第68話 魔力0の大賢者、収穫する
「何か凄い魔物出た~~~~~~!」
「魔物じゃねぇ、竜だこれ、地竜だこれ!」
「落ち着いてください。それはトリケラホーンという魔獣です。突進力は高いですが、小回りがきかないのでしっかり見て戦えば勝てない相手じゃありません。とにかく目を合わせて絶対にそらさないで!」
「ひっ、こ、こんなの無茶だ!」
「あ、駄目です背中を見せちゃ!」
――ドドドドドドドドドドドドッ!
「無理だ~~!」
「ムリーーー!」
「死ぬ~~~~!」
あ~……トリケラホーンは3本の角を有した巨大なサイといった様相の魔獣だ。ちょっと顔が厳ついせいか確かに竜っぽくもあるけど魔獣なんだよね。
そしてあの魔獣、少しでも臆病なところ見せるとチャンスと見て突撃してくるんだよね。
だから基本目をそらしてはだめだし、背中を見せるなんてもってのほかだったんだけど……。
「はいストップ」
「グォッ!?」
仕方ないから被害が出ないようにとりあえず間に入って角を掴んで動きを止めた。う~ん、この魔獣、角は素材になるし、皮が固いけど肉は結構美味しいから傷つけるのは勿体無いよね。
なので僕は右手に収束させた電撃をあててトリケラホーンを気絶させた。
「うそ! 無詠唱であれだけの魔獣を気絶させる電撃魔法を扱うなんて!」
「いや、それだけじゃねぇよ。見たかよ今の? あれだけの突進を片手一本で止めたんだぜ? しかも角を掴んでだ」
「あ、ありえねぇ。いくら自己強化魔法を使ってるとは言え、あんな騎士が使うランスを巨大化させたみたいな角を正面で受け止めるなんてよ」
「普通なら足がすくんで何も出来ないか、逃げるところよ……一歩間違えれば貫通されて死ぬだけだし」
「いやいや、そんな大げさなものじゃないですって。冒険者の皆さんなら魔法を使えばこれぐらいコツさえ掴めば余裕ですよ」
「「「「「いや、それはない!」」」」」
断言された……いや、でもいつものことだけど僕は一切魔法使ってないからね。角を掴んだのはちょっとしたパワーだし、それにトリケラホーンは真ん中の角を押さえられるのを嫌がる性質があるから。ただ、ある程度の力でやらないと逆に怒らせて暴れられる可能性もあるんだけどね。
あと電撃もこれ魔法じゃないからね。前世で師匠に教わったことなんだけど実は電気そのものは人間を含め多くの生物に備わっている。魔法の場合この電気を集めたり魔力で増幅させて攻撃に利用したりするわけ。これさえわかれば、後は簡単だね。そう、僕は魔力がなくて魔法が使えないから物理的に電気を増幅させてるんだ。
電気は摩擦でも生まれるからね、だから今回の場合なんかは右腕を超高速で振動させれば空気との摩擦でこのぐらいの電撃は物理的に生まれるわけだ。
だけど、これはこれで手間がかかるからね。やっぱりこういうのは魔法でやったほうが楽だし強力なわけで、僕が出来る程度なら魔法さえ扱えれば楽勝だと思うんだよなぁ。
「はぁ、それにしてもやっぱ大賢者様はすげ~な~」
「本当よねぇ。まだ子どもなのにこれだけの魔法が使えるなんて、将来有望すぎるわね。どうかしら少し上だけど、お姉さんを妻に、いえ、贅沢は言わないわ! 愛人でもいいからどう?」
「おいおい、10歳以上離れてて少しかよ」
「う、うっさいわね!」
とりあえず僕がトリケラホーンを倒したことで安心したのか、皆にも余裕が生まれたね。
でも、なんだかんだで良かったよね。王国騎士が帰ってから間もなくして父様に知らせが来て、このスメナイ山地の探索が認められたんだから。
そんなわけでここ最近は、共同で探索に乗り出すことになったカッター領の冒険者も含めて大忙しだ。そしてこれは一応領地を上げての事業だから、定期的に父様も様子を見に来ているんだけど、今日は父様がこれなかったので代わりに僕が見に来ることになったわけ。
この未開拓地にこれるようになったキッカケも僕が作ったようなものだし、それも仕方ないかなとは思うんだけどね。
「またお兄様を誘惑しようという冒険者がいるようですね。油断ならないのです!」
「はは、ラーサも本気にしちゃ駄目だよ~ちょっとからかわれてるだけなんだから」
「いや、本気なんだけど、いや、な、なんでもないさ!」
冒険者のお姉さん、何故かラーサを見てギョッとした顔を見せてたね。なんだろう?
「いやしかし、もうしわけありませんね。本来なら視察みたいなものでしょうに、結局大賢者様の力を煩わせてしまいました」
ギルドマスターのドドリゲスさんが申し訳無さそうな顔で近づいてきた。曰く、このあたりの魔物は強いからギルドマスターも頻繁にやってきて直に探索しているらしい。カッター領のヴァンさんと予定を決めて交代制でやってるらしいけど。
「全く、うちの冒険者も含めて一度気合い入れて鍛え直さないと駄目だなこりゃ」
「全くだぜ、兄貴の手を煩わせるなんて情けないったらありゃしないぜ」
「お前がいばるな! さっきも調子に乗って魔物に追いかけられていただろうが!」
ムスタッシュにマスターの拳骨が降ってきてたよ。相変わらずだね。他のメンバーも苦笑い。それにしても今日に限ってなんか僕が来るのを知って休み取りやめてきたとかヴァンさん言ってたね。
領主の父様ならわかるけど、僕が来たぐらいで本来の休みを潰すこともないと思うんだけどなぁ。会おうと思えば町でもあえるし。
「何せこの山に潜む凶悪な魔物と戦う大賢者様が見れるかも知れないと思うと、しかし来てよかった」
そこまで! 魔法の使えない僕の戦いなんてそんなに参考になるかな?
