第92話 魔力0の大賢者、鉱山の危機を知る

 ドメステさんについていった先には大きな炉があった。これで鉱石から金属を精製してるんだね。


 だけど、何か変だな? う~ん。


「坊主、これを見てどう思う?」

「どうといわれても、でも何かおかしい……あ、そうか動いてないんだね」

「……そう言われてみると確かに静か」

「そもそもこんな大きいもの動くんですか?」

「私も知識だけですが、魔鉱石を利用して動かしているのかと……」


 うんそうだね。古くは薪を燃料にしていたこともあるけど、一部の魔鉱石を使うことでより高い熱を生み出せることが判ってからは魔鉱石の方が効率がいいとされて魔鉱石を使った魔炉が主になっていた。でもそれでもかなり古くからある設備だけどね。何せ僕が転生する前からの話だから。


「でも、どうして動かしていないのですか?」


 多くのドワーフにとって魔炉は無くてはならないものだ。何せこれがないと良質な金属が生み出せないからね。


「動かしてないんじゃなく、動かせないんだよ坊主」

「動かせない?」


 ドメステさんの話に疑問符が湧いた。今の話だと動かしたくても動かせないってニュアンスに聞こえるよね。


 う~ん、でもだとしたら……。


「もしかして動力になる魔鉱石が採れなくなったとか少なくなったとかなのでしょうか?」


 魔鉱石は魔素が濃いところで発掘される。そして魔素がある程度留まっているうちは魔鉱石も生み出され続けるけど、だからといって調子にのって際限なく採掘し続けたら枯渇する。


 だから本来は魔素の濃度と鉱脈の状況を見ながら調節して上手く付き合っていくものなんだけど。


 でも、欲深い人なんかはそんなこと知ったことか、と枯渇するまで掘らせたりするんだよねぇ~。それにこの魔鉱石を巡って戦争に発展したことも幾度もあったわけで。


 ただ、ドワーフに限っていえばあまり考えられないことではある。ドワーフは確かに物づくりが大好きな種族だけど、だからこそ資源に対して常に敬意を払い大切にするよう考える種族だ。


 だから採りすぎて枯渇したり減ったというのは考えにくいんだけど。


「坊主の言ってることは半分正解だ」

「半分ですか?」

「そうだ。勘違いしてほしくないのは別に俺たちが魔鉱石を掘りすぎて減ったなどということじゃないってことだ。俺たちは金のためなら後先考えず鉱脈が枯れるまで採取し続けるような人間のように愚かじゃない」

 

 熱く語ってるね。ドワーフにとっては大事なことだから勘違いされたくないのだと思うよ。


「むぅ、確かに私の森でも大事な樹木を好き放題に切り倒していく輩が現れ争いになったことがあるといいます」

「……悔しいけど確かにお金の為ならなりふり構わない貴族が一部にいるのも確か」

「私たちも気をつけないといけません。ですが、ローラン領には大賢者たるお兄様がいますからきっと大丈夫です!」

「はは、そう言ってもらえるのは嬉しいけど耳が痛い話ではあるかな。僕よりも父様がしっかり管理しているから安心はしているけど、開拓が始まったスメナイ山地のこともあるしね」


 幸いあの事業に関わっている人々は皆良い心を持った人ばかりだし、バランスを取ってやっていけるとは思う。でも、ある程度開拓が進んだら外から来る人もでてくるだろうからね。


「ふっ、俺としたことがつい口幅ったいことを言ってしまったな。だが、そんな話でも真剣に考えてくれるとは、久しぶりに気持ちのいい人間に会ったものだ。これでまだ子どもだって言うんだからな」


