第134話 魔力0の大賢者、大婆に会う

 僕は蟲使いの一族のハニーや大長老様と一緒に獣使いの一族が暮らす村までやってきた。


 蟲使いの一族と獣使いの一族はどうやら昔から仲が悪いらしくて門の前で既に剣呑は雰囲気を感じた程だった。そこで大長老様が自分に任せて欲しいと門番と話し始めたのだけど、取り合っては貰えなかった。


 ただ――


「何度も言わせるな。今はお前らのような連中の相手をしている場合ではないのだ!」


 大長老様が頼み込んでるのだけど、門番は首を縦に振らなかった。でも、やっぱり気になるね。場合じゃないってことは獣使いの一族も何か問題を抱えているのかも知れない。


「あの、もしかして何か退っ引きならない事態でも起きているのでしょうか?」

「何だ貴様は?」

「何かと思えばまだ子どもではないか。全く蟲使いの一族は呑気なものだな」

「とにかく、子どもが首を突っ込むようなことではない! 立場をわきまえろ!」

 

 な、何か凄い剣幕で怒られてしまった。確かに僕には細かい事情はわからないけどね。


「何と言う無礼な! 大賢者様に向かって失礼が過ぎますよ!」


 だけど、それを聞いていたハニーが前に出て門番2人に向けて声を荒げた。いや、ハニー、それを今言ってもね……大賢者と言われても当然彼らにはピンっとこないだろうし。


「何! 大賢者だと!」

「大賢者というと、あのゴブリンシーザーを倒したと噂されるあの大賢者か!」

「ふふん、それは噂じゃなくて事実なのです。私がこの目でみたのですから断言できます!」


 門番の2人が顔を見合わせ、何か話し合いを始めた。て、あれ? 獣使いの一族まで、ゴブリンとのこと知ってるの?


 蟲使いの一族とはこれまでの付き合いがあるから、大賢者と呼ばれたりもしていたんだけど、この広い森の別種族にまで伝わっているとは思わなかったよ……。


 でも、ゴブリンシーザーを倒したのが僕だと知った途端、門番の様子が変わったね。


「――すまないが少し待ってもらえるか? こちらも大婆様に確認して参る」


 そして、何かちょっと言葉が丁寧になった気もするけど、さっきまでと違って門前払いって空気ではなくなったね。でも大婆様か。獣使いの村では女性なんだね。


「大婆というとあやつか……」

「貴様、失礼であろう!」

「何が失礼なものか。あやつのことはお前みたいな若造よりわしの方が良く知っとるわい」


 門番に文句を言われるも大長老様が言い返した。どうやら顔見知りなようだね。そして門番の1人が村に入っていった。もしかしたらその大婆様に許可を貰いに行っているのかも知れない。


