第35話【震え】

野木久保は学園から抜け出して帰路に着いていた。


「・・・う、やべぇ・・・震えて来やがった」


体内に注射した覚醒剤の禁断症状が現れ始めて

野木久保は公園のトイレに入った。


「ふー・・・ふー・・・」


トイレの個室で注射針を取り出して覚醒剤を注射する野木久保。

注射器を見ながら自らの境遇を思う。


元々彼はH5の中の良心と言われる存在だった。

他のH5はスリルや快楽、裏社会勉強の為に非合法な事に手を出していたが

野木久保は表社会で悠々と暮らすつもりだった為

その様な悪徳とは無縁の生活を送っていた、そう半年前までは




『誠也、悪いが暫く小遣い抜きだ』


半年前、父親から呼び出された野木久保は唐突に告げられた。


『は?どういう事だよ親父』

『すまないが、少し資金繰りが必要でな、必要な所は締めなくてはならない』

『い、いやだって俺の小遣い月一千万だぜ?

それ位は許してくれても良いんじゃねぇのか?』

『文句を言うな、俺だって車やら別荘やら売ったんだから

売れるならばお前や母さんだって売りたい位だ』

『じゃあ俺は如何やって暮らせば良いんだ!?』

『三食に寝る場所が普通にあるだろう』

『冗談じゃねぇ色々付き合いが有るんだよ』

『父さんは学生の頃、オンボロアパートで必死に勉強したもんだ

月5万で生活出来る生活だった、それ位必死になってみろ』

『っ!!もう良い!!』


父に小遣いを断たれた野木久保は薬物の生成に手を染めた。

日々の小遣い稼ぎの為の労働と言う事だ、最初は嫌々だったが

自分の手で稼ぎ出した金が月の小遣い一千万を超えると

金を稼ぐのが楽しくなって来たのだ。

そんな日々の中、自らの日々の些細な鬱憤から覚醒剤を使って癒すようになった。

ヘビーユーザーでは無いがジャンキーである。

昨夜までは。


昨夜の怪人の強襲の恐怖から大量の薬物で気を紛らわせた事から

彼は重度の薬物中毒者になってしまったのだった。


「くそっ・・・」


ドンドン、と叩かれるトイレのドア。


「入ってるよ!!」


尚もドアは叩かれる。


「しつけーな!!入ってるっつってんだろうが!!」


ドアを開ける野木久保。


「・・・・・ヤクのやり過ぎか?」


野木久保は静かに呟いた、そうだ、そうに違いない。

だって自分の目の前に昨日の怪人が立っているなんて

そんな事有り得ないのだから。

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