謳歌せよ、青春!

山下大志

第1章

第1話 何とも言えない新学期

「——私好きな人がいるの。だから七里くんとは付き合えない」

 



それだけ言って、彼女はその場から立ち去った。




俺告白してないんですけど……



*****




遡る事、数時間前——




携帯のアラームが鳴り響く。手探りで携帯を探してボタンを押し止めた。

 ぼんやりとした目で画面を覗く。


「まだ6時か……」


 そう呟き、また寝てしまっていた。

 そして再びけたたましい音がなり、体がビクッと反応し起き上がって時間を確認する。


「やばっ! 7時15分じゃん! 遅刻しちまう!」


 あれから1時間以上も寝てしまっていた。

 慌てて俺は制服に着替え、歯磨きをし、冷たい水で顔を洗い目を覚まし、家を出る準備をした。

 今日から新学期であり、高校2年の春が始まろうとしている。新しいクラスに胸をときめかせ、あの子と同じクラスになれるかなと考えるとドキがムネムネする。

 そんな気持ちを抱きながら朝ご飯も食べずに家を出る。

 玄関を出ると、開口一番に怒鳴られた。


「遅い! 七里彩人ななさとあやと! 何やってんのよ! 遅刻するじゃない!」


 朝一から怒ってくるこの女の子は、三橋みつはしみのり。

 黒髪ボブヘアーで、目もクリックリッ! 身長は小柄で、高校2年の平均身長の俺と並ぶと頭が俺の肩の位置ら辺である。胸はそうだな。うん。人並み。

 最後に一つ、フルネームで呼ぶな。

 彼女とは幼い頃からの知り合いであり、家は隣だ。

 幼、小、中、高とずっと同じところに通っている。どこぞのラブコメだよ。

 学校が同じなので、いつも一緒に通学している。

 言っておくけど、付き合ってないからね!


「ちょっと聞いてんの!? 彩人!」


 ふと我に返る。


「おー悪い悪い。すげー聞いてるよ」

「絶対聞いてない。私の体を舐め回すように見てたもん。正直、気持ち悪かった」

「ぐっ……すいません。見てました。小さいなーと思って」

「サイテー」

「ちょちょちょっ! そっちじゃないよ! あっちのことだよ!」

「どっちの事よ! ……もういいよ。早く行こ。遅刻しちゃうよ」


 呆れて歩き始めていってしまう。


「んじゃ行きますか」


 そう答えて俺もみのりの後ろをとぼとぼと歩き始めた。

 学校までは地下鉄の名城線を利用して、通学している。学校までは大体30分くらいで着く。

 我が校、愛名あいめい高校は偏差値はそんなに高いわけではない。普通ってとこである。

 だが、学校が設立されたから間もないことと制服が可愛いとかで結構人気の高校だ。

 俺はただ近くの高校がよかったから、この愛名高校を選んだだけで、他意はない。

 乗り換えもないから、通学は楽な方である。

 ほら、どっかの先生も社会人になったら会社の近くに住んだ方がいいとか言ってたし。それと一緒だ。

 

 地下鉄に着き、運よく電車に乗り込むことができた。


 突然肩を叩かれ、ちょいちょいと手招きをする。耳を貸せってことか? と顔を寄せる。

 少し背伸びをして、囁く。


「あのさ、今年も一緒のクラスになれるといいね」


 耳元で囁かれ、突然言われるとどうも気恥ずかしくなり、ビクッと顔を離した。みのりの顔を見るとクスクスと笑っている。そしてこう言ってくるのだ。


「どお? ちょっとはドキッとした?」

「からかうなよ。全然ドキドキしてない。運が良ければ一緒のクラスになれるんじゃね?」


 そううそぶきながら電車の窓に映る自分の顔をみると少し火照っていた。


「私ね、今日占い1位だったの! 多分同じクラスだよ!」


 とても嬉しそうに言ってくる。おぉ……1位いいなぁ。今日の運勢、見る時間無かったもんなぁ……。

 俺は何位だったんだろうか……。


「因みに彩人は何位だったと思う?」

「そうだな。みのりが1位という事は、俺はあまり運勢がよくないという事だったよな……9位くらいか?」

「ざんねーーん! 正解は……最下位でした!」

「何でそんなに嬉しそうなんだよ。それにしても最下位か。マジで最悪だな」


 火照っていた顔が一気に冷めていく。沈んだ気分でいると、最寄り駅に着き電車を降りた。




 学校に辿り着き校門をくぐって中庭の方を見ていると人集りができていた。


「クラス分けが張り出されているのはあそこだな。よし。見にいくか」

「うん! 一緒だといいね」


 人を掻き分けて前の方に進んで行く。


「俺は1組の方から見てくからみのりは7組から見てってくれ」

「オッケー!」


 1組には2人の名前がなく、続いて2組を見て行く。

 すると隣からはみのりが大きな独り言が聞こえてくる。


「7組ないなー。あー6組もないー。どこー」


 黙って探せんのかい。と思いつつも自分は2組の続きを見ていく。


「あ、俺の名前あった」

「何組?」

「2組だった」

「私の名前も2組で探して見よーっと」


 別に俺が探せばよくない? と一瞥いちべつするとバシバシと腕を叩かれた。


「痛てーよ。何だよ。いつまで叩いてんだよ」

「私も2組だよ! 一緒! よかったね!」


 何がよかった『ね!』なの? 『ね!』いらないよ。『よかった!』の間違いでしょ。全く……。

 俺は自意識過剰か。自分で考えて恥ずかしくなる。女子の名前の方を見てみるか。

 張り出されている名前を上から順に見てると、そこにはなんと!! 

