第80話 魔力0の大賢者、の父親頑張る!

sideゴブリン軍団

「おいおい、鉄壁王までこの有様かよ。どうなってんだ一体!」

「……いや、とんでもねぇぜ。何が起きたかさっぱりわからないんだが、三王一頑丈な鉄壁王がビュンッと! と雷が通り過ぎたと思ったら山の向こうまでぶっ飛ばされたんだから」


 本当にあれはとんでもなかった。俺は鉄壁王の側仕えとして近くで見ていたが、何かもうあっという間すぎて何が起きたかすらも理解出来なかった。


 おかげで要である最後の砦も崩壊し、俺たちの部隊も9割以上の兵を失っている。しかも全員何かしらのダメージを受けているし……。


 そんなわけでこれからどうしようかと思っていたが、他の王についていた部隊が合流した。随分と早いなと思ったがそうか帰還の玉を使ったのか。


 この帰還の玉というのは魔窟に認められた帝王が生み出せる玉で、陣地を決めておけばいつでもそこに戻ることが可能となる。

 

 便利なようだが、一度使うとなくなるし、帝王と言えどいくつもはつくれない。だから三王に持たせており、三王は部下にそれを預けていた。


 ちなみにそれぞれの帰還の玉は一つ手前の王の場所へ戻れるよう設定されていた。つまり怪力王、知略王と順番に使ってこの連中は戻ってきたのだろう。


「なぁ、俺ら帝王の下へ戻ったほうが良くないか?」


 一人のゴブリンがそんなことを言った。あのとんでもない怪物は恐らくそのまま帝王の城へ乗り込む気だろう。あの強さだ、城のゴブリン兵にもきっと多くの被害が出る。


 だが、それでもすぐに動くわけにはいかなかった。まだまだ負傷している者も多い。この状況で戻ったところで足手まといになるのが落ちだ。


「いや、暫く留まるべきだろう。それに城には帝王とゴーブラ様がいる。ゴブリンジャイアントもだ。そう簡単にやられはしないって」


 鉄壁王の側仕えをしていてわかったのは慌ててもいいことはないということだ。急がば回れ。こういう時こそ落ち着いて行動すべき。


 それに人間側はあの怪物さえ倒してしまえばもう頼る手立てがないはず。その証拠に他の人間についての話は全く聞かない。まぁ普通ならこの距離でここまで早くやってこれるわけがないのだがな。


 とは言え、そうだ問題ない。帝王なら絶対に負けることはない。だからここで回復に努め、体勢が整ったらすぐに出れるようにしなければ。

 

 多くの同志がやられたが、それでもこの場には怪力王と知略王の部隊も合流し2000程残っている。

 兵は魔窟にも3000残っているので合計5000……元は50000の兵力があったことを考えると僅か一割でしかないが、仕方がない。


 何、我らはゴブリン、魔核の効果でも徐々に同志は増えるし、人間の牝でもどこぞで攫ってくれば更に増やすことが出来る。


 減った兵力などどうとでもなる筈だ。そんなことを考えながら帝王側の報告をしばし待っていたわけだが――


「た、大変だーーーー!」

「なんだ騒々しい?」


 主力部隊の殆どが戦死した為、今は鉄壁王の側仕えであった俺がこの部隊の指揮をとっている。


 そこへ念の為周囲を警戒させていたゴブリンが息せき切ってやってきた。随分と慌ててるな。


「全く、まるで人間どもが攻め込んできたような慌てぶりだな」

「そ、そのとおりだ! 人間がやってきたんだ!」


 は? いやいやそれはおかしい。確かに人間どもは我々ゴブリン軍団相手に奮闘し、勝利をもぎ取った。


 だが、だからといってこんな早くにここまで来られるわけがない。そんな近い距離ではないのだ。途中何箇所も山を超えなければならないし、鉄壁王をあっという間に弾き飛ばしていったような化け物がそうそういるわけが、いないよな?


「……まさかあのレベルの化け物がまだいるのか?」

「いや、そうではないのだ! 恐らくあの化け物とは比べ物にならんだろうが、だが、相手は、空から、空からやってきたのだ!」

「な、空だと!?」


 馬鹿な。人間どもにそんな手がとれるわけない。確かに我らゴブリンの中には鳥に乗って偵察に向かうものもいるが、あれは小柄なゴブリンだからこそだ。


 それにあんな手をとれるゴブリンはそう多くないが、いやまて、確か人間には一部、そうだ竜やグリフォンを乗りこなすものがいると聞いたことがある。あとはペガサスなどもだが、そんなのが連中の中にいたとでもいうのか!


「一体何でやってきたのだ? まさか竜か! グリフォンか! ペガサスか!」

「いや、それが……」

「どうした、早く言え!」

「あ、あぁ、それがな、蜂なんだ……」


 は、蜂だと?






