熊のぬいぐるみ
私は熊のぬいぐるみがないと寝ることが出来ない。
「よし」
枕元の熊のぬいぐるみを撫でる。子供っぽいのは分かっているが、こればっかりはやめられない。
子供の頃アニメで、寝ていた子供がお化けに足を大きなはさみで切り落とされて死んでしまうというシーンを見たのだ。そして主人公のもとにもそのお化けが出たが、そのお化けは熊が大嫌いで、枕元に置いていた熊のぬいぐるみを見て何もせずに退散した、というストーリーだ。
子供向けアニメだが、幼い頃の私には凄く怖くて、大人になった今でも熊のぬいぐるみがないと不安なのだ。バカバカしいとは思っているが、もう心に根付いてしまっているのはしょうがない。
しゃき
「え?」
はさみを使ったときのような音がした。独り暮らしで、他には誰もいないのに。
しゃき
もう一度、音が。音がしたほうを見ると、大きなはさみを持った、まさしくアニメに出ていたようなボロボロのローブを着たお化けが、部屋の真ん中に立っていた。
「ひっ……!」
動けない。お化けははさみを動かしながらこちらに近づいてくる。
とすっ
弧を描いて、何かがお化けを通り抜けて落ちた音がした。なぜか床に、消しゴムが落ちている。机の上にあるはずなのに。
お化けは少し消しゴムを見たが、また私に向き合ってきて刃物を向ける。
どすっ
また、音がした。また弧を描いて、お化けを通り抜けた軌道が見えた。今度はおみやげにもらった重い文鎮だ。
『……………』
お化けは軌道から消しゴムや文鎮の発射地点と推測できる場所、熊のぬいぐるみがあるあたりをじっと見ている。
が、また私に鋏を向けた。
ぐらり、と揺れた。
部屋の隅に置いてあった、上着や帽子がかかっているハンガーラック。それがお化けめがけて倒れてくる。
どごっ、という重い音を立てて、不自然な動きでお化けを通り抜けて床に倒れた。
『…………………………………………』
お化けは、熊のぬいぐるみをじっと見ている。
じっと黙っていたが、お化けはやがて煙のように消えていった。
「助かった…………」
ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。きっと私は終生、寝るときに熊のぬいぐるみを欠かすことはできないだろう。
……ところで、これを片付けるのは私がやるのだろうか。
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