第121話 魔力0の大賢者、てんやわんやの大慌て

 ファンファンを連れて僕は街道に残された匂いや気配を頼りに王都の地下水路までやってきた。どこから入ったかはすぐにわかったよ。鍵が空いていたからね。


 水路に入ってしまえば気配がより濃くなったから近いって理解した。そして案の定、そこには倒れたヘンリーや騎士たち、黒い格好して妙な仮面をかぶった連中も倒れていた。


 更に奥には倒れている連中の仲間と思われる仮面の男が3人いて、一番奥ではアリエルが今にも剣で切られそうといった状況だった。


 こうしちゃいられないと、僕は地面を蹴って一気に加速、どう考えても悪い人だからね、仮面の2人は衝撃で左右に飛ばして壁に叩きつけ、アリエルを救出した。


 するとアリエルが泣きながら抱きついてきて、ちょっと弱ってしまったよ。でも、それだけ怖かったってことだよね。自然と彼女の頭に手が伸びてよしよしと撫でてしまっていた。


 でもこれ、大丈夫だったかな? 失礼にあたらなければいいけど、何か途中から顔が赤かったし怒ってたら、後で謝らないとなと思ったよ。


 それはそれとして残った1人は、どうやらこの倒れている連中のボスっぽい人なようだ。マサツとかいう名前で教団の5位で神官なんだとか。


 怪しげな教団でも格付けというのはあるんだね。そして随分と自信たっぷりに僕を挑発してくる。


 正直聞いてても理解できないね。凄く自分勝手だし。だけど1つ確実なのは、この魔狩教団とマサツは僕が大事に思っている皆を傷つけたということだ。それは絶対に許されないよ。


 ヘンリーが教えてくれた。マサツは魔法が切れるって。マサツが言った、だから僕は絶対に勝てないって。


 でもそんなことはありえない。だって僕はそもそも魔法をつかっていない。いくら魔法が切れたところで僕の攻撃は防げないよ。


 だけど、こいつは、王国騎士のレイサさんが扱う魔法剣やヘンリーの雷鳴魔法を切ったと得意になって言ってそして馬鹿にした。


 僕のは魔法じゃないけど、魔法だと思っているなら、2人の分もしっかり返してやろうと思った。だから物理的に電撃を拳に纏って、真っすぐ歩いていって殴ることにした。実は僕、結構頭にきてたりするんだよね。そんな自分勝手な理由で皆を危険に晒したことを。


 近づくとマサツが僕を小馬鹿にしながら剣を振ってきたけど、そんなもの避けるまでもない。ほら、折れた。そしてもう1本の剣で喉を狙ってきたけど、それも通らない。粉々に粉砕されて灰となった。


 そこまで見て、マサツもやっと自分の技が効かないと悟ったようだけど、もう遅い。僕の拳がマサツの腹部にめり込んだ。電撃が腹から全身に掛けて流れていき、焦げ臭い匂いを残して吹っ飛んでいく。奇声を漏らしながら、口から色んなものを吐き出しながら、壁に叩きつけられた。


 壁が大きく凹んだよ。壁の中にめり込んだマサツの手足はダランっと落ちて、完全に意識を失っていた。勿論死んではいないよ。罰はしっかり生きて受けるべきだ。


 とは言え――改めて水路を見る。マサツや仮面の黒服が壁にめり込んでいた。うん、僕がやったんだけどね。え~と……よく考えたらこれ、王都の水路の壁、だよね?


「あ、あれ? もしかして僕、やりすぎちゃったかな?」

「マゼル!」


 見るとヘンリーとアリエル、騎士の皆が駆け寄ってきた。お、怒られるかな?


