変更
その日私はいつもより十分早く起きた。
テレビでは新しいカフェの特集をやっている。それを眺めながらご飯を食べたあと、特売品のラップを買うためにスーパーに買い物に行った。ラップだけではなく石けんも安くなっていたので買った。
「ラッキー」
そんなことを思いながら、隣の市の映画館に行くために駅に行った。次の電車の五分前に着いたので、駅のホームで待つことにした。
そして今まさに電車がきたときに、私の背中は誰かに押された。
「………うわっ」
そんな声を出して、私は目覚めた。なんの変哲もない、自分の部屋。体はどこも怪我していない。
「……なに、なんかあった?」
隣で寝ていた彼氏が、寝ぼけながらも聞いてきた。ふわあと大きなあくびをしている。
「あ、うん、いや、なんでもない」
「? まあいいや、朝飯にしようぜ」
彼氏はまたあくびをしながらキッチンへと向かった。
時計は、いつも起きる時間の十分前を指していた。
「何買うんだっけ」
「ラップ」
カフェ特集をやっていたテレビを見ながら朝食を終えて、スーパーへと向かう。
「あったあった」
私がラップを手に取ってると、「お」と彼氏が声をあげた。
「石けんも安いじゃん、買ってこーぜ」
「え? そ、そうだね」
……なんだろう、この不気味な既視感は。
映画館に行くためには電車で隣の市までいかなければならない。
(いや、元から決まってた予定だから)
十分早く起きることなんてたまにあることだし、カフェ特集も、もしかしたら前の日のテレビで「明日はカフェ特集!」とかやってたのかもしれない。ラップの特売は前から分かっていたことだ。石けんが安かったのは……偶然だろう。
(夢の通りなんて、そんなこと)
それでも私は、ホームに立つ、いつもの位置から一歩下がった。
(そんなこと、あるわけ────)
背中が押されて、体が大きく前に躍り出た。
私ではなく、彼氏が。
「───────っ!」
私は必死で彼の腕を掴む。ホームから落ちるギリギリで彼は踏みとどまった。
「何しやがる!」
彼は、背中を押した不審者を追う、近くにいた人が不審者の足をひっかけて転ばせてくれて、彼氏が犯人に馬乗りになった。
周囲の人々も巻き込んだ大捕物。
そんな中、私はただひたすら怖くて、ホームにうずくまって震えていたのだった。
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