不可視の獣(後編3)
「え? なに? ゴジラみてえなのがいるってこと?」
さすがに理解が早い。「俺にはなんも視えねえけどさ」と窓の外を眺める不動くんに、ゴジラ(仮)という名の猪は視えずとも、粉砕されて道路の上で横たわっているビルの残骸や、壊れて炎上している車、いまにも食らいつかれて体積を減らしている建物は見えているだろう。
「……戻れねえ~」
不動くんが出てきたドアを再び開いても、そこは見知らぬ部屋の中へ続いているだけだった。不動くんからしたら、自宅のお風呂のお湯を溜めようとして風呂場のドアを開けたら"ここ"に繋がっていたらしい。
「え、俺どうしたらいいの?」
「…………………………」
そうだ。そう尋ねるに決まっている。不動くんは霊感がないから、武力で解決できないお化けのことは私に頼るしかない。
「ごめん」
「ん?」
「私にも……わかんない」
「…………………………………」
「あんなおっきくて、なんでも吸収しちゃうようなやつをどうにかする方法なんて知らない。なんとかできるかもしれない人……人? に連絡はとったけど、現れないし……」
「つまりぃ」
不動くんは窓の外を見る。猪は視えずとも、崩壊していくビルや周囲の建物のことはしっかりと視認できるだろう。
「そのよくわかんねえやつ待つか、そのお化けにどうにかされるかどっちかってこと?」
「…………うん」
「ふぅん………………」
不動くんは、私の顔をしげしげと見つめる。
「じゃ~あ、とる手段は一つだよなあ」
にぃ、と口の端が歪んで、私の手をとった。
「逃げるんだよ。そのノロマがつくまでな」
「でも……」
「あと」
それはとってもとっても、悪い笑みで。
「むかつくから、あれに一撃入れてやるんだよ」
*****
「あっはっはっはっ! 免許とっててよかった~~~!!!!!!!!!」
外に出て、鍵が刺さっていた誰かの車に乗ってこの仙台市を駆け回る。猪はゆっくりとこちらを向いて、あちらこちらを食い散らかしながら進行方向をこちらに定めている。
「一撃入れるって、どうするの?」
「よ~~~く見ろよ。あいつが壊したせいで燃えてる車とか延焼してる家とかあるだろ?」
「うん」
「あいつ、それには近づかねえ、だろ? 潰れて燃えた車はあるけど、燃えたあともおかまいなしに潰されてる家も車もねえもんな。熱いのはさすがに嫌らしいなあ」
たしかに燃え上がっている家や車を避けて動いている。炎が体を覆う蔦を侵食したときは、蔦をちぎってその辺に捨てていた。
「たしかに、嫌がってるみたい……」
「んで、なんかわかんねえけど一直線に三島追ってるんだろ? じゃあやることは一つだ」
まずは距離をとる、と車を全速力で飛ばす。メーターが、本来警察に捕まるであろう速度まで上昇する。しばらく走り回ったところで、不動くんが呟いた。
「そろそろだと思うけどなあ」
「?」
「安全圏だと思うからスピード落とすけど、振動とかあるかもしれないからどっか掴んでろよ」
「何するの?」
「一直線に三島を狙ってるなら……そろそろあいつがあそこに到着するころだと思うんだけど」
「どこ?」
「ガソリンスタンド♡」
悪戯っ子のような笑みのあとに轟音が響き、地が揺れ、遠く離れた後方で巨大な火柱が天を突いた。
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