◇◆◇

sideナモナイ


 落とし穴に見事嵌ったゴブリンも含めて、第二陣のゴブリンも全て仕留めた。


 我が誇る最愛の息子であり大賢者として英雄への階段を着々と駆け上がっているマゼルの魔法もあって、我々には誰一人怪我人が出ていない。

 

 だからこそ、私は気持ちだけ妙に焦ってしまっていた。恐らく大賢者マゼルの大魔法があれば、ゴブリンキングだろうとなんであろうと、あっというまに駆逐し、魔窟も破壊してしまうだろう。


 だけど、我々はただそれを指を咥えて見ているだけで良いのか? 我々は我々で出来ることがあるのではないか?


 息子は言った。残存兵は頼むと。ならば我々もここで待っているばかりではなく、攻め込むべきではないか?


 そうだ何も躊躇う必要などない。我々もやはり大賢者マゼルの後を追うべきだ! 今からいったところでもう決着はついているかもしれん。


 だが、それでも何もせず終わるなど、そんな情けないことでいいわけないのだ。


 そう思い立ったその時だった。


「ローラン伯爵! 皆さん無事ですか~?」


 上空に見慣れた少女の姿。そう蜂に乗った少女……どうやら神は私にもしっかり機会を下さったようだ。


「大賢者マゼルのおかげで誰一人怪我人は出ていない。だが、私は息子の力になりたい!」

「お父様、それは私も一緒です!」

「……このまま黙って待ってるなんて出来ない」


 なんと、蜂の上には娘とアイラ嬢の姿もあった。その後降りてきた彼女、ハニーに聞いたのだが、どうやら息子の下へ遊びにきてここナムライ領にいることを知り、蜂にのってやってきたところで避難の手助けをするラーサとアイラ嬢を見つけたらしい。


 そして蜂の力もあって住人の避難も落ち着いたところで一緒にやってきたようだ。


「私も一緒にいきます。蜂なら後50は使役できますよ。私も実力を上げたんです!」


 それは凄い! 私は早速、マゼルの援護に向かう50人を集め奴らの本拠地へ向かうこととした。


 ラーサとアイラ嬢がついてくることは心配もあったが、アイラ嬢は既にライス卿の許可は取っているようだし、娘の兄を思う気持ちもよくわかったので一緒に向かうことにした。


 蜂に跨っての移動はなかなかに新鮮であると同時にかなりの時間短縮となった。山越えも空からなら何の苦もなく進めてしまう。


 そしてあっという間にゴブリンの砦らしきもののあるところにたどり着く。とはいっても砦は全壊に近い状態であり、それが大賢者マゼルの偉業であることはすぐに理解した。


 そしてその場所には多くのゴブリンの姿があったが、かなり疲弊しているようであり無事なゴブリンの姿はほぼ無かった。


 数こそ我らより多かったが、これなら十分勝負になる! 我々はそう考え、一気に攻め込んでいく。


 ゴブリンも弓や投石で応じてきたが、ハニーが使役する蜂の動きは素早く、全く当たる気配がない。


 一方で娘のラーサによる魔法は面白いようにあたった。アイラ嬢は錬金魔法で乗っている蜂の針を強化させこれも一撃必殺の威力を秘めている。


 数では我らのほうが圧倒的に少ないが、蜂と人による連携は強力だ。冒険者やナムライ領の兵たちも空から弓や魔法で応戦、地上にいるゴブリンは為す術もなくその数を減らしていく。


 一方で私も蜂に地上スレスレを飛んでもらい、すれ違いざまに愛剣で撫で斬りにしていった。


「ゴブゥウゥウウゥウウ!」


 そんな私に槍を構えたゴブリンが突撃してきた。他のゴブリンとは圧力が違う。

 明らかに雑兵とことなり槍の腕もそれなりに立つようだ。


 恐らくここのゴブリン達のリーダーなのだろう。面白い。私は蜂から飛び降り、サシで応じることにした。


 周囲には既に朽ちたゴブリン以外、何の姿もない。一騎打ちのような状況からゴブリンが素早く槍で3回突いてきた。上下に上手く散らしそこから回り込むように動き回転してのなぎ払い。


 なかなかに無駄のない動きだ。自己強化魔法も使ってるようだ。

 

 しかしそれもゴブリンにしては出来るといったところだ。


 もうお前の動きは見きった。ゴブリンの渾身の突きを躱し、柄をたたっ斬る。槍を失ったゴブリンがギョッとした顔を見せ怯んだ。その隙を逃さず、私の一閃がゴブリンを切り裂いた。


 これで勝負は決まった。ゴブリンのリーダーは死んだのだ。改めて周囲を確認したが、かなりのゴブリンがやられ、我らの勝利も近い。


 大賢者マゼルよこの場にいる残存兵は全て私たちが片付ける。だから心置きなくゴブリンの王を倒してくるがよい!

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