「ご、ごめんなさい!」

「は? いや、何で謝っているんだい?」

「いや、壁が結構めちゃくちゃだから……」

「そんなことで謝るなんてありえないわ!」

「ちゅ~!」


 あぁよかった。それで怒ってはいないんだ。思わず胸をなでおろす。


「マゼルくんって、そういうところがちょっと抜けてるわよね」

「いやしかし、壁の修理代も馬鹿にならな無いのも確か」

「バカモン、そういうのはいいのだ。我々は助けて頂いたのぞ。全くまだ子どもだと言うのに、これだけの力を見せられては認めるほかないぞ」


 何か初対面の騎士が2人いるのだけど、妙に感心されたね。


「でも、殿下から聞いたけど、あのマサツをぶっ飛ばした技は私たちのことを思ってのことだったのね」

「君の気持ちはしっかりと届いたよ」

「はは、改めて言われると少し照れちゃうかな」

「……一応、私もマサツにやられたのですけどね」

「へ?」

「あ……」


 すると、ヤカライさんが拗ねたように口にした。え~と……。


「そういえば確かに最初にやられたのはあんただったわね……」

「そういえば切られていたんだったね。影魔法」

「え? そ、そうだったんだ……あれ? でも?」

「あ、あぁ。マサツもそこには触れてなかったんだよ」

「そうね、全く触れてなかったわね」


 ヤカライさんが項垂れて、どうせ、どうせ、とブツブツ呟き出したよ! 何か凄く闇を抱えてそうな空気に!


「……ヤカライよ、それでもまだマサツに相手されただけ良いではないか」

「俺たち、結局ただの信徒にやられたもんな……」


 他の2人も、何か肩を落として慰めあっているよ!


「ヤカライはともかく、ハイルトンとコマイルはただの怠慢じゃない。殿下があれだけ言ったのに勝手に突っ込んで勝手にやられて、流石に擁護できないわね」

「う!」

「ぐはっ!」

 

 レイサさんの辛辣な言葉に、吐血しそうな勢いで2人が仰け反りよろめいた。大丈夫だよ! 怪我は回復してるからね!


「さて、とにかく都にいる衛兵を呼んで全員連行してもらおう。正直に話すかわからないけど、尋問も必要になるだろうしね」


 そしてその後は殿下の命ですぐに衛兵が飛んできて、全員連行されていった。壁を見た衛兵の何人かがポカーンとしていたけど、だ、大丈夫だよね?


「壁の件なら、国でしっかり直すし請求もしないから安心していいよ。寧ろそんな心配しているのがなんというかマゼルらしいな」


 そんな僕の心配を察したのかヘンリーが笑っていた。でもちょっと心配しちゃうよね。


 そして皆の下へ戻ったら安堵の表情で駆け寄ってくれた。


「お兄様、ご無事で何よりです」

「……ん、流石マゼル」

「え? いや、まだ何も言ってないけど」

「言わなくてもわかります。お兄様が戻られたということは全てが解決したということです」

「……ん、それにアリエル様も戻った」


 まぁ、確かにそう言われてみればそうだけどね。


「全くそれにしても、結局王都で見つけたんだねぇ。あたし達はそのまま戻っちゃったけどさ」


 アネが疲れた顔でそんなことを言ってきた。話を聞くとラーサとアイラとアネも一度は王都に言ったらしいね。しかもそこで色々功績をのこしてきたみたい。


「はは、流石我が息子! そして大賢者だ! また後世に残る伝説を作ったのだな!」

「いや、流石に大げさです父様」

「そんなことはないと思うよ。少なくとも僕の中ではもう伝説級の快挙さ!」

「あ、あの! マゼル、本当にありがとう!」


 ヘンリーとアリエルからは凄く喜ばれて改めて感謝された。その後は改めて謁見室に呼ばれて陛下や王妃様と対面したんだけどね。勿論父様やラーサ、アイラも一緒だ。


 謁見室には王子と王女の姿もある。


「大賢者マゼルよ、貴殿の活躍によって娘のアリエルは助かり、ヘンリーの危機も救われたという。私は王として、そして2人の親として心からお礼を述べさせていただく」

「私からも、お礼を言わせてください。本当にありがとう、そして貴方にお願いして本当に良かった」


 すると王妃様が近づいてきて優しく抱きしめられた。突然のことに頭が真っ白になりそうだったよ! 


「大賢者マゼルよ、本来なら更に新しい勲章を授与すべきところなのだろうが……」

「いえ、その御言葉は嬉しく思いますが、此度のこともありますので――」


 流石に勲章については遠慮させていただくことにした。尤も陛下も僕と考えは一緒だったようだけどね。魔狩教団みたいのが跋扈しているようならこれ以上目をつけられるようなことは控えた方がいいと思う。


「だが、このまま何の褒美も与えぬというわけにはいくまい。何か欲しい物はないか? どんなものでも聞き届けようぞ」


 う~ん、どんなものと言われてもなぁ、今はこれといって、でも辞退するのは却って失礼に当たりそうだし。


「父上、横から失礼して宜しいでしょうか?」

「ふむ、なんだヘンリー?」

「はい、実は褒美とも違うかも知れませんが、1つ提案があるのです。マゼル、いいかな?」

「はい」


 そして殿下が近づいてきて、真剣な顔で言った。


「マゼル、今回のことで僕は君を惚れ直したよ。だから、是非とも君に貰って欲しいんだ!」

「え? え?」


 すると、ヘンリーが僕の手を握りしめながら、熱い視線でそんなことを、て、え?


「こういってはなんだけど、僕はすごくお似合いだと思うんだ。それにこう見えて料理は上手だし、性格は勿論、きっと君に貰われたら僕は満足してもらえると思っている」

「……それって、まさか?」

「そんな、恐れていたことが現実に! お兄様の魅力は王子さえも虜にしてまうのですか! うぅうぅう」

「あらあら」

「お、おいヘンリー本気なのか!」

「父様、勿論本気でございます。僕の気持ちに嘘偽りはありません!」


 えええぇええ! 何か陛下にまではっきりと断言されたよ! ぬぬぬ、と陛下が腕を組んで唸りだしたよ!


「ちょ、お兄様何を言っているのですか! ありえない! ありえないです!」

「何を言う、ありえるから言っているんじゃないか」

「そ、そんな、ありえるなんてありえなーーい!」

 

 アリエルも信じられないと言った様子で叫んだよ。ぼ、僕も正直どうしていいか……。


「何故かなアリエル? 僕はアリエルが一番喜ぶと思ったのに」

「はい? な、なんで私が喜ぶんですか!」

「あぁ、なんだ照れているのか。だけどねマゼル。僕はきっとアリエルなら君のいいお嫁さんになれると思うんだ」

「だからありえな、な、へ?」

「え?」

「うん?」


 あれ? え~と、あれ? もしかして、何か勘違いしてた?


 はは、な~んだ、て! いやいやそれはそれで!


「ちょ、待ってよヘンリーそういうのは勝手に決めるべきじゃ、それに僕たちはまだ子ども、ねぇアリエル、アリエル?」

「あ、あ、ありえ、な、る、ありえ、な、る、るるるるうるううううぅう!」

「ちゅ~!?」

「アリエルが倒れたーーーー!」

「うむ、そういうことであるか。それなら十分ありえるな! 大賢者マゼルよ、褒美と言ってはなんだが娘を貰ってはくれまいか?」

「えええぇええええ! 陛下まで何を!」

「あらあら、今から孫の顔が見れるのが楽しみね」

「王妃まで!」

「それこそありえません! お兄様はまだそんな、絶対ありえません!」

「……断固異議申し立てる!」

「あたしも異議ありだよ!」


 そして何故か謁見室は僕が王女と婚約するとか今すぐ結婚とか絶対ありえないとかこれからマゼルは僕の義弟だね、とかそんな飛躍した話が飛び交ったのだけど。


「マゼルは大賢者とはいえ、まだまだ幼い身。そういった大事な話はもう少し成長してからでも遅くはないかと――」


 こんな感じで父様が纏めてくれたおかげで先延ばしになったよ流石父様!


「本当ならあのまま婚約でも私は良かったのだけどなはっはっは」


 いやいや父様勘弁してください!

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