第81話 魔力0の大賢者、ゴブリン軍団を驚愕させる

sideゴブリン軍団


 とんでもないのが現れた! 今我々の眼の前では信じられないことが起こっている。


 我々の帝王が鎮座するこの魔窟は言うならば天然の要塞だ。本来なら魔窟の多くは地下に出来る。だがこの魔窟は我らが拠点となる岩山の頂上近くに出来た。


 そのおかげで魔窟はこの山の下層に向かう形となり、結果的に天然で堅牢の要塞と化した。


 しかもこの岩山はところどころ前に突き出ているところがあり、そこを上手く利用すれば上層からここに近づくものを一方的に攻撃できる。しかも一番上には帝王の隠し玉ゴブリンジャイアントもおり、まるでちょっとした山のような巨大岩石を落としてくる。こんなものを喰らえば一溜まりもない上、例え万が一この要塞の入口にたどり着いたとしてもそこは魔窟だ。非常に入り組んだ迷路のような魔窟内を進む必要があるし、我らの精鋭も控えている。


 そう、この要塞があれば誰一人帝王の下へ近づくことなど出来ない!

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 だが、あの人間は、いや、人間なのかも怪しいあの化物は本来一方的なはずの我々の攻撃。それこそ投石機や弩をフル活用した徹底攻撃が、何故か着弾する前に粉微塵に砕け散った。


 あのゴブリンジャイアントの放った大岩さえも、やはり何があったのかさっぱりわからないが塵となって消えてしまった。


 それでも、入り口から入ってくれれば、まだ時間稼ぎが出来たかも知れない、が、だがあの化物ときたらある程度まで近づいたかと思えば、跳んだのだ。


 そう、地面を蹴り、大きくジャンプ。凄まじい速さで天までかっ飛んでいった。


 そこで俺は理解した。これは、無理だわ、と……。


 帝王、せめてここからご武運をお祈りしています……てか、うん、逃げたほうがいいなこれ。


 そう思っていたのだけど、直後周囲が暗くなった。え? もう夜? 何か変だなと思って見上げたら、とんでもなくデカいものが落ちてきて、俺は自らの死を悟った。






◇◆◇

sideゴブリンジャイアント


 おで、ゴブリンジャイアント。他の皆、おでのことジャイと呼ぶ。おで、この城の番人任されてる。帝王さま、おでに期待してくれてる。


 お前は頭が良くないが、三王にも劣らないパワーがある。だからここまがせる、言ってくれた。おで、それに答える。


 おかしなやつがやってきた。おでわかる。あれ、人間。だけど、動きが変、あんな速く動ける人間、おでみたことない。

 

 でも、関係ない。この場所から岩投げる。相手潰れる。凄く簡単。


 おで、おでより大きな岩も持てる。これ投げた。岩が飛んでいった。これ当たる。人間潰れる。おでの勝ち。


 あれ? おかしい。おでの岩あたった。人間潰れるはず。でも、岩がなくなった。人間潰れてない。


 おで、更に投げた。どんどん投げた。でも岩、全て消える。大きな音して消える。何故? わからない。

 

 人間が飛んだ。おかしい、人は飛べない。でも、飛んでる。蛙よりすごいジャンプ力。俺の真上まで飛んできた。ここ出っ張りあるから、おでから空も見える。


 でも、あいつ馬鹿。空から落ちてきたらもう逃げられない。岩が駄目ならおで殴る。人間かわせない。プチッと潰れて終わる。

 

 落ちてきた。おでの思ったとおり。こいつ凄いけど馬鹿。おで殴る。これで倒す。


 ……おがしい。人間、空中を自由になんて動けない。なのにどうしてこいつ動ける? おでのパンチかわす?


