第5話 そこに土方という山があったから私は登った
今日の話はオタクとしての話だ。
だが、今の私の病状がよく分かる内容にもなっている。
気が向いたなら、どうかスルーせずに読んでみてほしい。
昨夜、私のもとに友人からとある情報が齎された。
【十月四日から東京都日野市と薄桜鬼がコラボイベントをやる】
というものだ。
私は都内に住んではいるが日野市の事は知らなかった。
なんでも土方歳三の生まれ育った地であり、墓所のある土地なのだそうで。
私は史実の新選組についてよくは知らない。
だが、薄桜鬼は別だ!
学生の折、夢中で土方歳三を攻略した。
風間千景も攻略した。五稜郭での土方歳三を見届けたくて。
故に、この話を聞いた私は「やるしかねぇ」と思った。
話を聞けばコラボイベントはスタンプラリーなのだという。
新選組ゆかりの地を訪ねてスタンプを5個集めるとコラボ限定のポストカード二枚組が貰える。
つまり【非売品】Not For Sale!
かつての懐かしい記憶が蘇る。
そうだ、私は何度も涙したじゃないか、と。
あの、愛した土方歳三の新規描き下ろしのイラストのポストカードだぞ!?
やらずにいられるか、いや無理だ。
軽躁状態の今の私はやると決めたら止められない。
「明日、日野行くわ」
即決である。
体調?知るか。
んなもん、根性で行くんだよ!!
そんな思考の私に向けて、友人がぼそりと言った。
「あのね・・・・・・・凄く言いずらいんだけど、コラボグッズも出るんだって・・・・・・」
は?
え、ちょっと待ってくれ。
今、なう、薄桜鬼のグッズが出る??
金銭的に余裕は無い私に、それを言う?
「絶対に買っちゃだめだよ!!」
友よ、許せ。
聞いた時点で、それは無理だ。
それがオタクというものだろう?
「三限でも一つしか買わないから」
そうだ、いつもなら保存用と観賞用と二つは買う。
だが、今回は一つしか買わない。
それならば許されるだろう?
いや、許しなどいらぬ。
我は、買う。
食費を削ってでも。
「買っちゃダメ!!!」
「いや、もう確定的に明らかに無理」
グッズの情報を検索し、計算する。
今ある食材を使えば、このグッズを買うだけの金は捻り出せる。
あとは交通費がネックか。
おそらく乗り降りを繰り返す事になるし、距離的にも遠いところがある。
バスとモノレールを使うことになるだろう。
おおよそ千円程度だろうか。
千円。
それでグッズが一つ買える。
即座に私は、日野に住む友人に連絡を入れる。
「自転車貸して」
ラインでのやり取りはものの数分で終わった。
これで交通費も掛からない。
必要なのは走り切る体力と根性だ。
「私は止めたからね!?」
友よ、止めてくれるな。
今ここに土方と言う山がそびえているのだ。
ならば登るしかあるまい。
それがオタクの愛というものだ。
三時間ほどの睡眠をとって、私は友人に借りた自転車で午前中にスタンプラリーを開始した。
まずは日野駅。
そして日野宿本陣へ行き、日野宿交流館でグッズを買う。
今回のコラボグッズは全て買うには二か所を回らないといけない。
日野宿交流館と新選組のふるさと歴史館の二つだ。
そして歴史館にもスタンプは置かれている。
次の目的地は決まった。
スマホの画面を見れば割と近い。
楽勝だと思った私の前に、しかして現れたのは、大いなる上り坂だった。
アシスト付きではない自転車では前に進めないほどの、坂だ。
試されている。
そう思った。
「この坂を登れぬ者に、土方は微笑まぬという事か」
いいだろう、受けて立とう。
―――素直に私は自転車から降りて、押して歩いた。
しかして歴史館に到着した私はグッズを買い、スタンプを押した。
待っていたのは土方ではなく、斎藤一だったのだけども。
水分補給をしながらマップを見て次の目的地を絞る。
行くべきは高畑不動尊、石田寺、万願寺駅だ。
これらはかなり距離がある。
さすがにルート案内が無いと分かりにくい。
私はグーグルマップを自転車にセットして走り始めた・・・・・・が、すぐに後悔した。
ナビされる道が、道ではないからだ。
獣道?土手?
そうとしか形容できないような道を行けという。
無茶言うな。
急遽別アプリでナビゲーションさせたが、いやはや遠い。
しかしあと三か所回れば、私はポストカードを手に入れられるのだ。
行くしかない。
道中は影が無く、直射日光にさらされる。
日焼け止めを塗ってはいたが、それでも肌はほんのりと赤く焼けている。
そして、暑い。
だが、なんとか私はスタンプラリーを完走して、ポストカードを手に入れることが出来た。
土方という名の山を登り切ったのである。
だが、
自転車を返し、自宅に帰った私はそこで力尽きた。
”盗んだ(借りた)バイク(自転車)で走り出す~
行き先も解らぬまま(グーグルマップ)~”
疲れ果てた私の脳内を変え歌が流れていく。
今これを書いている私の太ももは、すでに筋肉痛が出始めている。
眠気は来ないが、腰が痛い。
明日は、どうなることやら、だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます