第41話 魔力0の大賢者、更に戦う!

sideムスタッシュ


 酒場で酒を呑んでたら、隣の客が兄貴を見たって話していた。どういうことかと思ってよく聞いてみりゃ、なんでもカッター男爵の屋敷に向かったらしいという。


 男爵というと護衛対象の姫様が今泊まってる屋敷だ。俺たちは宿に泊まったが、兄貴がわざわざ来たってことは何か事件に巻き込まれている可能性がある。


 俺は兄貴に借りがある。本当なら処刑されても文句が言えなかった俺の行為を事前に止めた上、トンネルへの不満を真剣に聞いてくれて俺のためにダンジョンを見つけてくれた。


 それに兄貴にトンネルのことを文句言ったことで町から一時ハブられていたが、兄貴を見習って真面目に仕事するのを心がけていたら段々と町の皆が俺のことを認めてくれるようになり、気さくに話しかけられるようにもなった。


 冒険者達の俺を見る目も変わり、仲間を集ってヒゲ男ズというパーティーを組めるようにもなった。


 どれもこれも全て兄貴のおかげだ。兄貴が俺の目を覚まさせてくれたんだ。そんな兄貴が何か厄介事に巻き込まれている。なら、俺が動かなくてどうする! 今こそ俺が兄貴に借りを返さなければ!


「お前ら! いつまでも呑んでる場合じゃないぞ! 大賢者の兄貴のピンチだ! いくぞ!」


 そして俺たちは酒場を出て、男爵の屋敷に向かった。兄貴を助ける為、敷地内に足を踏み入れたが、屋敷の入口に近づいたその時、扉が開いてローブを纏った木偶が大量に飛び出してきやがった。


「リーダー、これは?」

「わからねぇが、善人でないことは確かだ。お前ら気合い入れろ! きっとこれが兄貴の関わってる厄介事だ!」


 俺たちは迫ってくる木偶と交戦となった。愛用のシミターを抜き、髭で拘束した後、次々と首を刎ねていく。これが俺の必勝法だ!


 他の仲間もそれぞれの持つ力をフルに活かして戦っていた。チョビは短剣を扱い、そして魔法で髭を針のようにして飛ばすことが出来る。


 ドジョウは左右に伸びた髭を強化し、取り外して双剣代わりにして戦うスタイルだ。あいつの髭は強化すると剣のサイズまで伸びて固くなるからな。


 ピアードは杖持ちの魔術士で髭操作魔法を使いこなす。あの魔法はぶっちゃけると俺たちの出来ることは全て出来る。


 今も顎髭を槍のように変化させた上で、迫る木偶へ連射して倒しまくっている。魔力さえあれば俺らの中で最強だ。


 ただ、調子に乗るとすぐ息切れするのが欠点だから、しっかりカバーしないとな。


 だけど、こいつら数が多くて倒しても倒してもきりがねぇぜ。どんだけ数がいるんだ。俺の髭縛り魔法は一度に3体を縛る程度。おまけに行使すればするほど魔力は消費されていく。


 他の仲間も魔力には限りがある。これが続くのは少々しんどいな。


「リーダー、このままだと私の魔力も限界です……」

「そうか、無理せずヤバそうだったら一旦下がれ」

「ありがとうございます。ただ、リーダーや他の皆の魔力にも限りがありますし、このままではジリ貧です。ですが、一つだけ方法があります。術者本人をみつけるのです!」

「術者本人……そうか!」


 確かにこの手の何かを操る系の魔法は術者の意識さえ奪ってしまえば止まる。くそ、なんでこんな単純なことに気が付かなかったんだ。


「よし、チョビ! お前の出番だ!」

「わかっちょび! 探してくるちょび!」


 よし、頼んだぞチョビ。時間は掛かるだろうが、その間ここは俺たちが食い止めて!


「見つかったちょび!」

「もうかよ!」


 驚きだよ! チョビ有能過ぎか!


