ゴスロリ
やっと、やっと手に入れた。
朝六時から有名なロリータブランドの店に並び、長時間の行列に耐え、ようやく新作かつ限定のゴシックロリータ服を手に入れた。これこそが私の生きる意味。働く意味。全ては大好きなゴスロリの衣装を着るため。
「最近それよく着るよね。お気に入り?」
「うん! この前買ったけど本当にかわいくて最高!」
友達に問われ、私は最高の笑顔で答えた。
大好き。大好き。大好き。もう絶対、一生、離さない。
「えーっと……どうしようかこの服」
「店でも開けそうだ」
ゴスロリ趣味の妹が事故で亡くなってから数日。ひとり暮らしのアパートを片付けようと家族で集まった。整頓はされていたが、服、服、服────そこかしこにロリータだかゴスロリだか、ともかくあのヒラヒラした服が集められていた。
「高そうな服ねえ。捨てるのももったいないけど……」
「まあ、捨てるよりは同じ趣味のやつらの手に渡ったほうがいいんじゃねえの」
そう言って俺は、もってきた空段ボールに服を詰め始めた。
「うそっ!」
「どうした」
「*****の限定のやつ! メルカリに出てる!」
「……すごいの?」
「すごいよ!」
彼氏には私の興奮は伝わらない。彼にゴスロリの趣味はないからしょうがないが。
大好きなブランドが数年前に発表した一着。たちまち売り切れて、そのあとにゴスロリにハマった私には手に入れようのない存在になった。あとで写真を見て一目惚れし、奇跡が起きないかとオークションサイトなどを見て回り続けて、ようやく見付けたのだ。
ライバルが目を付けぬうちに、私は「絶対に欲しいです。提示金額より多く出します」と私は書き込んだ。
問題なく取引が済んで数日。狙っていた服は私の手の元に来た。
「ねえ、どう?」
「……ヒラヒラしてる」
「もう!」
シンプルイズベストな彼氏にはこのかわいさは分からないだろう。でもそのやりとりすら楽しい。長年望んでいた服が私のものに。これが多幸感ってやつなんだろう。
「ん」
「なに、肩どうした」
「ちょっと凝ったかな。仕事のせいかな」
なんだろう、この服を着てから、肩が重い気がする。
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