家賃一万円
友達のアパートの家賃が一万円だと聞いた。
「別にそんな面白いもんでもないけどな」
「いや、絶対なんかあるだろその値段」
呆れた様子の友達にお願いして、大学の帰りにアパートへお邪魔させてもらうことにした。しかしあえて値段の理由は聞いていない。
「当ててやるから、安い理由」
「勝手に人ん家でクイズやりやがって」
よくありそうな住宅街の中を通り抜けて、「ほら、あそこだ」と指さした先にあるのは、どこにでもありそうな普通のアパートだった。新しくはないが、古すぎるわけでもない。他にも住人はいるようで、小さいベランダで老人が植木鉢をいじっている。
アパートの名前で検索したが、事件も事故の記録もなく、大島てるにも記載はなく、1K8畳ロフト付きのよくある一人暮らし向けの物件だった。
「え、なんで……?」
「あと10秒~」
「ええ、マジでわかんない」
「はい時間切れ。答えはアレね」
友達が、二階の部屋のベランダで植木鉢をいじっている老人を指した。
「あのじいさんな、下を誰かが通ったらたまに物を落としてくるんだよ」
「……は?」
「植木鉢とか、中身入ったペットボトルとかさあ」
「それ最悪死人出るだろ!?」
「だから入居者少なくて安いんだよ。まー、あそこの下通らなきゃいいから」
「大家は追い出せよそんなやつ……」
「だよなぁ」
慣れてしまっているのか、友達はのんきだ。たしかに玄関はベランダとは反対方向だし、一番近い駐輪場は屋根に守られているからわざわざ下を通らなければ問題だろうが。
「でもそんなとこ住めるお前が怖いわ」
「うるせえ金は大事なんだよ」
それから何ヵ月か経った頃、友達が足を引きずっていた。
「どうしたんだよ」
「あの植木鉢落とすクソジジイの話したじゃん」
「うん」
「昨日の強風でクソジジイのベランダにあった植木鉢が落ちて割れて……飛んできた破片で怪我した……」
「ばか……」
やっぱり住む場所はある程度値がはるところでなくてはだめだと学んだ。
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