 俺の好きな人『五十嵐桜いがらしさくら』の名前があった。

 キャー!! とても嬉しい!! 2年間も同じクラスになれるなんて、本当に私の運勢は最下位なのかしら!!

 実は俺の運勢の事、嘘付いてないかね? みのりさん?

 とまあそんなことはどうでも良く、ただ目の前の現実が嬉しくて、つい小さくガッツポーズする。


「よし」


 声に出てしまった……。やべ……もしかして聞こえちゃったかな? 大丈夫かな?

 みのりの方に目をやるとこちらをガン見している。

 ねえ、顔がお怖いですよ? そんな顔しているとモテませんよ。


「何ガッツポーズしながら、『よし』とか言ってんの?」


 めっちゃ聞こえてたーーー!! でもって、声低っ! マジトーンやめて……。


「え? 別に? あ、ほられんもいるしよかったなーって」

「またまた。そんな事言わなくてもわかってるよ? 桜ちゃんが一緒だからでしょ?」


 ななななっ! なぜ知っているるる! 俺は何も言ってないぞ! 何この人めっちゃ怖い! 心の中読まないでくだしゃい! エスパーでしゅかぁ!?


「ち、ちちち違うし!!」

「動揺しすぎだし。バレバレ」

「ま、まああれだ。クラスに華があると良いというか何というか」


 自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。俺の弁解能力と語彙力が皆無すぎる。笑って誤魔化すしか方法がない!


「何その言い訳。意味わかんないよ」

「あはははは……」


 ……誰か! 助けて! 何か、話をそらす話題をぉ!!

 そんな事を思っていると―――


「えーくん! おっはよー! そして久しぶりぃー!」


 後ろから大きい声と共にすごい勢いでのしかかってくる。ナイスタイミング! だが、重い!


「肇、とてもナイスタイミングなんだが、重いからどけ」

「ナイスタイミング? あー! 女の子に重いって言っちゃダメよぉ!」

「いつから女の子になっちゃたんだよ……。てか早くどけ」


 このしょーもない事を言っている男は、『西島肇にしじまはじめ

 小学校からの同級生でうざいくらいテンションが高い。髪は短く、少しばかり切れ目で身長は俺よりでかい。ピアスとか開けちゃってる系。ぱっと見チャラい感じだが、童貞である。もう一度言おう、だ!


 彼がなぜ俺乗っことをえーくんと呼ぶのかは、頭文字がAから始まるからだとかなんとか。くだらない理由だ。


「肇くん! おはよ!」

「みのりちゃん! おはよ!」


 この二人は去年も同じクラスであり、俺の好きな『五十嵐桜』も同じだった。

 俺は肇と、みのりは五十嵐と互いに仲が良かった為、休み時間はたまに話していたもんだ。

 正直、みのりには感謝している。五十嵐と仲良しでありがとうと。マジ感謝。


「さてさてー、俺のクラスはどこでしたかー?」

「あー、……残念だったね。5組だったかな。私達とは同じクラスじゃないんだよねぇ」


 俺はみのりの一言で全てを察した。視線だけで会話しコクリと頷く。


「どんまい肇。ひとりぼっちでも頑張れよな」

「え!? マジで? 俺だけ違うクラス!? え、え、えええぇぇ!」


 いやー、こいつ改めて思うけど、本当にうるさいな。少しは場を考えてくれ。すごい注目されてるから。何々? みたいな感じで見られちゃってるから。恥ずかしからやめて……。


「5組かぁ、誰がいるか見てから行くかぁ……」

「んじゃ俺らは教室に行くからまた後でな」

「肇くん! 『』後でね!」

 


*****



 教室につき自分の席についた。黒板に席順が書いてあるので、その書いてある場所に座るだけである。

 俺の席はラッキーな事に1番後ろから2番目の窓側であった。

 後ろはの席は肇であり、右斜め前にはみのりもいた。

 一息つき、鞄から筆記用具を出し、机の中にしまう。

 その時、筆箱が何かに当たった。何も入っていないはずなのに、何かがある。俺は恐る恐る机の中を覗いた。


「ん? ……手紙?」


 綺麗に封されている手紙が出てきた。

 これはもしや、ラブレター? マジか。マジなのか。と、とりあえず読んでみるか。

 ……まさかカッターの刃とか入ってないよな?