 おで負けない。当たるまでなぐる。あたるまでなぐる。当たるまで――


「もう! しつこいな!」


 あれ? おでおかしい、おでのパンチ外れたと思ったら、何故かおでの方が飛んだ。腕あいつにつかまれてる。こいつおでより小さい。なのに、おでの腕を掴んで、持ち上げた。ありえない。


 おで、回ってる。ブンブンブンブン回ってる。振り回されてる。おで、すごいデカい。ゴブリンの三王が合わさっても負けないぐらいデカい。なのに、振り回されてる。


 おで、わからない。おで頭悪いから、わからない。こいつ、本当に人間? ふと、体重が軽くなった。


 違う、おで、外に放り投げられた。おで、飛んでる、鳥みたいにとんでる。あぁ、何か凄く、きもちいぃ……。






◇◆◇

sideマゼル


 僕の目の前に目的地が見えた。気配でもわかるよ。この岩山にきっと魔核を宿したゴブリンのボスがいるよ。


 それにしても珍しいね。魔窟は地下に出来ることが多いんだけど、ここはきっとこの岩山の中にできたんだろうね。


 だから最下層がこの山の一番下になったんだと思う。その結果、この岩山全体が天然の要塞みたいになってるんだ。


 ゴブリンも、それを十全に活かして魔窟を改造したみたいだね。


 岩山から何箇所か足場が出ているところがあって、そこから投石機や弩で攻撃されているよ。高所からの遠距離攻撃は防衛の基本だもんね。


 でも、ここまで来たら僕も遠慮していられないし、サクッといかせてもらうよ。とりあえず避けるのも面倒だから、体を小刻みに震わせることで衝撃波を循環させるようにすることで、飛んできた矢や岩は全部粉砕させてもらった。


 何か一際大きな岩が飛んできた気もしたけど、この程度ならまだまだ問題ないね。


 そして、本来なら最下層から上に行くというやり方なんだろうけど、魔窟は内部が迷路みたいになってるだろうし、せっかく足場が見えてるんだから逆に利用しようと思う。


 何か一際大きな岩が飛んできた辺りがこの魔窟の最上層みたいだし、地面を蹴ってそこを目指す。

 

 何か途中にいたゴブリンが目を見開いて驚いているけど、今はボスを狙うのが最優先だからこっちは後回し。


 そして勢い余って目的の足場の更に上まで飛んでしまったけど、眼下に見えるのはゴブリンジャイアントだね。


 うん、なんか久しぶりに見たけど、やっぱりこの体だと一際大きく感じるよ。


 拳を握って腕を引いて、空中にいる僕を狙い撃ちしようって魂胆かな?

 確かに本来空中では逃げ場がないもの。このまま黙って落ちていけば、あの岩石みたいな拳をまともに受けることになっちゃうね。


 だけど、拳が向かってきたのを認めた僕は空中を蹴って移動。僕の横を拳が通り過ぎた。ゴブリンジャイアントは一瞬驚いた顔を見せたけど、そこから何度も何度も僕に殴りかかってきた。


 だけど、いい加減にして欲しいかな。


「もう! しつこいな!」


 飛んできた右の拳をスレスレで躱し、その腕を取った。かなりの巨体だけど、氣を巡らせて一気に、引っこ抜く!


「――ッ!?」


 ゴブリンジャイアントが持ち上がった。そのまま縦の回転から横の回転に移行してブンブンと振り回す。後はそのまま外に向かって放り投げた。


 距離ではなく高さを稼ぐ形で投げたのは、そのまま落ちれば下のゴブリンも纏めて倒せると思ってのことだ。

 

 さて、後はここを進めばボスがいるのかなっと。






◇◆◇

sideゴーブラ


 正面からゴブリン兵の悲鳴が聞こえてくる。ふむ、やはりあの程度の雑兵では話にならぬか。


 だが、まさかと思ったがこの様子だとゴブリンジャイアントも倒されたようだな。何か今凄まじい振動を感じたが、それと何か関係あるのか?


 まぁいい。例え三王やゴブリンジャイアントが倒されようと、ここには最後の砦となる、私がいる。


 私の魔法はゴブリン一と言われているが、もはやそんなレベルではないことを私自身が理解している。人間の中には大賢者と呼ばれる存在がかつていたらしいが、私の魔法はその大賢者すら上回る! 


 ふふ、実は私の真の力は帝王にすら見せたことはない。側近として帝王を立てる必要があるが、その私が下手したら王以上の力があると知ってしまえば、帝王の自信を失わせかねない。


 だからこそ、私は今日までこの力を封印してきたのだ。だが、今こそこの力を解放するときよ!


