好きな子どんな子

「好きな子ができたんだ……」

 ちょっとコミュ障でオタクの友達が言ってきた。

「これから受験だけどいっしょの大学に行けるように今さらだけどがんばろうかなって……」

「おー、いいじゃんいいじゃん。拍手~」

 周囲にいた男友達がぱちぱちと軽い拍手をする。オタクの友達は恥ずかしそうに照れていた。

「で? どんな娘? 画像くらいあるだろ? この日陰様が採点してやるよ。ほら出せ。ジャンプしろ」

「カツアゲじゃないんだからさ……」

 御山があきれたように諌めてきた。

「で、どんな娘なんだよ」

「この娘なんだけど……二年生の……」 

 その場にいた男が全員画像を見る。

 黒髪で目が大きくてメガネでちょっと地味だけど顔が整ってて胸が大きい娘だ。オタクってこういう子好きだよな。

「知ってる~同じ中学だったわ~」

「俺も」

「俺もー」

「じゃあ僕も同じ中学だね。しゃべったことはないけど……」

「そうなの? なんか知ってることとかさ、ないかな……教えて欲しいけど……」

 この中でオタクくんだけは別の中学だったもんな。じゃあ教えてやるよ最重要事項を。

「この娘と寝たことあるやつ手ぇ~あげて~! はい!」

「はい」

「はーい」

「ろくな男がいねえ空間だな」

「テメエが言うな」

 オタクくんは愕然とした顔をしている。かわいそうに。恋したあの子は中学時代に名を馳せたビッチなのだ。

「まー、今は知らないけど? 俺が寝たのは中学のときの思い出だしぃ」

「俺は高一のときのくらい前の思い出なんだよな」

「二週間前の思い出」

「現役じゃん」

 吐きそうな顔で泣いてるオタクくんに、御山が寄り添って慰めていた。御山は優しいなあ。

「清純な子だと思ってたのに……」

「見た目に騙されやがって……」

 これだから女遊びをしたことがないやつはダメだ。

「まー、俺は止めねえけどオススメはしねえなあ。誰とでも寝る尻軽だし」

「おえっ……ううっ……」

「まあ頼めばお前とも寝てくれるだろうけど」

「………」

 そこで泣き止んでんじゃねえよ童貞。

「まあ病気とか怖いしやめとけば?」

「ううっ……気分悪い……」

「保健室行こう? ね?」

 御山がオタクくんといっしょに保健室へと向かっていった。


「……なんて軟弱な野郎なんだ」

「女に慣れてねえから仕方ねえ。今度尻軽データブックでも作ってやるか……」

「データブック作れるほど情報あんのかよ……」

「お前だって作れるだろ~?」

「俺はもう女遊び卒業してるの分かってるだろ」

 三島一筋なんだよと伝えるとハイハイとあしらわれた。

「しかしあの娘ねえ……」

「なあ……」

「うーん……」

「例えビッチじゃなくてもおすすめしねえけどな」

 顔はかわいいし、勉強もちゃんとするし、気が利くし、男関係が緩いこと以外はいい子だと思う……けど。

「"あれ"集めてるのはなあ……」

 彼女の部屋に行って事を終えたあと、しきりに爪を切ってあげると言っていたから切ってもらったのだ。

 そして切った爪をゴミ箱に捨てずに、小さな瓶に入れた。「は?」と思っているとその子はそれをしまうために戸棚を開けた。

 そこにはびっしりと、爪が詰まっている小瓶がたくさんあった。

「ちょっとね、あの趣味はね」

「うん……あれはちょっとなあ……」

「最近戸棚増設したんだよな……」

「お前そんなことわかるくらい定期的に寝てんのかよ……」

「だって気軽にオッケーしてくれるし」

 ほんとろくなやついねえなこの空間……とまともな男である御山が戻ってくるのを待った。

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