 内心ビビりながら、封を切る。内容は……っと


『放課後、中庭のベンチにきてください』


 シンプル! 実に簡易的! てか、内容しか書かれてないんだけど。

 ……名前は? 名前を書けよ。名前。来て欲しいのはすごく伝わるけども……。

 まぁいいだろう。行ってやるか。悪戯かもしれないけど。

 大体の男は、この手に引っかかる。嬉しいんだよな、手紙が入ってるだけで。ワクワクするもん。

 正直、悪戯だって思わないもん。

 わくわくしながら手紙をカバンにしまい、顔を上げると目の前に人が立っていた。


「えーくん。みのりちゃん。お前ら二人して俺を騙したなぁ!」

「ごめんごめん! ちょっと悪戯しちゃった!」


 てへぺろと自分でげんこつポーズをとり、舌を出してあざとく言う。


「うわっ! 可愛いから許す!」


 え、なにそれ! 俺もみのりに倣って、同じ事を見様見真似でやってみた。


「えーくん……きもいわ」

「彩人……気持ち悪い……」


 辛辣!! 流石の俺も傷つく!! 


 そんな事をしているとチャイムが鳴り、担任の先生が入って来た。


「んじゃーホームルーム始めるぞー」


 今年の担任は去年と一緒の木村先生だった。まあまあ人気の先生だ。

 気さくで、ノリが良くて、さらに生徒の話も親身になって聞いてくれる。

 そんな先生である。頭はツルツルだけどね。

 

 先生の一言で、教室は静まりHRが始まった。

 そのHRでなぜか俺は学級委員に決められ、嬉しい事に女子は五十嵐だった。

 


*****



 学校が終わり、お俺は手紙で伝えられた通り中庭に着き、備え付けのベンチに腰掛けていた。

 中庭には桜の木が等間隔に植えつけられており、鮮やかなピンク色に染まっている。

 空を見上げると木々の隙間から見える空が綺麗だ。

 風が吹けば桜が舞い、まるで風景画を見ているようだった。


「そんなことより、誰も来ないなぁ」


 誰が呼び出したのだろう。クラスの子はほとんど知らない子だしなぁ。

 もしかして一年の頃から密かに俺に思いをよせていた子だったりして。友達からでいいので私と……みたいな展開になったりして。

 それから十分くらい経ち、突然ヒヤリと冷たいものが頬に当てられた。


「冷たっ!」


 頬にはキンキンに冷えた缶のジュースが当てられていた。


「ふふっ。おつかれさま。ジュースあげる」

「五十嵐!? あ、ありがとう」


 びっくりした。まさか五十嵐にこんな事されるとは思わなかった。

 そう言いながら、俺の隣に腰掛ける。


 ジュースを飲み一息つくと、五十嵐が口を開いた。


「あのさ、手紙……。手紙を見てくれたから、ここにいるんだよね?」


 小さな声で話してくる。


「何だ。あの手紙は五十嵐だったのか」


 えー! まじか! マジなのかぁー! これ告白されるやつかぁー!

 何で俺は何も気にしてない感じで言えてるんだ。普通驚くとこだろう!

 だがここは、冷静に平静を装っていこう。クールを決め込んでいく事で大人の余裕をみせる。これに限る。


「その反応はちょっと意外だったよ。もっと驚くかと思った」

「驚いてるよ。まず名前も書いてないし、悪戯いたずらかと思ったよ」

「あれ!? 私名前書き忘れてた!?」

「内容しか書いてなかったぞ」

「それはごめんね。書いたつもりでいたよー」

「それで、話って何だった?」


「突然だけど私ね、知ってるの。七里くんが私のこと好きって事」

「へ?」

「ほら、友達とかそう言う話好きだから」


 なぜだろう、俺の恋はいろんな人にバレてるの? ましてや本人の耳にも入っている。

 この話の先が全く読めなくて俺は困惑していた。


「あのね―――」

「待って。いや、待った! 心の準備させてくれ!」


 何だ。本当に話が読めない。俺が好きなことを本人も知っている。

 そうとなったらこれは告白? それとも何? 本当に何? 全っ然わからない。

 考えても考えてもわからない。思考が止まる。


「もういいかな?」

「悪い。話してくれ」



「私、好きな人がいるの。だから七里くんとは付き合えない」



 俺は言葉を失った。頭の中が真っ白になった。



「ごめんね。仲のいい友達でいて欲しいなって思っているから。そういうことだから。私いくね」


 そう言うと、彼女はそこから立ち去ってしまった。

 俺は何も言えなかった。ただ困惑していた。記憶が飛んでしまって、もしかして口が滑って告白してしまったのかとさえ思った。





 俺、告白してないんですけど。……どういうこと?

 




 こうして俺の高校2年の新生活が始まったのであった。

 テレビ占いって本当に当たるんだな。まさか告白もしてないのに振られるとは。

 しかも好きな人に。

 はあぁ~。と大きな溜息がでた。

 空を見上げると、桜が風に吹かれて舞い散る。

 



 それと同時に、涙が頬を伝った。

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