「え~と、こっちでいいんだよね?」


 むっ、来たか、て、な、なんだと?


「あれ? え~と、このゴブリンが魔核を持ったボスなのかな?」

「ふん、残念だが私は帝王の側近にしてゴブリン最高の賢者。ゴーブラだ」

「え! 君喋れるの?」


 やってきた人間が驚いているが、それは私も一緒だ。全く、まさか三王を倒し、ゴブリンジャイアントまで倒した人間が……。


「まさか、こんな子どもだとはな。少々驚いたぞ」

「あ~……うん、まぁ見た目的にそう思っちゃうかな? でも人語を介するゴブリンで賢者というのも始めてみたよ。500年前にはいなかったし」


 500年前? 何を言っているのかわからんが、確かに私はゴブリンの中ではかなり希少な存在だろうな。


「一応聞くけど、このまま素直に降伏する気はある?」

「ふん、馬鹿なことを。降伏などするわけがないだろう」

「うん、やっぱりそうだよね」

「だが、逆にお前には選択肢があるぞ?」

「え? 選択肢?」

「そうだ。人間とは言えこれだけの実力を秘めているのだ。どうだ、我々ゴブリン軍団に協力する気はないか? 悪いようにはしないぞ?」

「え? 嫌だけど?」


 まるで迷う素振りも見せず断ってきたか。全く、これだから人間は、多少腕が立つぐらいですぐに調子にのるのだからな。


「そうか、残念だな。だが、貴様はすぐにその選択を後悔することになるぞ」

「え? なんで――」


 その瞬間、私の目の前が弾けた。爆発が起きたのだ。極大の大爆発。そう、私はやると決めたらやる雄だ。


 それにしても最後に見せたのはずいぶんと間の抜けた姿だったな。


 何せこの空間を覆い尽くすような爆発を引き起こす大爆裂魔法だ。逃げる暇もなく木っ端微塵よ!


「ぬはは、どうだ! これこそが大賢者をも凌ぐ、ゴブリンの大賢者ゴーブラの超魔法だ! ははは、骨すらも残さず消し飛ばしてくれ――」

「あ~びっくりした。突然爆発とか起こすんだもんね」

「イイイィイイイィイイィイイイイイ!?」


 思わず悲鳴のような声を上げてしまった! 魔法で木っ端微塵にした筈のこの私が! 驚きのあまり目玉飛び出るかと思った! 胃と心臓が口から飛び出るかと思った!


 てか、なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ!


「な、なんだ! なんなんだ貴様! なんなんだ!」

「え? え~と、名前はマゼルだけど……」

「そんなことは聞いていない! 私が言ってるのは何故無事なのかと聞いているんだ!」

「え? そんなことないよ? ほら、折角の服が焦げちゃったもん。でもやっぱり魔法って便利だね。そんなあっさり爆発しちゃうんだから」

「そんな世間話みたいに言うことじゃないだろうが! 爆発だぞ! 大爆発だぞ! おま、普通そんな服が焦げたとか、そんな程度で済む話じゃないのだぞ! それなのに、何故、何故貴様は平気なのだと私は聞いているのだ!」

「え? え~と……丈夫だから?」

「じょ、丈夫、だから、だと?」


 な、なんなんだこいつは、くっ!


「ならば、まだまだまだまだ爆裂だ~~~~!」


――ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ズドォオン! ドゴォオオオン!



 私は魔力の続く限り爆発を起こし続けた。そうだ、一発で駄目なら何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも! 当て続ければいい! 


 私は最強のゴブリンの大賢者だ! 無詠唱でこれだけの魔法が連続で使えるのだ! これで、今度こそ! このガキを!


「うるさい! あと煙い!」

「グボオォォオオオオオゥ!」


 なんだこれは、とてつもない風が起き、私の体が宙を舞った。この私が全く反応できない、これだけの威力の風、いや暴嵐ともいうべき魔法を無詠唱でだと? あぁ、そうだ。今、思い出した――この人間が言っていた名前、マゼルというのがかつての大賢者と一緒であったことを、はは、なんてことだ何が大賢者だ、所詮私など真の大賢者に掛かれば三流以下でしか――

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