第3話 農場 ◆0003

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-ホテル~市内-


 室長補佐として、視察団をご案内する任をおおせつかりました。私は、ホテルのロビーでお待ちしています。予定の時刻となったももの、視察団の皆さんが現れません。私は困りました。英語はよくわからないのです。通訳も、視察団と一緒にいるようです。多少のことならなんとかなりますがあまり遅いと困ります。

 このホテルへは、こういうときのために市も出資しているのです。しかし、個室までは監視していません。やはり早めに手を打っておくべきだったと後悔しました。


 視察団は、困っているのを知ってか、20分ほどで出てきてくださいました。余裕はまだあるので、問題はありません。

 用意した車に乗っていただき、市営農園まで山道を進みました。視察団のみなさんは、わが市の美しい風景に見とれておられました。山を上がる道路の整備は十分ではないかも知れません。でも、自然のすばらしさが埋め合わせてくれることでしょう。この深い緑に、私たちの町が育まれているのです。


-農園-


 市営農園では、最初に農園長が説明します。ここでは主にメロンを栽培しています。一部には温室もあり、出荷は一年中おこなわれているそうです。人気があって、いつもたくさん出荷されているそうです。私も知りませんでした。そして、画期的なのは、運搬を補助する機会です。平らな通路の上に、かごを載せた車が走り、収穫したものを人が運ばなくても済むのです。その先の選別と箱詰めは、ほぼ自動です。力がなくても無理なく働けるので、平等にも役立っているのです。この農園は、女性だけで運営されています。私も詳しいことを知りませんでした。


 視察団の方は、そんな私たちの努力も知らず、いろいろと心無い質問をしてきました。私と農園長は、怒りをこらえながら答えました。

「機械を多く使う農業は環境への負荷が高いのではないか。」

 はい。しかし、営業のためですから。

「労働者にとって運搬装置はすばらしい。しかし、土地の面積を無駄にはしないか?」

 地価が安いので問題はありません。

「この装置の維持や管理はどうなっている?」

 専門の業者に任せているので問題はありません。従業員には関係ありません。

「このメロンの人気は?」

 産地として有名なので、それなりに高く売れています。農園を指名するお客もいます。

「機械が故障したらどうしている?」

 技術者を呼びます。だいたいはすぐになんとかなります。

「その技術者も女性だけか?」

 いいえ、市の管轄外ですので、男もいます。何度も申し入れているのに改まりません。

「それは市が指示できる範囲だとお考えですか?」

 はい。市に関わる事業を任せる以上は。

「では、男性を含むわれわれ視察団も、許されないということですか?」

 いいえ、人選は市にできることではありませんから。


 私は疲れました。それでも、皆さんをホテルに送り届け、宴席に出席せねばなりません。こんな嫌がらせをする連中が相手でも、市のすばらしさを宣伝するためには、我慢するしかありません。ああ、私はなんと立派なのでしょう!

 それにしても許せません。私たちが批判されて、涙が止まりません。このような狂った連中に後で何を言われるかと考えると、いやな気分になります。どうして市長はこんな視察を受け容れたのでしょう。いえ、きっと深いお考えがあるのです。だから、最後には私たちの正しさが伝わるはずです。

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