第108話 魔力0の大賢者、王子と決着?

 王子はどうやらとっておきを見せてくれるようだ。色々な雷の魔法が見れるのはやっぱり楽しい。


 電撃自体は僕も体内の細胞を操作して増幅して物理的に生み出せる。でも魔法と比べると多分だけどやれることは少ない。


 だから魔法で生み出す雷にはとても興味があるんだ。


「完璧と言えば誰だい? そう完璧と言えば僕だ!」


 う、うん。それにしてもやっぱり詠唱は至極、独特だね。


「我の背の光を見よ! 全身から迸る電撃に男はひれ伏し女は心を打たれることだろう! さぁその目に焼き付けるがいい! 空前絶後パーフェクトの雷鳴ライトニング!」


 ヘンリー王子が両手を広げた瞬間、王子の体が眩い光を発した。強烈な光で周囲の皆が目を閉じてしまう。その上、光と同時に王子の体から電撃が複数伸びていく。目標を定めているわけじゃなさそうで範囲内を電撃が伸び動き回っている。


 その範囲には僕も入っていて、電撃が近づいてきたけど――僕はこのぐらいなら目を開いていられるし、視界が塞がることもないんだよね。


 尤も例え目を瞑ってしまったとしても気配で位置は掴めるわけだけど。

 とにかく僕は閃光が発せられている中、王子の体から放出されている電撃を避けていく。


「はっは~どうかな? この魔法は相手の視界を奪った上、電撃の攻撃も同時に行う。相手は成すすべもなくこの魔法を受けるしかないのさ。美しい僕にぴったりな完璧な魔法だと思わないかい?」

「うん、確かに凄いかも……2つの効果を同時に出すことで相手の選択肢を狭めているんだね」

「そのとおり! 流石大賢者だよくわかって、わかって、え?」


 ヘンリー王子が驚きの声を上げて、キョロキョロと首を振った。僕はすぐ近くにいるんだけど、どうやら王子様もこの光の中じゃ視界が確保できていないようだね。


「ど、どこに、え? 移動したのかい?」

「うん、すぐ後ろにね。でも、確かに効果的な魔法だと思うけど、自分の視界も妨げちゃうのは欠点かもね」

「ちょ、ちょっとまってくれ、すぐ後ろって大賢者には見えているのか?」

「あ、はい。このぐらいの光なら……」

「な!?」


 ヘンリー王子が驚いていた。あれ? もしかして不自然だったかな?