 そういってドメステさんがガッハッハと豪快に笑った。どうやら気に入って貰えたようけど、すみません僕だけ純粋な子どもではないのです。


「まぁそれはそれとしてだ。さっきの話に戻るが、半分正解と言ったのにはわけがあってな。実はうちで一番大きな鉱山にワームが出やがったのさ」

「ワーム?」

「……確かミミズを巨大化させたような魔獣の一種。土や鉱石が好物で大きな口でもりもり食べると本にあった」

「土や鉱石……あ、それで!」

「うん、理由が判ったよ。確かにワームにとってみればここの鉱山は絶好の餌場だからね」


 しかもワームは消化が早いからね。そういう意味では厄介かも。かつても鉱山殺しとか呼ばれていたし。


「坊主の言うとおりだ。しかもそのワームが3匹も出やがった上、とくに燃鉱石が気に入ったみたいでバリバリ食べやがってるのさ」


 魔炉で主に使われているのが燃鉱石だからね。魔炉で強力な熱を発せられるのもこの魔鉱石があってこそだ。


 でも、ワームが3匹か。確かに結構大食らいだからそれだけでもドワーフとしては死活問題なんだろうけどね。


「……もしかしてそれで職人の機嫌が悪い?」

「そのとおりだ嬢ちゃん。何せ燃鉱石がなきゃ魔炉が動かせねぇ。おかげで革職人や工芸メインの職人を除けば開店休業状態だ」


 魔炉が動かないなら精錬も難しくなるものね。鉄ならまだ薪を代用にして出来ないこともないだろうけど、魔炉ほどの出来にはならない。品質にこだわるドワーフはそれを良しとはしないだろうな。


「やっぱりワームは強いのですか?」

「強いなんてもんじゃないさ。俺たちだって黙ってられないからな。各自武器を持って挑んだりもしたが全く歯が立たなかった。しかもあいつら燃鉱石を食べた影響で進化してな。皮膚が赤くなって口からマグマを吐きやがるんだ。だからマグマワームって呼んじゃいるんだけどな」

「え? そんなことがあるんですか?」

「うん。ワームは食べたものの影響を受け易いんだ。だから鉄鉱石を食べ続けたワームはアイアンワームと呼ばれるぐらい固くなったりもする。それを利用して金を食べさせてゴールドワームを作ろうとしたけど結局金だけを根こそぎ食べられた挙げ句、逃げられたなんて話もあったぐらいだしね」


 ワームは食べるものがなくなったらどこかへ消えるからね。尤もそんなのをまっていたら鉱山なんて幾つあっても足りないけど。


「ふむ、しかし坊主、まだ子どもだってのに詳しいな」

「え?」


 あちゃ~しまった、またつい調子に乗って喋りすぎたかも……。


「……本でもそんなことまで書いてなかった。流石大賢者マゼルはなんでも知っている。この世界の本が幾らあっても足下に及ばない」

「はい。お兄様は魔法も知識も最強なのです」


 また何か納得されたけど、何でもは知らないからね! 知識にあることだけだからね!


「うむ、なるほど。どうやら大賢者の再来ってのはまんざら嘘でもなさそうだな。いや疑ってしまっててすまねぇな。だが、それならどうか1つ知恵を与えてやっちゃくれないかい?」

「え? 知恵ですか?」

「おうよ。あのマグマワームどもを追い出すいい知恵をな。何か封印とかでもいいんだが、何かないかね?」


 え? 追い出す? 封印? う~ん……。


「ちなみに、やっぱりそのマグマワームがいなくならないとヒヒイロカネの加工は難しいですよね?」

「そりゃそうだ。熱を加える物がないとどうしようもならないぜ」


 やっぱそうだよね。それがあるからってわけじゃないけど、ここもずっと動けないとなると後の影響もあるだろうし。でも、追い出すか封印かぁ。


「何か、厳しそうだな。やっぱ難しいか?」

「そうですね……難しいと言うか、それは倒すでは駄目なんでしょうか?」

「……は?」

「あ、いや。正直それでいいならその方が早いかなと思って」


 ドメステさんが目を丸くさせているよ。やっぱり駄目なのかな? う~ん、でもワームの場合例え追っ払ったとしても別な場所で似たようなことしちゃうから倒せるなら倒したほうがいいと思うんだよね。


「いやいやいや! 待て待て、何を言ってる? 倒すだって? 坊主それは無茶だ。相手は魔獣のワームだぞ? こういっちゃ何だがドワーフも戦いにはそれなりに自信があるが、それが束になっても構わなかった上、そんなのが3匹もいるんだ!」

「え? 3匹だけですよね?」

「は?」


 ドメステさんがまた目を丸くさせた。あれ? 何かおかしいこと言ったかな? 確かにかつてのワームは鉱山殺しとしても有名だったけど、その時は300匹とか平気で出てきたからね。


 それを考えたらまだマシかなと思ったんだけど……。


 だけど、ドメステさんはなぜか口をパクパクさせてるんだけど……。


「お、おい! お前たち仲間ならなんとか言ってやったらどうなんだ!」

「……え? 特に何も……」

「そうですね。大賢者マゼル様がそういうなら倒した方が早いんだと思うよ」

「確かにこれまでも数多の魔物や魔獣を倒してきたお兄様なら、ワームの3匹や万匹、どうってことないと思います!」

「……マジかよ」


 何か疲れたような目をドメステさんから向けられたけど、倒せるならそれに越したことはないということで許可が出たよ。


 よし、それなら早速ワームを退治に行こうかな。

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