石像

 大人たちは話し合った。


「今はみんな怖がって誰もいかないけど、時間が経ったら肝試しとかする子供が絶対出てくる」

「立ち入り禁止とか看板を立てる?」

「怖いお化けが出るとかいう噂を流すとか……」

「おいおい自分たちが子供の頃のことを思い出せよ。そういうところにあえてワクワクして突っ込むバカが出てくるだろうさ」

「だったら逆に……」


*****


 怪しいものが好きだ。

 曰くつきのものとか、廃屋とか、どうやって飲み代を手に入れているのかわからないレベルの無職アル中ばかりが集う居酒屋とか、ともかく普通の人が避けるような怪しいものが好きだ。

 だから、今日もそんな怪しいものを見るために、名前しか知らない町の郊外まで足を運んだのだ。

 世紀末と呼ばれた頃、とある宗教団体の末端の何人かがこの町の山の中でも集団自殺したそうだ。その山の中には信者たちが暮らしていた道場があり、そこで集団生活とともに精神修行やらなんやらをしていたようだ。

 その道場は既に取り壊されているようだが、彼らの生活の痕跡はまだある。

 石像だ。

 そこの宗教では、精神修行の一環で石像を彫っていたようだ。大半は道場の取り壊しのときに破棄されたようだが、大きいのはまだ残っているらしい。

 それを見に来た。自己満足のために。

「これか……」

 数人がかりで彫ったのであろう、人よりも大きな団体の神様を模したらしい石像。二十年も雨風に晒されているせいか汚れや劣化が見えるが、それが妙な迫力を産んでいる。

 しかし周囲には肝試しをした連中の置き土産なのかゴミがいくらか散乱していて、引きでみると雰囲気が壊れるのが残念だ。

「しかしなんでこんなところにあるんだろう」

 かつてあったという道場はもっと奥にあったはずだ。昔の情報だから間違いがあるのだろうか。

 一応道場跡も見てみようと奥に入り込んでみる。

「ん……?」

 道場跡地に着いてSNSにあげる用に撮影をしていると、周囲にまた大きな石像があった。

 さっき見た石像とほぼ同じようなサイズ、形。しかし迫力は比べ物にならず、背筋にゾクゾクとしたものが走る。

 

 ざわざわ ざわざわ

 ざわざわ ざわざわ


 木々が揺れる。風が吹く。石像は当然ぴくりともしないが、表面で何かが揺れた。

 経年劣化で出来たであろうひび割れから、じわりと黒い液体が染み出て垂れる。

「うわっ」

 驚いて一歩下がると、なにかがどんと背中にぶつかった。何かと思って振り返って、視界が真っ黒になった。



*****


「こんなかんじでいいかな」

「ああ、うまくできてるじゃないか。偽物の石像」

「肝試しに来た連中はこれを見て本物だと勘違いして満足して帰る、か」

「ここから奥は連中の土地だからなんもできないからな。これが精一杯だ」

「もし好奇心で奥まで行くやつらが出たらどうする?」

「さあな……さすがにそこまで行くと、どうなっても知らんさ。本人の責任だよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る