「うちもそろそろ冒険者のレベルを上げていかないといけませんね。破角の牝牛は大賢者マゼル様に触発されてかなり頑張っていますが、他の冒険者はまだまだといったものも多いですから」
「お? もしかしてあたいら褒められてる?」
あ、姉御さんだ。何か丸太に魔物をくくりつけて運んできてるね。
「お、おいあれアーマーボアじゃねぇ?」
「あぁ、Aランク相当の魔物だぜ」
「マジかよ、破角の牝牛って女だけのパーティーだよな?」
冒険者たちが驚いてるね。うーんでもこれは。
「うん、やっぱりこれはアーマーボアじゃなくてアーマードボアだね」
「「「「アーマードボア!?」」」」
あれ? 何か皆驚いてるね。確かにアーマボアとアーマードボアは見分けがつきにくいけど、アーマードボアの方がより鱗の隙間がキッチリしてるんだ。だから自然と防御力も上がってる。素材としての価値もアーマードボアの方が高いね。
「アーマーボアだと思って倒してたわね」
「でも、そう考えるとかなり固かったかも」
「といっても私たちアーマーボアとも戦ったことなかったんだけどね」
だとしたら凄いね。アーマーボアとアーマードボアは似てるけど、強さで言えば2ランクは上だもの。
「これは、破角の牝牛に関してはAランク程度の力はありそうだな。全く羨ましい限りだ。お前らも少しは頑張れよ」
「むぅ、我が髭ではまだまだ精進が足りぬか」
「しかし女性に負けるのも悪い気はしませんな」
「強くなるのも面倒チョビ」
ドジョウさん以外は拳骨喰らってるよ。あの中だとドジョウさんはストイックな感じだね。
「主様、この連中にまかせて本当に大丈夫なのかい? 全く私がいなかったら100回ぐらい死んでるよ」
「ははは……」
そう言って上から降ってきたのはアネだ。彼女は戦闘力の高さもあって、冒険者のサポートとしてギルドに協力してもらってたりする。
「お、おいなんだよあのデカい蝙蝠……」
「ジャイアントバットでもないよな?」
「流石アネさんだ、あんな凶悪そうな魔物を何体も!」
そしてアネはすっかり冒険者に頼りにされていた。ここでは脚も蜘蛛の状態に戻っているけど、既に冒険者の間では僕の従魔になったと知れ渡ってしまってるし。
「はぁ、二本足もいいけど、蜘蛛の脚も悪くないよなぁ」
「わかるわかる。俺もあの脚にグッと来るよ」
そして中にはこんな声もあったり、こ、好みは人それぞれだよね。
「馬鹿がアネさんはあのおっぱいのある上半身が最高なんだろうが! 脚なんて飾りだよ!」
うん、こういう人もいるね。
「ところでそれサーロインバットだよね?」
「そうなのよ。すごく美味しいから主様に是非食べてもらおうと思って」
「食べるのかいそれ?」
アネと話してると姉御さんが話に加わってきたけど、蝙蝠の姿に眉を顰めてるね。
「蝙蝠系の魔物の肉は結構美味しいのですよ。特にこのサーロインバットの肉はステーキにすると柔らかくてジューシーで最高なんです」
「そ、そうなのかい?」
ゴクリと喉を鳴らしたね。う~ん量も多いし、それに明日はそういえば……。
「明日は米の収穫ですし、収穫祭をやるつもりなのでその時に出しますか」
冒険者たちが一斉に喜んだ。そんなわけで切りの良いところで探索は切り上げ、町に戻り翌日は明朝から収穫、精米して今日狩った食材も利用して料理して盛り上がったね。
「大賢者様には孫がお世話になりまして……」
「娘は迷惑を掛けませんでしたか?」
「いえ、凄く助かりましたよ」
ちなみに収穫にはワスプ家の家族が手伝いに来てくれた。ハニーのお爺ちゃんが今の蟲一族の長でもあるんだよね。
「大賢者様のお役に立てたことが私の誇りです!」
「ふむ、ところでハニーですが、未開拓地の探索に協力させたいのですが如何でしょうか? 蜂の力がお役に立てると思うのですが」
「いやいやそれは願ったり叶ったりです」
そして父様とワスプ家の間でいつの間にかそんな話がまとまっていたよ。ハニーの蜂たちはたしかに強いけどね。
ビロスは僕のことを覚えていてくれたみたいでまた僕を乗せてくれたりもした。賢いよね~。
さて、こうして収穫祭も終わり翌日――米の収穫量を見るための審査員がやってきた。これは勿論米対決に関わることだ。収穫量と品質が勝敗に関係するからね。
そして収穫量をチェックしてもらった翌日――米を馬車に積み、いよいよ僕たちは対決の場に向けて町を出発した。
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