クリスマスだ

 クリスマスだ。……だからといって何もないが。


 あの不動くんだってさすがに受験直前にクリスマスパーティーしようぜ! なんて提案はすることなく、アプリで「めりくり~」というメッセージと、クリスマスっぽいスタンプと、電子マネー1000円分が送られてきただけだった。こっちもかわいいスタンプを購入してプレゼントすると、さっそく使って連打され、メッセージがどんどん流れていく。

 私は今日という日をどう過ごすのか? 勉強だ。受験生だ。そして余裕で合格できるほどの自信はないので、クリスマスだろうと勉強するしかなかったのだ。

 夜。日付も変わり24日から25日になったとき、コンコンという音が窓の方から聞こえてくる。カーテンの隙間から見える窓の外の光景には、男の拳があった。褐色で手首がじゃらじゃらしたそれはものすごく見覚えのあるそれを見つめつつとりあえずじっとしていると、手は動いてカーテンの向こうで大きな影が何かをしている。そのまま見守っていると「カチャ」という音がして窓の鍵が開いた。

「メリクリ~」

「……なんで窓を外から開けられるの」

「そこはまあ、いろいろ。えへへ。壊してないから安心してくれよ!」

 案の定、サンタコスの不動くんだった。夜中に堂々と不法侵入をしないでほしい。しかもサンタ衣装は赤じゃなく黒だ。

「赤だとどうしても闇に紛れにくいからな……」

「それ、臓物ぶちまけるほうのやつなんだけど」

 普通の赤いサンタに対して、ヨーロッパのどこかの国の伝承で黒いサンタというものもいたはずだ。黒いサンタはクリスマスに悪い子に臓物をぶちまけるらしい。

「はい! プレゼント!」

 ニコニコした顔で箱を差し出してきたので、大人しく受けとる。包装が婚姻届を接いだものである点に関してはスルーした。

「じゃ~な!」 

 そう言ってさっさと窓から退散する。

「さむ……」

 突飛な行動には慣れたので不法侵入されても動揺はない。まあこれくらいはやるだろうな……という納得がある。さてやけに軽いこのプレゼントはなんなんだろう。窓を閉めてから、開封する前にメッセージカードを読む。

『実用的なものにしたぜ!』

「……………………………」

 実用的。それはいいことだ。この時期は趣味の合わないプレゼントがどうのという話が山ほどある。

 だが、箱の中は、

「…………………金塊…………5g…………………」

 実用的とかいう次元なのだろうか、これは。プレゼントというものを何か履き違えてないか? いや、私は不動くんにどんな女だと思われているんだ? というかこれはいくらなんだ?

 そう思っていると、箱の底にもう一枚メッセージカードがあるのを見つけた。

『売り払ってもヨシ、資産としてとっておいてもヨシ、指輪とかに加工してもヨシだから自由にしてくれ。金相場は日々変わるから売るときは注意な!』

 加工OKでギリギリロマンチック……いやどうなんだろうか……一応ロマンチック要素はあるかもしれない。

「……いや、いいけど……いいのかな……」

 頭を悩ませながら、クリスマスの夜は更けていく。

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