「流石お兄様です! これはきっと偏光魔法ですね!」

「……あらゆる光から視界を守ったという大賢者の特殊な魔法。マゼルに使えないわけない」

「流石主様だねぇ、あたしは比較的光に弱いからなお尊敬しちゃうよ」

「うむ、この偏光魔法を研究した副産物としてサングラスが開発されたのは有名な話であるな」


 そ、そうだったのか……正直これ魔法でも何でもなくて、ただ裸眼でも平気ってだけなんだけどね。


「な、なんてことだ。これではただ僕が不利になってしまっただけではないか……」

「よ、よくわかりませんでしたが、光は収まったようですな」


 うん、確かに光が小さくなって消えたね。まだ皆は眩しさが残ってるようだけど、それでも少し立てば戻るはず。


 そしてヘンリー王子はがっくりと肩を落としていた。も、もしかしてかなり自信があった魔法なのかな? とっておきと言っていたし……。


「ふ、ふふっ、はははっ! なるほど確かに流石大賢者というべきだ。だけど、僕はちょっと残念かな」


 でも王子の立ち直りは早かった。流石王子。でもその意味はちょっと気になる。


「残念、ですか?」

「そう! だって君はさっきから僕の魔法を避けてばかりでこれといった魔法を使ってないじゃないか!」

「え?」


 あ、あぁ。確かにそうかもしれない。いや、そもそも僕のは魔法じゃないけど、僕からは一切手を出してないしね。


「……それはおかしい、マゼルは偏光魔法を使った」


 あ、いやアイラ、それは違うというか……。


「違う! そうではない! 僕が言っているのはもっとわかりやすい魔法のことを言っているのだ! そう、この魔法のように!」


 ヘンリー王子は両手を前に突き出しそして独特なあの詠唱を紡いでいく。


「美しいとは罪と思わないかい? 完璧という孤独に打ちひしがれたことはないかい? でも安心しなよ、だってそこに僕がいる、この王の威光を纏いし僕がね。だから何も心配することはない。僕は全てを包み込む光、そう、そんな僕が放つ雷はビューティフルでエレガントでそしてとてもエキセントリックな魔法なのさ、だからって惚れちゃ駄目だぜ? さぁとくと見よ我が華麗なるブリリアント皇雷スパーキング!」


 ついついポカーンとなっちゃいそうな詠唱だけど、行使された魔法はこれまでの魔法より強力なものだ。


 集束された雷が光線となって僕に放たれた。軌道は一直線、でも雷だけに速い。それでも反応は十分可能だけど、とは言え王子の言っていたこともある。


 魔法じゃないけど、それっぽい現象は見せて置く必要あるよね。だから僕は伸びてきた雷を避けること無く受け入れた。


「え?」

「……マゼルに魔法が当たった?」

「まさか、本当にか?」

「へ あ、当たったのかい? 僕の魔法が」

「むぅ、まさか大賢者マゼルに我が子の魔法があたるとは……」

「こ、これは、勝負あり! 殿下の勝利です!」

「あら、まぁ……」


 あれ? 執事さんが王子の勝利を宣言しちゃった。皆も唖然としているし、何か王子が一番驚いているようにも見える。


 でも、ま、まいったなぁ……確かにこれだけ見たらそう思えるか。


「待て! 大賢者マゼルは、平然と立っている!」

「え?」


 でも、執事の判定に異を唱えたのは何を隠そう僕に魔法を放ったヘンリー王子だった。


「本当です、お兄様は立ってます!」

「……そうか、マゼルには避ける必要がなかった」

「当然だね。主様にあの程度の魔法、効く筈がないのさ」

「な、なるほど。だが、そうだとしてもこれだと……」


 ラーサとアイラ、そしてアネは安堵しているようだけど、父様は厳しい顔を見せていた。すると執事さんが首を横に振り。


「確かに大賢者様は平然と立っておられます。ですが、それは大賢者のお力であれば、不思議ではないと言えますが、それを認めてしまうとそもそも殿下には勝ち目がなくなってしまいます。ですので、どんな形であれ攻撃があたった時点で殿下の勝利としたいと……」

「待て、僕は納得がいかない」

「お兄様……」

「ちゅ~」


 執事さんの話にヘンリー王子が再び反論する。まさか勝利を宣言された王子からそんな言葉が出るとは思わなかったよ。


「し、しかし殿下の魔法が当たったのですぞ? 私はしっかりこの目で見ました」

「確かに当たったようにみえた。だが、大賢者の魔法でそもそも完全に防がれていたとしたらどうだ?」

「なんと……いや、しかしそれは証明が」

「自分自身が納得いかないのさ。それに本当にまともに当たったのであれば、例えダメージがなかったとしても電撃が当たったことの影響は出るはず。だけど、大賢者には全くそれがない」

