第117話 そのころの三人

sideアネ


 主様にもお願いされたからあたしも気合い入れて、姫様とやらの行方を探すことにしたよ。主の妹のラーサやアイラもあたしと一緒だ。


 まぁ2人に関しては単独で動くのは危険だからということで、あたしも同行している形なんだけどねぇ。


 とは言え、この2人も魔法に関しては中々のものだよ。ラーサは主様の妹というだけあるし、アイラという子も変わった魔法が使えるようだからねぇ。


 さて、あたし達は先ず城やその周辺を探したんだけど、何の手がかりもなく探していても埒が明かないからね。だから私は蜘蛛を見つけては話を聞いてみた。


 すると、それらしい連中を見たという話が聞けてねぇ。しかも主様が王都の方に向かったという。


 ただ、何か物凄いスピードで駆けていったらしいから王都に向かったらしいということしかわからなかったけど、主様が向かったならきっと王都になにかあるはずだよ。


 だからあたしは元の姿に戻った後、アイラとラーサを背負って王都に向かったのさ。この方が早くつくからねぇ。


「本当、あっという間でしたねぇ」

「……アネ、凄い」

「はは、伊達に主様の獣魔やってないからねぇ」


 とは言え、問題はここからだねぇ。蜘蛛に聞いてもこれ以上のことはわからないし。


「お兄様が王都に来たのは間違いないのですか?」

「蜘蛛の話だとそうさ。でも、流石に都のどこにいるかはわからないかねぇ」

「そうですね。それに私達の目的は姫様を見つけることです。でも、王都までお兄様も来ているということは、まさか姫様が何か事件に?」

「……その可能性が高い。でも王都は広い、どう探そう?」


 なるほどね。つまり目的の姫様は悪い連中に捕まってこの王都のどこかにいるってわけかい。それなら、まさにあたしの出番だねぇ!


「2人は少しここで待ってな、あたしがなんとかしてくるよ」

「……なんとかって?」

「何をするつもりですか?」

「まぁ待ってなって」


 そしてあたしは王都を一周して行動に移した。


「ひ、ひいぃぃい、な、何だお前!?」

「な、糸でぐるぐる巻きに!」

「や、やめろ馬鹿! 何だお前!」

「キャ~! 化け物ーーーー!」


 何が化け物だい失礼しちゃうねぇ。まぁそれはそれとしてだ。


「よし、一丁上がりっと。どうだい?」

「え~と……」

「……どうと言われても」


 ん? なんだいなんだい、反応が薄いねぇ。折角あたしが都中を駆けずり回って悪そうな連中をとっ捕まえてきたってのに。


「……つまり悪そうだから捕まえた?」

「そうだよ」

「だ、駄目ですよ! 悪そうってだけでそんなことしたら!」


 え? そうなのかい? なんだい折角捕まえたのに。でもアイラが念の為と衛兵に問い合わせたらあたしが捕まえたのは全員手配書が回ってる犯罪者だったね。ほら、やっぱりそうだったろ? あたしの勘は鋭いしよく当たるんだ。


 だけど、王女に関する情報がでてこなかったねぇ……。


「……すごく褒められた」

「でも手がかりは0ですね……」

「全く悪人の癖に王女がどこにいるかもわからないなんて使えない連中だったねぇ」

「もし、そこのお三方、少しいいですかな?」


 あたしたちが相談していると、何か妙な男に声をかけられたねぇ。ターバンっていうのかい? そんなのを被った小太りの男だよ。


「……何か?」

「はい、実はあなた方が人探しをしていると小耳に挟みまして。実は私、尋ね人のことを知っているのです」

「本当ですか!?」

「はいはい、ですが、ここではちょっと……かなりヤバい相手が絡んでいることなようですからね。ですのでついてきてもらえますか?」

「……わかった」

「良かったねアイラ、アネ!」


 へぇ、何か見た目とか雰囲気とかあまりいい感じはしなかったんだけど、でも、もしかしたらそういうものなのかもね。悪そうな連中はそういうのに詳しいのかも知れないよ。


 だからあたし達は男についていったのさ。綺羅びやかに思えた王都の中で、この男は随分と奥まった人気もまばらな場所にあたしたちを連れてきたよ。


「ここだ、さぁ入ってくれ」

「え、え~と随分と寂しいところにあるんですね」

「ははは、さっきも言ったと思うが、人に聞かれたらまずい情報なんだ。だから敢えて人気のない場所を選んでいるのさ」

「……言ってることはわかる。入ろう」

「え? アイラ本当に大丈夫?」

 

