第72話【白滝 一穂の後悔】

「本当に誠なのか?」

「・・・・・」


目の前の水無月は黙って立ち尽くしていた。


「私・・・ずっとお前に謝りたかったんだ!!」

「・・・・・」

「お前に謝れなくて私はずっと後悔していた!!」


手を胸に当て両手の自動小銃を手から落とす白滝。


「ずっとずっと私は・・・」


滂沱の涙を流し座り込む白滝。


「・・・・・」


かちゃり、と自動小銃を拾う水無月。


「・・・!?」


ぱららら、と自動小銃から銃弾が白滝に撃ちこまれる。

脚を撃たれる白滝。


「そうだよな・・・そう簡単には許して貰えないだろう・・・・・ん?」


脚を撃たれたのにまるで痛くない事に気が付く白滝。


「なん・・・だ・・・?」


視界が歪んで行く、周りが花畑と吐瀉物、蛆が空を舞い

シラスの群れが回遊し、モグラが歌を歌い、溶岩がそれら全てを焼き払い

水無月の顔が空に浮かび始めた。


「あぁ、本格的に効き始めた様だな」

「誠・・・これは・・・何・・・?」

「俺は大麻の怪人だ

こうしてジャンキーにしてしまえば相手がどんなに強い奴でも

問題が無い、そしてお前は誰かと見間違えている様だが

お前が言う誠とか言う奴が

こんな所に居る訳無いだろう」

「・・・・・」


絶望に顔が歪む白滝。


「・・・殺せ」

「いや人質にさせて貰おう、せいぜい自分の甘さと運の無さを後悔するんだな」

「・・・・・」

「いや、こっちの方が良いか」


口の中に手を突っ込まれる白滝。

もがもがと体をゆすり、何とか離れる。

そして白滝の思考は過去に閉ざされた。

夢の中で彼女は水無月と出会い、謝罪し許されて、そして大きくなり

交際し、結婚し、子を成した、子供の育て方で口論したり

子供の進路について話し合ったり

子供が成長し恋人を連れて来て、一緒に酒を飲んだり

孫が出来て共に公園のベンチに散歩に出かけたりした。

そんな当たり前の日々が本当は無い事に涙した。

あぁあの時あんな事を言わなければ良かったと心の奥底から白滝は後悔した。

そして口から次々と謝罪の言葉と吐瀉物が溢れ出て来る。


「ごめんなさいごぼ、ごめんなさいごめんなさい・・・おうえ・・・」

「よし、これで良いな」


水無月に成り済ました怪人は吐瀉物で汚れてしまった白滝を掴んで前に進んだ。

黒沢と金沢の下に向かい殺す為だ。

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