっと前から言おうと思ってたの。伝えたかった。でも1年の時に彩人が好きな人ができたって知っちゃって言えなくなったから……」



 段々と声が小さくなり、しゅんとしてしまった。

 先ほど言っていた、似ているようで似てない状況って言ってたのは、俺のことだったのか。



「ありがとう。素直に嬉しいよ。だけど返事はできない。それも分かった上で言っているんだろうけど」

「大丈夫! 返事はしてもらうつもりなんてないから」

「というかなんでこのタイミングなんだよ」

「そんなのは、チャンスだったから? やっと掴めたタイミングだったからかな。足枷が外れたからとでも言えばいいかな? 計算です。計算」


 おい。こいつ、可愛い顔して何言ってんだ。それ言っちゃったら、好感度下がっちゃうだろうが。下がらんけど。心広いから、俺。

 だが、みのりの好意は素直に嬉しかった。


「貴様、さては策士であるな?」


 とりあえず、先ほどの感謝を返していただきたい。いや、返せ!


「ふっふっふ。彩人、考えてることまで丸わかりよ。感謝は返しません」


 マジでこいつ。エスパーかよ……。怖ぇーよ。あ、なんだか寒気が……。


「じゃあ、私の話も終わったことだし、帰ろっか! はぁー。やっと言えたよー。スッキリした! 帰ろー!」


 ここまでくると、いっそ清々しいわ。


「おい、何一人でスッキリしてんだよ! こちとらモヤッとボール大量に投げてんぞ!」


 みのりってこんな奴だったか? 

 なんかいつもと違うような、違わないような。

 少しだけ、みのりのことが垣間見えた気がした。


「なんでこんな時間まで学校いたんだ? もしかして暇人?」

「へ? あ、うーんとね。彩人は帰れって言ってたけど待ってたの」

「なんで? あ、あれか! お前、どんだけお菓子食べたいん―――」

「違うわ! ばか!」


 物凄い勢いで叩かれる。

 漫才のツッコミ並みに手が飛んでくるのが早かった。


みのりはよく学校帰りうちに遊びに来てお菓子を食べて帰って行くのである。



 それから俺らは、他愛もない会話をしながら帰ったのであった。

 あの告白から意識しちゃって、あまりみのりの顔が見れなかったのは秘密である。

 彼女は結局家には来ず、その時初めて気持ちを伝えたかったことに気付いた。

 それにしても今日は、色々ありすぎてなんだか疲れた。


 まさかの告白。そしてまさかの告白。

 ふと、思い出す。


「俺、好きな人に振られたこと忘れてたわ」


 最後の最後がインパクト強すぎて、どうでも良くなってしまった。

 明日から俺は、みのりと普通に接することができるのだろうか。

 ちょっと今日、姉に相談してみよう。



*****



 家に帰ってから俺は自室へと入り、ベッドにダイブする。

 ねーちゃんが帰ってくるのは、17時くらいだったな。とりあえず連絡だけ入れておこう。

 メールを姉に送って、少し経った頃、俺は気絶するように寝てしまった。


「はっ! しまった! また寝てたよ!」


 時計を見ると、17時を回っており、姉が帰ってきていると思って、急いで一階へと降りる。

 タイミングよく玄関の開く音が聞こえた。


「ただいま」

「おかえり。待ってたよ」

「はぁ? 何?」


 メール見てないのかよ。見ろよ。


「メール送ったんだけど、見てくれよ……」

「あぁ! 本当じゃん。めんご! 気付かんかったわ」


 嘘をつけい! 携帯からイヤホンコードが繋がってるじゃないか。音楽再生する時に携帯見てますよね? これは意図的な無視ですよね? そうですよね? 

