塀の穴
壁に穴が開いていた。
「んー?」
良く通る道にあるブロック塀。それに人の手によるものであろう、輪郭が少し歪な穴が空いていることに気づいた。そしてその穴に向かって大きな矢印が一本、ピンク色のスプレーで描かれている。
まるで、覗けと言わんばかりに。
「なんだこれ」
吸い込まれるように、中腰になってそこを覗こうとする。軽く見た感じでは、穴は塀を貫通しているらしく、奥は明るくなっている。
────あそこらへんは変な人が住んでるから近寄らない方がいいよ?
ふと、忠告を思い出した。近道を発見したと友達に報告したときに、場所を教えたらそう言われたのだ。ただ通行するだけだからと気にしていなかったが、そういえばここはまさしくその場所だった。
変な人がいる地域の塀に空いた、不可解な穴。
(……こんな怪談あったな)
主人公は不可解な穴を見つけ、それを覗こうとする。しかし穴の向こうから刃物が飛び出してきて、辛うじて避けて難を逃れるというストーリーだ。
「……やめとこ」
怪談みたいに何かが飛び出したら嫌だし、覗き見は趣味が悪い。もしかしたら虫なんかが住み着いているのかもしれない。自分の想像に背筋をゾクゾクとさせながら、中腰から立ち上がり、そのまま一歩後ろに下がった。
途端、誰かにぶつかった。通行人だろうか。
「あっ、すいませ………………」
「…………………………………………………………………………………………………………………………」
それは、金槌を持っていた。
白髪とが混じった黒髪の中年。女なのか男なのか、ボサボサの髪と老けた顔のせいでそれすらも曖昧だ。それは無表情でこちらをじっと見つめながら、高々と金槌を振り上げている。
「ひいっ!?」
「…………………………………………………………………………………………」
驚いて尻餅をついてしまったが、それは追撃してくるような様子はなかった。ただただじっと見つめていて、やがてのっそりと歩き出し、あの穴が空いた塀に囲われた家の中へと、入っていった。
────あそこらへんは変な人が住んでるから近寄らない方がいいよ?
道に尻餅をついたまま、友の警告が頭の中で繰り返されていた。
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