 アイラは気にしていないようだねぇ。ラーサは不安そうだけど、まぁ確かにあまりいい匂いはしないねぇ。


 とは言え、あたしも中についていく。中は殆ど物が置いてない殺風景な部屋だったよ。机や椅子もありゃしない。


「ちょっとここで待ってもらえるかな?」

「は、はい……」

「……わかった」

「なんでもいいからさっさとしてほしいねぇ」

 

 こいつ、あたし達をやたら中央近くに固めて待たせてきたよ。なんだろね一体。


「さて、それではお美しく、そして可愛らしいお嬢様方に情報を教えましょう」

「え? 今ですか?」

「はい、いいましたよね。ヤバい連中が絡んでいると。それ、実は私達なんですよ」

「え?」


 その時、男が床を強く踏んで、そしたらあたし達の立っていた床がパカッと開いたね。3人揃って穴のそこまで真っ逆さまだよ。


「ははは! 馬鹿が! お前たちはいい商品になる。そうさこれから奴隷として売られていくんだよ!」

 

 そのままあたし達は下まで落っこちた。糸で助けようと思ったけど下にクッションが敷かれていたから問題なかったね。


「え、えっとこれって?」

「……周りを見てみる」

「へぇ、これはまた変わった趣味してるじゃないか」

「そ、そんな……」


 ラーサが両手を口に持っていって信じられないって顔をしてるよ。周りには檻があってその中に人間の女が閉じ込めれているねぇ。一様に暗い顔でメソメソ泣いているのもいるよ。


「ふ~ん、これがさっきあいつが言っていた売り物ってことなんだねぇ」

「……そう、恐らくあいつらは闇商人。禁じられた奴隷売買を行っている」

「え? それを、王都で?」

「……王都だからとも言える。王都はなんと言っても人が多い」


 なるほどね。人が多い場所ならそれだけこいつらの言うところの商品が手に入りやすいってわけかい。


「ギャハハ、これはまた可愛らしい商品が入ってきたねぇ。んん? 一人は随分と胸も大きいし、こっちはこっちで高値が付きそうじゃないか」


 奥から樽みたいな女が姿を見せたねぇ。手には鞭を持っていて、醜悪な匂いをプンプンさせているよ。


「あ、貴方も連中の仲間ですか!」

「黙りな! シャラップ! 頭が高いよ! あんたらはこれからうちらの品物となるんだ! 奴隷としてね!」

「……断る、元からそのつもりはない」

「はは、これはまた小生意気な娘だねぇ。全く、こんなところまでのこのこと付いてきた分際で何を生意気な」

「……馬鹿はお前たち。私達は敢えてついてきた。怪しいのはわかってたから」

「え? そうなんですか!」

「……わかってなかった?」

「ご、ごめんなさい……」


 なるほどね。アイラはそっちで考えていたのかい。私は悪党から情報を貰うのかと思ってしまったけど、敢えて捕まるという手もあるんだねぇ。


「ふん、後からならなんとでも言えるんだよ。おまえたみたいな子どもと、頭の悪そうな女に何が出来るもんかい。私はね奴隷魔法が使えるのさ! お前らの運命なんてもう決まってるのさ!」


 樽みたいな女が手持ちの鞭を振って威嚇してきたね。でも奴隷魔法ねぇ。


「頭の悪そうとは随分だね。全く今すぐその口塞いでやろうか?」

「……待って、ここは私がやる」

「え? だ、大丈夫アイラさん?」

「……問題ない――」


 ふ~ん、随分と自信あるんだねぇ。ならお手並み拝見といこうかね。


「ぎゃはは! お前みたいな餓鬼に何が出来るってのさ! 全く大人しくしておけば痛い目みずに――」

「錬金魔法――鉄の乙女」

「ギャァアアァアアァアアァアア!」

 

