あたしメリーさん。今……。
あたしメリーさん。今ごみ捨て場にいるの。
SNSに知らないアカウントからそういう内容のメッセージが送られてきた。
「どこの……」
ごみ捨て場とかいくらでもあるぞ、とツッコミを入れる。
「どこって、何が?」
同棲中の彼女が後ろから覗いてくる。俺たちはお互いのスマホは見られても平気なたちなのでよくあることだ。
「知らんアカウントからよくわからんのが来た」
「イタズラ?」
「じゃねえの。多分……」
さっさとブロックして、すぐにそのことは忘れた。
『あたしメリーさん。今タバコ屋さんの角にいるの』
翌日、またメッセージがきた。アカウントはブロックしたはずなのに、いつの間にか元に戻っている。
「……?」
なんかのバグか? と検索するがそれらしい報告はない。まあいいか、とまたブロックをする。
『あたしメリーさん。今あなたの家の前にいるの』
そしてさらに翌日、またメッセージがきた。ブロックはまた外れている。
さすがに『メリーさん』の話は有名だから知っている。だがSNSの話だっけ?と思いながら検索をすると、やはり元はメリーさんから電話がかかってくるという内容で、四回目の連絡で最後だと、GoogleとWikipediaが教えてくれた。
……おい、文章がWikipediaのまんまじゃねえか。手抜きか。ここは家じゃなくてアパートなんだよ。そもそもメリーさんは西洋人形を捨てたことから始まる都市伝説だが俺はそんなことしてねえよ。真面目にやれ。
さて、Wikipedia先生によれば、ここで外に出たら『今あなたの後ろにいるの』がきて終わりとのことだ。つまり外に出なければ良い。
いや駄目だわ。夕飯焼き肉の予約とってるんだよ。あと一時間後には家出なきゃいけないんだよ。だいたいこんなわけのわからんイタズラでなんで外に出る自由を侵害されなきゃいけないんだ。
俺はメリーさん、もといイタズラの犯人がいやしないかと外に出てアパートの前を見渡すが、特に人がいる様子はない。馬鹿馬鹿しい、とアパートの自分の部屋に戻ると、常時マナーモードにしているはずの携帯のSNSに通知がきたことを示す軽やかな音楽が鳴った。
『あたしメリーさん。今 あなたの後ろにいるの』
みし、と誰かが床を踏みしめたような音がした。
「ねえ」
女の声がした。
「ねえ……どうしたの?」
「ん、いや……」
背後から聞こえるそれは、聞きなれた彼女の声。
……静かに、振り返る。
「焼き肉の時間まだだけど、出掛けるの?」
「あー、いや、なんでもない」
そこにいるのは、いつも通りの彼女の姿。黒髪のショートカットで、日焼けをしていて、ラフなかっこうをしている。
「ねえ、ちょっと頭見てくれない?」
「頭?」
「なんかやたら痒くて……腫れてたりしない? 髪が邪魔で鏡じゃよく見えなくて」
虫にでも刺されたんだろうか。言われた通りに後頭部を見る。後頭部の髪を掻き分けると、特に腫れたりはしていなかった。
ただ、まるで西洋人形のような金色の髪が、何本も生えてきていた。
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