「ただ、ちょっとおかしいちょび」

「おかしい?」

「何か既に気を失ってるちょび」

「は? そんな馬鹿な」


 妙な話だ。とにかく俺はチョビに案内されて術者っぽいのがいるという場所に向かう。その間は残りのメンバーに耐えてもらった。


「これちょび」

「……う~ん」


 確かに術者っぽいのがいた。壁にもたれ掛かるようにして倒れていて意識がないようにも見えたが。


「読めたぜ。これはフリだ!」

「フリ、ちょび?」

「そうだ。こいつは気絶してるフリをして俺たちをやり過ごそうとしているんだ。だが、俺には通用しないぜ。オラァ!」

「グボォっぉおお!?」


 ローブを来た術者の腹に思いっきり蹴りを入れてやった。すると目玉を見開いてうめき声を上げやがった。


 するとそれから間もなくして、ガシャンガシャンガシャンと木偶の倒れる音が聞こえてきて。


「リーダー! 木偶が動きを止めましたよ!」

「おお、凄いちょび!」


 木偶の攻めから耐えていた仲間の声が聞こえてきた。よし! ほら見たことが。俺の読みは正しかったんだ! 正義は勝つ!






◇◆◇

sideマゼル


 通破拳で術者を倒したことで全ての木偶が動きを止めた。うん、これでもう一安心だね。


「しかし驚きました。どこにいるかも判らない術者をこうもあっさり」

「きっとそれも探知魔法の力なのだな」

「はは……」


 いつものことだけど、全部魔法じゃないんだけどね。まぁ気配から探知はしたけど。


 さて、後は術者を捕まえにいって、一体何のためにこんなことをしたのか聞かないと――と、考えていた僕だけど、奇妙なことが起きた。


「な! 木偶がまた動き出したぞ!」

「これは一体? まさか術者がもう一人?」

「いや、この周辺にいる術者は一人だし、それは間違いなく気絶してる」


 なのに、どうしてまだ動いているんだろう?


「……まさか、自動術式?」

「は、なるほど! 確かにそれなら可能性があります!」


 僕が呟くとタルトさんも思い出したように声に出した。


「自動術式というと、アレか。予め魔力を蓄えておいた物体に術式を刻んでおき、条件にそって勝手に起動するという」

「うん、まさにそれだね。つまり、この木偶は」

「本来の術者が術を行使できなくなった時が条件になっているという事ですか」


 そういうことだね。つまり保険ってわけだ。相手は意外と慎重な性格なようだね。

 ふぅ、でもこれについてはナムライ領で読んだ本が役に立ったな。自動術式については父様の蔵書には詳しくは載ってなかったし。


 そして、自動術式なら対応手段はそんな難しいことじゃない。このタイプはより単調な動きしか組み込めない。


 そう考えればバラバラにさえしてしまえば、もう二度と動くことはないはずだ。


「あとは壊しちゃえばいいって話だね。それじゃあ」

 

 僕はやってくる木偶に向けて次々と拳を振っていった。近づかれる前に粉砕し、その数はあっという間に減っていく。


 残念だけど、この程度じゃ何の保険にもならなかったね。あっという間に僕たちの前から木偶が消えて残骸だけが残った。


 これで終わり、そう思ったんだけど。


「大賢者様、木偶の残骸が!」

「うん、まさかこんなものまで仕込んでいたなんてね」


 突如木偶の残骸が動き出し、一箇所に集まっていく。そして残骸同士がぶつかりあうようにしてくっついていき、そして巨大な木偶が姿を現した。


「グウウォオオオォオオォオオオ!」

「な、これは、流石に……」

「二段構えの術式だったというわけか。しかしデカい……」

 

 うん、確かにそのとおりだ。どうやら2つ目の命令はある程度破壊された後、集合して合体しろだったみたいだね。しかも同時に周辺の木偶から残った魔力を集める行為までしている。だから例え動いている木偶がいたとしてもこれで動きを止めた筈だ。


 だけど、おかげでやることはより単純になった。もうこれ以上はありえない。この巨大木偶さえ倒せばこの騒動も終わりだ。

 

 だけど、これだけの木偶だ。流石に簡単ではないだろう。魔力もこの木偶に集められたみたいだからパワーもかなり上がっているはずだ。


 うん、これが魔法の凄さだ。無限の可能性を秘めているのが魔法だ。僕の物理とはやっぱり根本的に違う。


 でも、魔法は本来皆の幸せのためにあるべきだ。こんな悪事の為に、使っていい代物じゃない。


 だから、どこまで通じるかわからないけど、それでもやってやる!


「はぁあああああああ!」

「グウオオォオオォオオオオオ!」

 

 木偶がその巨大な拳を打ち下ろしてきた。僕もそれに応えるように拳を打ち返す。拳と拳がぶつかった。さぁここからどう攻めようか――


――ズゴオオォオォオオン! ドン! グシャ! パラパラパラ……。


 ……うん、何か一発で粉々に吹っ飛んでしまいました。あれぇ~?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る