 なんだいなんだい。随分と偉そうなことを言っていたからどれほどかと思えば、アイラが行使した魔法で生み出された妙な人形に閉じ込められて悲鳴を上げたよ。全く口ほどにもないねぇ。


「え、えっと、これは?」

「……こういう拷問具があると本で見てやってみた」

「相手も大したことないけど、中々えげつないわね」

「ひぃい、痛い痛い痛い、がぁあ、針が、針が肉にぃイイイ!」

「あ、良かった生きてはいるんですね」

「……大丈夫、針の長さは短めにしているから、肉がわりと抉れる程度」

「わりと!?」

「だ、だずげでぇえええぇええ!」


 うるさいねぇ。それだけ悲鳴が上げれるならまだまだ元気だろうに。


 さて、アイラが人形の顔部分をパカッと開けると涙と鼻血でぐちゃぐちゃになった顔が現れたね。ぴゅ~って血が額から吹き出ているよ。


「……見たところこの中に王女はいない」

「お、王女って何を言ってるんだい!」

「他に、他に奴隷にした人はいるのですか?」

「はん、そんなのとっくにうちの旦那が運んでるさ! 残念だったね!」

「……旦那、さっきの男?」

「ど、どうしよう。その中に捕まっていたら」

「だったらあたしに任せな!」


 あれからまだそんなには経ってないしね。だからあたしは落ちてきた床を蹴破ってそのまま追いかけたよ。


 念の為あいつには不可視の糸を結んでおいたのさ。どうやら外に出たようだけど逃さないよ!






◇◆◇

side???


 はは、今回はまた上物が手に入ったもんだ。全くあんな口車にのってほいほいついてくるなんてチョロい餓鬼と女だったぜ。


 さて、あいつらは俺の愛するワイフに任せておけば問題ないな。こっちはこっちで馬車に乗せた奴隷を売りに……。


「ぼ、ボス大変です!」

「あん? 何だ騒々しい」

「そ、それがこの馬車を追いかけてくるものが!」

「何だと?」


 まさかどっかの冒険者か何かが怪しんでつけてきたのか? だが。


「だったらお前らで排除しろ。一体何のために高い金だして雇ってると思ってるんだ」

「いや、でも、馬に乗った連中が、つ、次々と、ひ、な、なんなんだあの女!」

「何だと? お前ら女なんかにやられてるのか?」

「た、ただの女じゃねぇんだよ! 下半身が蜘蛛の、ヒッ!」


 私と並走して走っていた男が突然後ろに引っ張られて飛んでいった。は? な、なんなんだ一体……。


「よぉ、さっきぶり」

「なぁあああああああ!」


 男の代わりに私の隣についたのは、そうさっきの女だった。奴隷にしてやったと思ったエロい女だ。だが、その女は上半身はエロいままだったが、な、なんで下半身が蜘蛛ぉおおおぉおお!


 そしてあっという間に私は捕まり、王都まで逆戻りする羽目となったのだった――






◇◆◇

sideアネ


 すったもんだであたし達は闇商人を全員ひっつかまえたんだけどねぇ。


「……だから、王女はどこ?」

「そんな物知るわけ無いだろ勘弁してくれ!」

「だ、だいたい王女がこんな王都をぶらぶら歩いているわけ無いだろう!」

「だから、城から攫ったんですよね?」

「はぁ? アホか! 何で城から攫ってわざわざ王都まで戻るんだよ! そんなの怪しまれるだけだろ!」


 そこまで話を聞いて、アイラが、あ、とした顔を見せた。た、確かに言われてみればあまり意味ないかもねぇ。


「いや、皆さんのおかげで闇商人の一派を捕まえることが出来ましたよ。本当にありがとうございました」

「「「…………」」」


 そんなわけで、攫われた女達は無事保護されて衛兵からも感謝されたし、王都の悪党は大分捕まえたけど、お姫様が見つからなかったという意味ではすっかり無駄骨をおってしまったねぇ、はぁ――

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