いつもの場所

 よく交通事故が起こる場所がある。


「またかよ」

「まただな」

 路肩に停められた、窓ガラスが割れた車。パトカー。警官と話している大人。分かりやすい、交通事故現場。

 ここはいつもいつもそうだった。見通しが悪いわけでもないのに、しょっちゅう事故が起こる。死人はでないで、ガードレールや街路樹にぶつかる程度であるのが不幸中の幸いだろう。車、バイク、スクーター、自転車、三輪車、種類問わず事故に遭う。

「なんでだろうな?」

「なあ、なんでだよ」

 友達の一人に尋ねる。なんせここで事故を起こしたことがあるのだ。自転車に乗っていて、なぜか盛大に街路樹にぶつかり、三針を縫う怪我をした。

「なんでって言われてもな……」

 ううん、と小さく唸る。

「なんかさあ、急に頭がぼーっとなったんだよ」

「急に?」

「急に。もしかして脳の病気かと思って病院行ったけどなんもねえの」

「あ、それ同じ事言ってた。近所のおっさんもここで事故ったんだけどさ、急に頭がぼーっとなって気がついたら木にぶつかってたって。で、病院行ってみたけどなんもなかったって」

「え、何それ怖ー」


 私には霊感がある。

 だから、よく交通事故が起こる場所に、小さいお化けがいることも知っている。

 お地蔵さんくらいのお化け。真っ黒で、頭からローブをかぶったような形をしている。そして、おそらく目にあたるのだろう、縦線が二本入った真っ白な仮面をつけている。手なのか、体から生えたちっちゃい突起が二つ、ぴょこぴょこ動くのは少しかわいい。

 でも、そのお化けが現れると、事故が起こる。

「こんにちは、事故のお化けさん」

『コニチハ』

 事故の後処理をしている警察を眺めているお化けに話しかけてみた。

「なんで事故を起こしてるの?」

『ンー、親切? 私優シイ』

「親切?」

『“アレ“は、本当ニヒドイコト、スルカラネ。ココで事故シテ、アッチイカナイ、イカナイ、スバらしい』

 少し離れた場所に、お化けがいた。

 それは人間ぐらいで、ボロボロの服を着たお化け。大きな鎌を持って、空いている手に、生首を持っているお化け。

 そしてそれが憎々しげにこちらを睨み付けて、地団駄を踏んでいる。

『マーヌケマヌケ。私アイツ嫌イよ。ベー』

「だから事故を起こして、あっちに行くのを邪魔してるの?」

『ソーなの。アイツ本当にロクなコトシナイの。ヒトだけじゃないヨ。私の友達もヒッドイ、ケガしたノ。ムカつくから邪魔シテルノ。アイツ動けナイカラね』

「そうなんだ。ありがとう」

 お礼に鞄に入ってたチョコをあげると、『ヤッタネ』と喜んでくれた。

 いつの間にか鎌を持ったお化けは消えていて、それを確認したら、小さいお化けも『ジャーネ』と消えていった。

 交通事故が起こる交差点。今日も警察が、けが人がいない事故を処理している。

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