第136話 魔力0の大賢者、五犬の塔に挑む

「あれが五犬の塔だね~」

「コボルトがあんなものを建てるなんてびっくりです」

「ビービー!」


 僕は獣使いの一族に場所を聞いて塔の近くまでやってきた。何人か戦士をつけましょうか? とは言われたけどとりあえず僕が様子を見てみるってことで来てみたんだ。


 勿論問題なさそうなら僕の方で挑んちゃうけど。ハニーはせっかく来たのだし、そもそも家の蜂の問題なのに黙って待っていられないということで同行してくれた。


「コボルトが彷徨いているね」

「うん、塔を守っているコボルト兵達のようだね」


 森の中の広々とした空間に塔があった。川を背にして建っているんだけど、本来塔の後ろに橋があって向こう岸へ渡れるようになっているわけだ。川幅が広いし深いから普通は橋を利用しないと向こう岸へ渡れないんだとか。


 だから塔がある限り進化の実であるローヤルフラワーが手に入らないってことなんだろうね。


 実際のところは、ハニーは蜂に乗れば川を渡れるし僕もなんとか出来るんだけど、それを言ったら元も子もないし、困っているなら助けてあげたいって気持ちは本当だ。


 というわけで塔に挑もうとは思うけど。


「先ずは目の前のコボルトをどうにかしないとね」

「大賢者様、それなら私とビーダーにお任せを!」

「え? ハニーとビーダーだけでってこと?」

「はい。勿論大賢者様の魔法であればあっという間かもしれないけど、こんなところで余計な魔力を使っては塔での戦いに影響が出るかもしれないし、だから露払いは私達に任せて!」


 ハニーが真剣な目で訴えてきた。ビーダーも張り切ってそうだ。


 ただ、僕には魔力がないからね。全くその心配は不要だったりする。それにやっぱり女の子1人だけというのもね。


「気持ちは嬉しいけど、やっぱり心配だから――」

「ならば我々も一緒ならいかがですかな?」

 

 ハニーとビーダーだけにお任せというのも無責任な気がするな~と思っていた僕だけど、そこにやってきたのは獣使いの村で門番をやっていた2人だった。


「あれ? どうして?」

「我々の村の問題に取り組んで頂いているのに黙って見ているだけとはいきませんからね」

「大賢者様にお任せっきりでそれまでよではあまりに無責任が過ぎますから。ですので露払いは我々にお任せを」

「そういうわけだからお前も引き返していいぞ?」

「冗談じゃないです! 獣使いの一族に負けていられませんから!」

「ビービー!」

「グルル!」

「キキーキキー!」


 何か互いにライバル心を燃やしているようだね。そして獣使いの2人は狼と猿タイプの魔物を使役している。


 う~ん、でもここまで言ってくれるなら、流石に無下には出来ないかな。


「うん、わかったよ。それなら、ここは任せてもいいかな?」

「勿論です!」

「獣使いの力、蟲使いのお嬢ちゃんに見せつけてやんよ」

「そっちこそ、私とビーダーの連携に驚かないことね!」


 何か競い合う気満々みたいだけど、憎まれ口を叩きあっているってところかな。意外と上手くやるかもしれないね。


 というわけで、獣使いの2人とハニーにここは任せて、僕は単身五犬の塔に向かうことにした。






◇◆◇


「頼もー!」


 僕は先ず塔の1階に足を踏み入れた。律儀に下からいくこともない気がしたけど、こういうのはやっぱり礼儀だからね。


「何だ、また性懲りもなくやってきたのか人間」


 塔の中に入ると、やたらと巨大なコボルトが出迎えてくれたよ。凄いねこれ、1階部分の天井に頭がついちゃってるよ。コボルトはゴブリンより背は高いけど、それでもここまでは中々いないよ。


「俺様は五犬の塔を守る四犬王が1人、グレートデーン様だ!」

 

 自分を指差しながらグレートデーンが言った。鼻息を荒くして大きな戦斧を肩に担いだ。


「しかし、お前ちっこいな。豆粒みたいじゃねーか。ガウガウガウ、奴らもいよいよなりふり構わなくなったか。こんなチビを寄越すなんてな」

「君と比べたら大体小さい気がするけどね」

「ガウガウガウ、ちがいねー。だがお前は小さすぎだ。鼻息だけで吹き飛びそうじゃねーか」


 目を眇めて小馬鹿にしてきているね。これだけ大きいなら気も大きくなるのかな? でも、確か村の戦士は彼にやられて上にいけなかったんだよね。


「それで、どうするんだ? やんのか?」

「うん、やるよ。そのために来たんだし」

「ガウガウガウ、威勢だけはいいようだな。まぁいい。だったらおまけだ、腹に一発だけくれてやる。ハンデって奴だな」

「え? 別にいいよそんなの」

「おいおい、こっちの身にもなってくれよ。俺様はコボルト四犬王一の怪力で通ってんだ。お前みたいなちびっこいの相手にハンデも与えなかったら上の連中にわらわれちまう。だからさっさと打ってこい!」


 え~……う~ん、あまりそういうの好きじゃないんだけどね。でもやらないと納得しないみたいだし、仕方ないな。


「なら、軽くね」

「馬鹿いえ、思いっきりこい」

「じゃあいくよ?」

「ガウガウガウ、どんっと来い!」

「じゃあ、はい一発!」

「ガブオォオオォオオオオオオオオォオオォオオオウウゥウウゥウウウウ!?」


 体も大きいし、かなり自信もありそうだったから、素手で一発殴るぐらいなら平気なんだろうなと思ったのだけど、何やらすごくいい音がして、グレートデーンの目玉が飛び出しそうな勢いで見開かれて、そして壁を破壊して更に向こうまで飛んでいっちゃったよ。


 てか、あれ? 終わり? 本当に?


 う~ん、さては僕が子どもだからって本当に油断してたんだね。油断は大敵だよね~。

 

 まぁいいや。そのまま奥の階段を使って僕は2階に上がった。


「……なんだお前は。一体どこから入り込んだ?」

「え? 下から階段で上がってきたんだけど……」


 2階に来たけど、今度は長身痩躯のコボルトがいて、問いかけられたよ。だから答えたら、馬鹿な、と不思議そうに僕を眺めてきて。


「下にはグレートデーンがいたはずだが?」

「うん、いたね」

「……まさかあいつ面倒臭がって戦わなかったのか?」

「ううん、戦って一応倒したんだけど……」

「なんだと?」


 そして改めてそのコボルトが僕をまじまじと見て。


「ふん、あの馬鹿油断しおって」


 そんなことを吐き捨てるように言った。あぁ、やっぱりそうか。油断だったんだね。


「ここは君が守っているんだよね?」

「そうだ」


 そしてそのコボルトは壁にかけてあった槍を手にとった。かなり長い槍だね。真ん中に立てば一突きで余裕で壁まで届きそうだよ。


「まさかこれを使う日がくるとはな。言っておくがあいつはパワーだけしか脳のない駄犬。四犬王でも最弱。しかしこの我、コボルト四犬王一の技を有し槍使いのハスキーは奴とは違う。貴様など一捻りにしてくれるわ!」

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