第17話 魔力0の大賢者、魔法勝負を受けることに!

「魔法をここで披露しろと言うことですかな?」


 いやいやいや! それはない! 絶対ない!


「父様……お話の途中で口を挟むことをお許しください」

「おお大賢者マゼル。何をいうかこれはお前にも関係していることだ。どんどん挟んできていいのだぞ?」


 それでいいのですか父様……9歳の息子にどんどん挟めって……確かに僕のことではあるんだけど。 

 

 それに、流石に辺境伯の前では大賢者呼びは控えてくれてると思ったのにまた戻ってるし。


「今宵の中心はあくまで舞踏会でございます。それなのに私的なことで魔法の披露というのも些か無粋が過ぎるかと思うのですが……」

「なんだ、怖気づいたか? やはり魔法など使えぬということだな。自信がないのだろう」


 はいそのとおりですとも。自分、魔法なんて使えませんからね何一つ! と言えたらいいんだろうけど、そうもいかないよね。

 それにこの親子にとって都合の良い展開に持っていかれるのも癪に障る。


「マゼルはこの場の空気を読んでいるだけだ。間違ったことは言っていない」


 父様そのとおりです。流石は父様そこで挑発に乗るような男ではなかった。


「しかし大賢者マゼルの魔法であれば逆にこの場に華を添えられることも確か……ナムライ辺境伯の許可が降りるのであれば吝かではない」

 

 父様ーーーーー!


「お兄様! ついにお兄様の大賢者たる実力が日の目を浴びることとなるのですね」


 ラーサ、それはね浴びなくていいんだよ。日陰のままでも構わないの。


「……父上、私もマゼルの魔法見てみたい」


 アイラまで! 何で揃いも揃って!


「ふむ、確かに私も興味がありますが、しかし実は今宵は私の父も来ておりますし、公国からも使者が来ておられるようなので流石に独断では……」

「構わないではないか。きっとここにいる父上もそう思っていると思うぞ」


 僕としてはそんな披露勘弁願いたいのだけど、どうにもそうは問屋がおろさないようで……新たに会話に誰かが加わってきた。


 一斉に声の主を振り返る。


「これはナムライ閣下、ガーランド閣下」

「ガーランド閣下にナムライ閣下ではありませんか」


 父様とワグナーが交互に声を上げた。2人並んでやってきたわけだけど、会うのは初めてでも名前でわかった。


 一人はライス様の父上であり王国の外務大臣であるアザーズ・ナムライ侯爵、もう一人は数多の武勲を上げし武将。竜殺しの異名を恣にし王国最強の将軍とも呼び名の高いハゼイル・ガーランド侯爵。

 

 この両名、同じ侯爵でありながら立ち位置もそして見た目の雰囲気もかなり違う。ナムライ侯爵は外務大臣でどちらかといえば文官より、ガーランド将軍はバリバリの武官。見た目の雰囲気もナムライ侯爵は銀髪を油で固め後ろで纏めたキチッとした印象。目元が優しく口から顎に掛けて髭が多い。ライス様とはやはり親子なんだなと思わせる。

 

 一方ガーランド将軍は金髪で首辺りまで髪を伸ばしておりその顔つきは精悍。目つきが鋭く見るものを自然と畏怖させてしまう雰囲気がある。


 ただ、ナムライ侯爵は穏やかそうではあるのだけど、同時に貫禄もあり、眠れる狼のような雰囲気がある。一方でガーランド将軍は荒々しい虎といった印象だ。


 と、それはそれとして、その後ろに控えてる女性は誰なんだろうな?


「ガーランド閣下、お久しぶりでございます」

「あぁ、何年ぶりになるかな。随分と領主として評判もいいようだな。様になってきたではないか」

「いえいえ、私などまだまだ。父上の足元にも及びません」

「はっは、お前は相変わらず自己評価が低いな。もっと自分に自信を持っていいのだぞ?」


 ライス様がやってきた2人と軽く言葉を交わす。恐縮しているのが見て取れるな。


「ところで今のお話は?」

「あぁ、実はなかなかおもしろい話をしているものだなとしばらく様子を見させてもらっていたのだがな。そこにいるのがローラン卿の息子にして大賢者になれる逸材というマゼルであるな」

「は、我が息子であります」


 ガーランド卿の目が僕に向けられた。射るがごとく炯眼にちょっと緊張した。


「御紹介に預かりましたローラン家長男、マゼル・ローランです。以後お見知りおきを」

 

 とにかく、相手は侯爵で将軍。ライス様の父親も一緒だし失礼の無いよう挨拶する。妹のラーサもそれに倣って頭を下げた。


「頭を上げて構わんぞ。それにしても、なるほど、外見からではわからぬがそこまで言うからには内に秘められた実力は相当なものなのだろう」


 そんなことはないんだけど……竜殺しの異名を持つ将軍にそこまで言われると本当緊張する。尤もただの竜なら僕でも過去に数えきれないぐらい倒したものだ。師匠が竜の肉に目がないのもあってよく狩らされたんだよね。


 でもこの将軍単騎で10匹の竜を倒したということで竜殺しなんて大層な異名がつくぐらいだ。たかが10匹でそこまで敬われる以上、当然そこらにいるようなグリーンドラゴンやレッサードラゴンじゃないだろうし。


 僕にも想像がつかないようなとんでもない竜なんだろうな。僕がかつて倒したのだとバハムートや金帝竜、全身が溶岩で出来ているマグマードなんてのもいたけど、これらもそこまで強いわけじゃないしね。


 何せ魔力がなくて魔法が使えない僕でもあっさり倒せたぐらいだもの。当然竜殺しの異名を持つこの将軍はもっととんでもない竜を相手取ったに違いない。


 頭を上げた後そんな考えを巡らせている僕を、将軍はまじまじと見てきたわけだけど。


「ならば我らもその奇跡の魔法の数々を見てみたいものですな。ナムライ卿もそうお思いでしょう?」

「ふむ、しかしですなガーランド卿。今宵はオムス公国からの使者として殿下も参っておられる。あくまで舞踏会に招待したのであって個人の魔法の腕を自慢するためではないですからな」


 うん? 今殿下といった?


