新天地
争いばかりの村を抜け出して、幾日経ったろうか。
『さあ、ここが新しい我が家だ』
ニンゲンの家の天井裏。真っ暗なそこに入り込み、自前のランプをつける。
『わあ! 広い!』
『すごいすごーい!』
子供たちがはしゃぐ。広い。本当に広い。我々の何倍もの大きさのニンゲンが暮らしている家の天井裏なのだ。元々の家とは比べものにならない。外の雨風の音はうるさいが、村を出てからの野宿や、いつ強盗が現れてもおかしくないかつての村での日々を思えばそれくらいなんてことはない。
『でもニンゲンに見つかって殺されないかしら』
妻は不安そうだ。
『ニンゲンは我々のことが見えないし、この天井裏まではわざわざ入ってこない。ちゃんとリサーチしてるさ』
その証拠に、うっすらと、そして均一に埃が積もっている。
『さあ! まずは掃除からだ!』
『はーい!』
子供たちの大きい返事。ああようやく妻子と平穏な生活が送れると思うと、私も自然と笑顔になった。
*****
「………………」
虫がいる。
「手強いやつめ」
殺虫剤片手に自室で戦いを繰り広げていたが、ひらりひらりと逃げられ、また姿を隠された。ここ数日、これの繰り返しである。
「こうなりゃ最後の手段だ」
漫画喫茶への避難の準備を整え、蒸気式の殺虫剤を設置した。水を入れてしばらく経てば薬剤の蒸気が立ちこめ、虫を殺してくれる優れもの。
最近天井裏に住み着いたネズミか何かも、ついでに死んでくれることを願いながら、俺は蒸気式殺虫剤に水を入れ、部屋を出た。
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