解説③『金歴500年代の都市間交易の発展』

 ダヴィ王が活躍した金歴500年代は、商業が大きく発展した時代だった。ここではその商業の発展の内容と、それが世界に及ぼした影響について言及する。


 解説①で述べた通り、金歴500年代は農業生産高が飛躍的に増加した。増加した人口の消費量を生産量が上回り、余剰生産物が市場に出回るようになった。ダヴィ王が禁止にする前、討伐された異教徒たちや貧民たちが奴隷化されて、商品の一つとなったのもこの時代の特徴である。それを売買する商人や、商人や農民相手に仕事する職人が増え、商業の拠点となる大都市が形成された。


 その一方で、交易の障害となっていた異教徒たちは平野から駆逐され、道路の安全性が確保されていった。こうして都市間交易が整備・発展していったのである。


 都市間交易に水運が台頭してきたのも、この時代からである。民間で大型の帆船が作られるようになり、大河や沿岸部が整備されて、大量の商品の運搬を可能にした。当時の資料に、その様子が示されている。


『……帆船が大河を覆い、昼夜問わず、晴れの日も雨の日も、水面に影を落とす。風が吹かない時期でも、大勢の男たちが川辺からロープで船を引っ張り、移動させる。嵐でも起きない限り、人と物が移動し続ける……』


 さらに商人同士で結束し、ギルドや組合を形成して、大量運搬にかかる費用を負担し合う制度も作られるようになった。ダヴィ王の父・イサイ=イスルも大都市フィレスの商人組合の一員だった。


 この都市間交易の拡充は、民衆の生活や思想に大きな三つの影響を及ぼした。


 まず一つ目が、富農や大商人の登場である。それまで富は王国貴族が独占し、都市内の民衆の財産を吸い上げることで、その財的優位性を保ってきた。ところが商業の発展により、一般的な税金徴収額よりも稼ぐ農民や商人が現れる。


 彼らの中の代表がピエタ家であり、彼らは財力でもって祭司庁を支配した。その結果、自家からボニーティウス1世、ベネディクス5世、アレクサンダー6世ら悪名高き親子承継を果たした教皇を輩出したことを思えば、彼らの財力の凄みが分かるだろう。


 ピエタ家以外にも財を成した富豪は、今度は政治的発言権を望み、不平等な身分制へ憎しみを感じるようになる。そんな彼らが、貴族制の打倒を進めたダヴィ王の強力な支援者となるのであった。


 二つ目が、王侯貴族の権威の相対的な低下だ。商業の発展により、民衆の財力が飛躍的に増加したことは先述の通りである。この一方で、大半の領主は古くからの税制に手を付けず、税の徴収額は変わらなかった。そのため、全世界的にインフレーションが進む中、貴族たちが持つ財産価値が低下していくことになる。この時代の金融業を営む商人が残した資料を読み解くと、生活に困った貴族たちが金を借りに来ていることが分かる。その様子を一応記す。


『今日も金貸しの店の前に馬車が停まった。恐らく貴族だろう。金貸しに頭を下げさせるが、真実は、頭を下げているのは貴族の方だ。そして先祖代々とか、王から貰った宝物を質に入れて、少ない金をせびっていくのだ。この前来た貴族は面白かった。金は借りたものの、ボロイ馬車の車輪が外れて、結局徒歩で帰っていきやがった。馬にも乗れないデブだったよ……』


 結局、伸びてくる民衆の力を抑えきれず、貴族は没落していくことになった。ダヴィ王の政策は、そんな傾向に拍車をかけたに過ぎない。


 そして三つ目が、民衆の視野の拡大だ。運搬業が盛んになると、人々の移動も増え、情報の伝達スピードも格段に向上していく。そしてその情報は各都市にいる民衆の間で共有され、この世界のどこで何が起きているか分かるようになる。


 この変化は大きな影響を及ぼした。それまでの民衆は国内の政治すら理解できず、せいぜい都市内の動向しか把握していなかった。ところが金歴500年代になると、国外の政治情勢にも興味を持ってきたことが、その当時の数々の日記などから推測される。


 世界に視野を広げた民衆はやがて、七大国で分断された世界のいびつさに気づくことになる。国や都市という縛りや不平等な政治体制が、民衆の生活を苦しめているという思いを芽生えさせる。世界各地から伝わってくる情報は、人々に「もし世界が統一されたら」という夢を見させることになった。


 これら三つの影響は、ついに世界を革命の炎へと叩きこんだ。この炎は七大国を滅ぼし、そしてダヴィ=イスルという化け物を生み出したのだった。


(解説:歴史家・ルード=トルステン)

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