「いやナムライ卿。だからこそですよ。オムス殿下も興味はありませんか? 大賢者の魔法に?」

「ふむ、そうであるな」


 すると2人の後ろにいた女性が口を開いた。年齢は僕よりは上だけど、10代後半ぐらい? キツめの碧眼にゆるく巻かれた金髪。燃えるような赤いドレスを身に纏っていて、そして、なんというか、谷間が凄い。


 どうやらこのこの女性がオムス公国から来たという使者。しかも殿下ってことはお姫様ということになるんだろうな。


「確かに噂の大賢者の魔法というものは見てみたい気もするぞ」


 姫様が興味深そうな目で僕を見てくる。

 え~と、ところで何故にそんなお隣の公国にまで僕の話が伝わっているのですかね?

 父様、一体どこまで言い触らし回ってるんだよ……。


「殿下もこういっておられる。それに、私も実に興味がある。実は私は少々大賢者という存在に懐疑的でね」

「え? 懐疑的、ですか?」

「うむ、気を悪くさせたなら申し訳ないが、かつての大賢者マゼルについて記された記録にはあまりに荒唐無稽なものが多い。だからこそ私は本当は大賢者なんてものはいなかった、もしくは本当は大した魔法など使えもしないのに周りから祭り上げられ大賢者に仕立て上げられた存在ではないかと、そう考えているのだ」


 凄い! まさにそのとおりだ……この将軍かなりの切れ者なのかもしれない。参ったな、この人の前で下手に僕の技を披露したらあっさり見破られるかも……。


 いやでも、それならそれでいい機会なのかもしれない。正直僕には大賢者なんて肩書は重すぎるし。


「……むぅ」


 う~ん、アイラが頬を膨らませて見るからに不機嫌だ。彼女は大賢者を尊敬しているとまで言っていたものね。でもごめん、本当は将軍の言うように大した存在じゃないんだ……。


「これは決まりですな。オムス殿下もこう申されておりますし、ローラン卿もいかがですかな?」

「勿論そういうことであれば受けて立ちましょう。ですが、どうやるおつもりで?」

「勿論、大賢者と言われているそちらの息子だけでという手もありますが、やはり比べる相手がいたほうが盛り上がるというもの。ですのでここは我が息子ラクナとそちらの子であるマゼルで勝負といきませんか?」


 また妙な話になってきたよ。あのラクナの方を見ると僕のことを睨み続けてるし。どうやら図書室のことをまだ根に持ってるようだ。


「勝負ですか。しかし、よろしいのですか? 自信をなくすことにならなければいいのですか」

「はっはっは、これはこれはお気遣い頂きありがとうございます。しかし私の息子は魔力が100もあります。そんじゃそこらの魔術師より魔法の腕も確かですよ。魔力の量こそが魔術を扱う者の質に繋がるのはこの世界の常識……おっと失礼そちらのマゼルは魔力が0なのに大賢者なのでしたなぁ」


 本当性格わるそうだなぁ。いちいち嫌味や皮肉を入れてくるし。まぁ真実ではあるのだけど。実際僕は魔法なんて使えないし。


「……あの男、図書室でもそんなこと言ってたがそんなに凄いの魔力100?」

「はっは、なるほど辺境伯の娘と言えどまだ魔力については詳しくなかったかな?」

「いや、そんなことはないぞ。孫はこれでかなりの魔法が使える。今の孫の魔力は確か、400だったかな?」

「ふぁ!? 400!」

「おお! それは素晴らしい。私の娘は魔力300ですがナムライ辺境伯のお嬢様には敵いませんな」

「300!?」

 

 ワグナーが目が飛び出そうな程驚いてる。何か少し気の毒になってきた。僕と魔法勝負する以前に妹に魔力で負けてるわけだし。


「ふ、ふふ、なるほど。いや確かに魔力はかなりの、も、ものですな。いやしかし、魔法と言うものは何も魔力の量だけで決まるわけではありませんからな」


 えっと、いまさっき魔力の量こそが質に繋がると言っていたような……。


「ところで勝負とは何をやられるおつもりで? 正直あまり危険なものは看過しかねますが……」


 ライス様は若干不安そうな顔を見せている。確かに城の中しかも大勢の人が舞踏会を楽しんでる中だと危険なものはね。


「それならば私にいい考えがある。丁度いいものが馬車に積んであってな。それをもってこさせよう。いかがかな?」

「それはもう、閣下が申されることであれば」

「私も問題ありません」

「そうか。ならすぐにでも運ばせよう」


 どうやら直接対決ではなさそうだね。でも、一体どんな方法なのか……。


――ヒュン!

「ん? フッ!」

――ガンッ!

「ぎゃん!」


 あれ? なんか石が飛んできて危ないなと思って吹き返したらラクナが頭を押さえて悶絶してるよ。


 飛んできた方向に返してこれってことは、まぁつまりそういうことなんだろうけど、先が思いやられるね。

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