「影響、ですか? むぅ……」

「……殿下の言ってることはよくわかる。例えばマゼルが直前に魔法の障壁を張ったとみれば十分理解できる」

「あ、アイラのは近いかも」

「へ?」


 ヘンリー王子の言っていたのは電撃で電気が残ることだと思うけど、確かにそれは今の僕にはない。そしてその理由はアイラの説明がしっくり来ると思う。


「つ、つまり大賢者マゼルは、障壁を張ったと?」

「え~と、正確に言うなら障壁と言うより水を纏ったかな」

「水、だと?」

「……大賢者マゼルよ、そなたの魔法には驚くべき点が多いが、しかし、水などを纏っては反って電撃を受けてしまうのではないか?」

「確かに雷が鳴っている時は水浴びもやめなさいというものね」


 陛下と王妃様が不思議そうに口にした。ヘンリー王子も似たような気持ちみたいだけどね。


「はい、確かに普通の水ならそうですが、これが純粋な水だと別になるのです。不純物のない純水は雷を通さないので」

「な、なんと、そうだったのか……」

「そうか! つまりお兄様は究極の水魔法で純水な水を生み出し、それで雷を防いだのですね!」

「なるほど。それであれば殿下の魔法はマゼルには当たっていなかったことになる。むぅ、私というものがそれにも気づかず余計な心配をしてしまったようだ」


 皆驚いているけど、実は、当然だけどこれは魔法ではない。僕は体内の成分を自分でいじれるから、体内の水分から不純物を抜いて分泌させた上で纏っただけなんだよね。つまり物理だし正直汗みたいなものだったりもする。


「……確かに、良く見ると大賢者の肌には潤いがありますが、しかし、それを証明する手段が」

「待て――」


 執事さんは納得出来ていないようだけど、ヘンリー王子がそう呼び止めて、僕に近づいてきて。


「……ペロリ」

「な! お、王子何をしてるのですか!」


 なんとヘンリー王子が僕の肌から、え~と、水、汗みたいなものなんだけど……それを指ですくった後舐めてしまったよ……。


「むぅ! 確かにこれは、しょっぱくない! 汗ではないし無味無臭だ! 紛れもなく、純水であろう!」

「お、お兄様の汗を……」

「……まさか、ライバルが王子?」

「お、お兄様、あ、ありえないのです!」

「ちゅ~……」


 そして何故か女性陣が騒がしい。ま、まぁちょっと変わったところがあるけど、王子はこれで勝負は決まってないと確信したみたいだね。


「これで決まりだ。勝負はまだ決まっていない続行だ!」

「……しかし息子よ。今の大賢者の魔法を見るに、もうお前には勝ち目がないのではないか?」

「……お父様の言われていることはわかります。ですが、まだ僕は直接大賢者の魔法は受けていない! それに、僕にもまだ手は残っています。そう、美しく華麗な手がね!」


 そう言いながら僕からまた距離を取り、ターンを決めて言い放った。


 ヘンリー王子……いい人だね。女の子にちょっとだらしないのかもだけど、勝負に対する姿勢は誠実だし一本芯が通っている。


「さぁ、今度は攻撃面で僕を驚かせてくれ。だけど僕だって黙ってやられるわけにはいかないけどね。だから、これを見せる! とっておきのとっておきさ!」


 とっておきのとっておき……王子は今度こそ決める気満々みたいだ。そして僕も王子の期待には答えないと。


「王は雷さえも支配した! 王は雷の力を物にした! 我は王でありそしてまた雷なり! この身をもってそれを証明せん! 皇雷脚スパーキングスラスト!」


 刹那――王子の足元に雷が集まり、かと思えば王子自身が地面を蹴り疾駆した。どうやら雷を脚に纏うことで一気に加速したようだ。


 その動きはまさに雷のごとく。僕の背後に回ったかと思えば、後頭部に向けて蹴りを放つ。脚には雷が纏われていて、加速と電撃を活かした攻撃といったところだろう。


 重要なのは例えここで僕が純水を纏ったとしても加速した蹴りは食らってしまうってことだ。実際は水圧を変化させれば防げるけど、流石にここまできて守るだけとはいかない。


 だから僕は王子の蹴りを先ず避ける。王子が驚いた顔を見せる。そして僕は蹴りを避けながら大きく回転した。


 もちろん調整してだけど、その回転力で突風が発生し、王子をカウンター気味に弾き飛ばした。


「ぐふぅ!」

 

 そして王子が地面に落下し、苦悶の声が漏れた。あ、も、もしかしてやりすぎちゃったかな?


「……今のは魔法で風を起こしたのか?」

「そのようですわね貴方」

「し、信じられない。王子のあの一撃を躱した上、詠唱もせず風魔法で反撃とは――」

「ふ、ふふ、なるほど。これが大賢者の力か……なるほどね、確かに僕とは格が違いすぎた。僕の完敗だよ」

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