 と言いたいところではあるが、相談に乗ってもらう身だ。ここは言わないのが正解だ。


「とりあえず相談があるんだけど、お時間いいでしょうか」

「相談? それって時間かかる感じ? それなら着替えてからでいい?」

「時間がかかりますので、どうぞお着替えになってください」

「なんで敬語なんだよ。気持ち悪いな」


 今日は、何回キモいやら気持ち悪いと言われればいいのかしらん。そんなに俺キモいですか? キモいですね。否定はしません。

 それから姉は二階へと上がっていった。

 俺はリビングのソファーへ座り、話をまとめる。

 10分くらい経ち、階段を降りてくる音が聞こえてきた。


「おまたー」


 気だるそうな声とともにリビングへ入ってきて、俺の隣に座る。 

 そして俺を見るや否や、冷蔵庫に視線を移す。

 はいはい。飲み物を取ってこいってことですね。

 俺は立ち上がり、冷蔵庫へと歩いていく。


「とりあえずビールとつまみ」

「つまみは何がいいの?」

「生ハム!」

「いや、そんなもんねぇよ」


 逆になんであると思ったんだよ。家に生ハムなんてあったこと無いだろう……。

 とりあえずビールと漬物を取り、リビングまで運んでいく。


「はい。どうぞ」

「おう。サンキュー」


 カシュっと蓋を開け、美味しそうにグビグビと飲む。


「カァー! 仕事終わりの酒はうんめぇなぁ!」


 おっさんくさいな。だが、すごく美味しそうだ。


「美味そうだな。一口くれ」

「はぁ? 未成年はママの乳でも吸ってな!」

「そこはジュースじゃないのかよ……」


 流石、我が姉。口の悪さは親譲りだ。


「そんで? 話って何だった?」

「そうでした。あのですね―――」


 今日あったことを全て、事細かく話した。

 話している最中、姉はケラケラ笑っていた。


「彩人さぁ……ひぃー……腹いてぇ……はっはっはっ」


 腹を抱えて笑っている。


「彩人、お前最高に面白い話してくれるじゃないか!」

「そんなに面白い話じゃないんだけど……」

「まずさ、告白した訳でもいないのに振られるとか面白すぎるでしょ。人生色々あるって言うけどさ、その経験は中々にできることじゃ無いぞ」


 またもや腹を抱えながら笑っている。

 そんなに面白いことじゃねーだろ! 俺の身にもなれってんだ! 


「どうしたらいい? 全然わかんなくて……」

「私から言わせれば、そんなもんほっとけ! 今まで通りでいいんだよ。気にしすぎ! 逆にな、早めに分かって良かったじゃん。無駄に時間が失われるより、次にいけていいじゃないか」


 確かにそうだ。このままずっと好きでいても、告白したところで俺に勝ち目など、どうせないのだから。


「あとみのりちゃんね。やっと言ったかって感じだねぇ。若いっていいねぇ」

「え、ねーちゃん知ってたの!?」

「知ってるも何も、あんたといる時のみのりちゃん見てたら誰でもわかるよ。お前だけ、気付いてないの。どこの鈍感主人公だよ。うぜぇ」

「うざいは言い過ぎでは……」

「あのな、返事はまだいいって言われてるんだろ? だったら今まで通りに接してやれよ。お前が意識するのは当たり前だ。それでいいんだ。今まで見てこなかった、みのりをちゃんとその目で見てやれ」


