事故物件

 事故物件に引っ越した。


 別にそういうのは気にしない性格だ。昔もこの手の物件に住んでいたが怪現象なんて一回も起こらなかった。

「よくもまあ殺人事件なんか起こった部屋に住めるな」 

「安いし」

 引っ越し後、友人数人が来た。祝いという名の酒盛りだ。

「泊まる?」

「ゼッテー嫌だ」

「チキーン」

「うるせぇ」

 夜も更けてきた頃に、「なあ」と友人のうちの一人が尋ねてきた。

「お化け的なやつ、ないの?」

「ないない全然ない」

「誰死んだとかわかんの」

「知らね。調べりゃ分かるけど、興味ないし」

 何本目かのビールに手を付けようとしたとき、ドンドンドンドン!と玄関ドアを連続で力強くノックされた。全員びくりと体をこわばらせる。

 全員息を潜めて、少し後に足音が去る音をしたあとに、玄関を出て確認する。

「うわっ」

 外側が、口紅のようなものでぐちゃぐちゃに落書きされていた。子供の、いや幼児の落書きのように、紅い線が禍々しい雰囲気を持って縦横無尽にドアの上を走っていた。

「なにこれ、キモっ」

「キチガイ? この辺治安悪かったっけ?」

「うーん、あんま良くないっては聞いてたけど……」

 話していると、スマホをいじっていた友人が「うわっ」と声をあげた。

「お前、この部屋の殺人事件のこと、調べてないって言ってたよな!?」

「お、おう」

 友人の顔は青い。

「この部屋の殺人事件の犯人、まだ捕まってないぞ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る