 そしてしばらくして、一旦席を外した門番が戻ってきた。


「……先ずは先程の無礼を謝罪させて欲しい。まさかかの有名な大賢者様とは露知らず、失礼な口の聞き方をしてしまった。本当に申し訳ない」

「そんな! 僕は気にしてませんから頭を上げてください!」


 何か急に僕へ向けて深々と頭を下げてきたから驚いちゃったよ。とにかく僕の気持ちを伝えて頭を上げてもらう。


「大賢者様、あのようなことを言っておきながら調子がいいと思われるかも知れませんが、大賢者様にお会いしたいと大婆様が言われてまして。会っては頂けませんか?」

「ふん、全く調子のいいことじゃわい」

「大長老様、ここは抑えて――」


 こっちの大長老様が鼻を鳴らして不機嫌そうに言ったけど、こっちとしては村にお願いして進化の実を探させてもらう必要があったし願ったり叶ったりなんだよね。


「こちらもお会いできるのなら光栄です」

「ありがとうございます。それではどうぞこちらへ。ご案内致します」

「一応聞くがわしらも良いのじゃろうな?」

「……大賢者様の連れとあっては仕方あるまい」


 え~と、どちらかと言えば僕が2人の連れみたいなものなんだけどな……。


 そして僕たちは門番の人に連れられて村の中に入った。村の広さは蟲一族の村と同じぐらいだね。


「ふん、相変わらず狭苦しい村じゃな。華もないし、わしらの村と比べたら随分と遅れておる」

「蟲臭い村と一緒にするな。それにこの村は獣が走り回れるぐらい広く、獣が好んで住み着くぐらい美しい自然に溢れている」

「ちょっと蟲臭いって酷くないですか、それを言うならここだって獣臭いんだし!」

「何だと!」


 案内してくれている男性とハニーとでいがみ合いが始まってしまった。ほ、本当に仲があまり良くないんだね……。


「あ、あの、僕はどちらの村も好きですよ」

「おお、大賢者様にそう言われるとはなんたる光栄なことか」

「大賢者様から褒められるなんてすごく嬉しいです!」

「ふむ、わしが言うのもなんじゃが、仲の悪い一族同士が大賢者様の一言でこうも変わるとは流石としか言えんわい」


 いや、そこまでのことを言ったつもりもなかったんだけどな……。


「ここに大婆様がおられます。どうぞこちらへ」

「ビーダーは大人しく待っていてね」

「ビ~」


 そして僕たちは村の奥にある屋敷に招かれた。 流石に家の中にまで大きな蜂は入れないから、外で待ってもらいつつ中に入る。


 藁葺き屋根の家だけど、結構広い。そして全体的に風通りが良い作りらしく、廊下を歩いていると心地よい風が僕たちの頬を撫でていった。


「大婆様、大賢者様をお連れいたしました」

「……うむ」


 そして横開きの扉を開けて僕たちは部屋にお邪魔させて貰った。


 部屋は床に直接座るタイプの部屋であり、部屋の奥には1人の老婆が座っていた。あれは正座という座り方だね。


 白髪のお婆ちゃんで、大長老様と比べると背筋もピンっとしている。


「ようこそおいでくださいました大賢者様。そして久し振りだなカイバルよ」


 カイバル……それが大長老様の名前なんだね。そういえば聞いていなかったな。


「ふん、クリタの婆婆もな。しかし、老けたな貴様は」

「ふん、あんたこそ、腰が曲がってみっともないね。いつも虫みたいに背中を丸めてるからそうなるんだよ」

「何だと、貴様こそ相変わらず獣みたいな可愛げのない目をしおってからに!」

「これは生まれつきだよ!」


 な、何かいがみ合いが始まった。結局こうなるのか。でも、なんだろう仲が悪いというのとはまた違う気がするね。どっちかというと喧嘩友だちみたいなそんな雰囲気もあるよ。


「やれやれ、私はあんたなんかと喧嘩するために呼んだんじゃないんだよ。大賢者様も、お見苦しいものを見せてしまって申しありませんね」

「いえいえ、お気になさらず。そしてお初にお目にかかります。マゼル・ローランと申します」

「これはこれはご丁寧に。かの伝説の大賢者様の生まれ変わりとされる御方にお会いできる日が来るとは。長生きはするものだね」

 

 そう言って微笑みかけてくれた。大長老様はあぁ言っていたけど、確かに吊り上がり気味の瞳ではあるけど、優しい顔をしていると思うな。


「時に、大賢者様はそこの爺と何か目的があってこの村に来たそうですが――」

「誰が爺だ誰が」

「あんたはどう見ても爺だろさ。それで、大賢者様をわざわざお連れしてまで一体何の用なんだい?」


 大長老が文句を言うと大婆様が言い返し、そして話を大長老様に振った。


「……やれやれ仕方あるまい。実はのう――」


 そして大長老様がここまで来た理由を話して聞かせたわけだけど。


「なるほど、進化の実ローヤルフラワーがこの辺りにね」

「はい。それでどうか進化の実を探す許可を頂けないかと思いまして」

「ふむ……」


 話を聞き、大婆様が顎に指を添えて一考する。するとハニーが前のめりになり。


「お願いします、進化の実がないと私の大事なハニーが死んでしまうのです! なのでどうか!」

「……のう、その何じゃ。一族同士色々とあったしいがみ合っても来たが、この子もこう言っておる。何とか協力してくれないか?」


 ハニーが頭を下げ、大長老様も縋るように言った。僕からも改めてお願いしようとしたところで大婆様が手を広げて僕たちの前に突き出した。


「よしなよ。誰も嫌だなんて言ってないさ。折角こうして大賢者様がいらしたのだしね。ただ、こっちも問題を抱えていてね」

「問題……門番の方も同じことを言われてましたが、それは一体どのような問題なのか宜しければお聞かせ頂いても宜しいですか?」

「……うむ、だがその前に一つ。実はね。恥ずかしい話なんだけど、私はもしかしたら大賢者様ならこの問題を解決してくれるのではと考えてしまってね。勿論ひと目会ってみたいと思ったのは嘘偽りのない事実だけど、そういった打算的考えがあったのもまた事実なのさ」


 僕で解決できること……そうだったのか。


「はは、それならそう言って頂ければ。それに打算だなんて思いませんよ。僕たちの方からお願いしに来ているわけですし、僕で役に立つことならどうぞ遠慮なさらず」


 そこまで話すと、大婆様がありがとうと先ず口にしてくれて、更に続けた。


「――そう言ってもらえると。なら恥を忍んでお話致しますが――実は今この村はコボルトに悩まされていてね……」

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