 姉に強く言われ、ごもっともだと、それ以外に何も思わなかった。

 別に好きになれと言われている訳でもない、ただ宣言されただけであって、俺が絶対的に好きにならなければいけないということはない。


 避けてしまったら、みのりも気まずくなってしまうだろう。

 俺はみのりとの関係を壊したくない。大切な人だからな。傷つけるようなことはしたくない。

 彼女が俺の話を聞いてくれた事も、本当に心配してくれていたって分かっている。

 だぁーーー! 自分で言ってて訳がわかんなくなってきた。


 とにかく、俺は、五十嵐に振られた事よりも、みのりに告白された方が悩んでいるって事だけはわかる。

 まあ、今はそれでいいか。


「ねーちゃん。ありがと」

「おう。崇拝してくれても良いのだぞ?」

「しねーよ」


 姉はいつもこんな感じに適当なことをぶっこいているが、真剣な話であればいつだってちゃんと聞いてくれる。

 この人には敵わないな。といつも思わされる。


「なぁ彩人、話変わるんだけどさ」

「んー? 何?」

「高校生ってのは、人生に一度しかない。後悔しないように学園生活を送るんだぞ」

「急に何だよ」

「いや、いるんだよ。世の中には、あの時は楽しかったとか、後悔ばっかしてる奴。私はね、そういう奴が大嫌いだ」


 ビールを一口飲むと、また話を続ける。


「知ってるか? あの時は楽しかったっていう奴は、この先もずっとそうやって言い続けるんだよ」

「例えば、どういう事?」

「彩人に例えて言うとだな、友達が中学校の頃は楽しかった。って言ってきたらどう思う?」

「今はまるで、楽しくなさそう」

「そうだ。だが、そいつが大学に行ったらなんていうと思う?」

「高校の頃は……楽しかった?」

「正解。それは、社会人になって、定年を迎え退職しても、過去は楽しかったというんだ」

「楽しかったらそれでいいんじゃないの?」

「それは少し違う。結局の所、そいつはその時、その時が一番楽しかったということに気付けてないんだよ」


 ふり返ってばかりで、前を見れていない。その時を楽しんでたかと言われると何とも言えない。


「だからな、彩人。私が言いたいことは、今を存分に楽しめ。恋愛も勉強も遊びも全力で楽しんでいけ。今日みたいに振られることがあってもいいじゃないか。それも青春の一ページだ。高校はたくさんのイベントがあるだろ? とにかく全力で現在いまを楽しむべきだ。思春期で悪ぶって何もやらないやつに限ってそういうことを言うし、大人になって後悔するんだよ」


 すごい説得力だった。

 姉は現在を楽しんでる。

 俺も後悔しないように、楽しもうと思えた。


「かっけぇ。めっちゃカッコいいよ。ねーちゃん」


「謳歌せよ、青春!」


 うぜぇ。何ドヤ顔で決めポーズまでして言っちゃてるんだよ。それクラーク博士だよ。

 というかあんたが言っちゃうのか。

 

「あのさ、ねーちゃんモテるでしょ? そういうとこ以外は」

「正直、モテモテすぎて困っている。会社ではアイドルをやらしてもらってる」

「アイドルって何だよ」

「まあともかく、みのりちゃんの事もそうだが、とにかく楽しんでいけ。もし付き合うってなったら、二人で報告しにこいよ」

「善処します」

「話は終わりだな? んじゃあもう寝ろ」

「いや、まだ18時だから……」


 それからという時間は、あっという間に過ぎ、俺は眠りについた。



*****



 次の日の朝、寝坊する事なく起きることができた。


「んー。眠い。けど今日も一日がんば―――」


 その瞬間、がんっ!!! と勢いよく扉が開く。

 気持ちよく伸びをしていたが、そのままの体勢で固まってしまった。

 なぜならそこには、鬼の形相をした姉が立っている。


「何か用でしょうか、お姉様……」

「お前さあ! 毎朝毎朝、朝早くから大音量でアラームガンガン鳴らしてんじゃねぇよ! 起きねぇくせにうるせぇんだよ。ぶち殺すぞ!」

「ほ、本当に申し訳ございませんでしたっ!!」


 秒で土下座。


「6時に起きる必要ねぇだろーが。次やったら、お前の大切なものが無くなると思え」

「すみませんでしたっ! 以後、気をつけますというかもう二度としませんっ!!」


 そう言い放って、姉はドカドカと足音を立てて出て行った。 


 はぁぁ……。マジで怖かった。鬼ババだった。こりゃ桃太郎さんもびっくりして、鬼ヶ島行くのやめちゃうレベル。


「さぁ、気を取り直して、今日もがんば―――」

「だからうるせぇ!!」


 壁ドンとともに、隣の部屋から怒鳴り声が聞こえてきたのだった。


 一階におり、朝のニュースを見ながらご飯を食べる。

 もうじき、今日の占いの時間だ。

 今日こそは、いい運勢であれと願いながら見ていた。

 『第6位は……蟹座のあなたー!』

 全くもって普通じゃねぇか。いや、普通でいいんだけどよ。


 そして学校へ行く準備を整え、玄関に向かう。

 玄関の前で深呼吸。 


「大丈夫。楽しめ俺!」


 自分に言い聞かせ、玄関を開けた。







「おはよう! 彩人! 一緒に学校いこ!」 







 いつも通り変わらない日常の光景なのに。











 何かが、違って見えた。

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