第170話視線

親戚の家に帰った二人は、リビングに足を踏み入れた。

「しっかり勉強してるんだな」

「遅い…二人とも遅い」


麻莉菜はリビングのテーブルでテスト勉強していた、凜も隣に座ると勉強を始めた。

「晴くんもテスト勉強しよ、横に来て」

「しないよ、頭いいから」

「私より点数悪かったでしょ、教えてあげるから来なさい」

「…どうしても?」

「どうしてもです」

「…運動して疲れたから‥休みたい」

「こら、変なこと言わないの、来ないと怒るよ」

「学校でも大声だせ」


晴斗は椅子を凜に近付けて座ると、勉強が始まった。

「そういえば、点数悪い人の言うこと一つだったよね?」

「もう、点数悪い人が言うこと聞くの、分かった?」

「何でもだろ…何にしようかなぁ~」


晴斗は肘をついて考え初めると、横腹を突っつかれた。

「勝ってから考えなさい」

「ハイハイ」

「二人は四時間も何処に行ってたの?」


麻莉菜が急に聞いてくると凜は目を泳がせていたが、晴斗は何食わぬ顔を向けていた。

「散歩だな、まぁ‥変なストレス抱えてたから発散してきた」

「…もう晴くん、私を見て言わないで」

「ごめんね」

「本当は何処に行ってたの?」

「モールで飯食って散歩だよ」


納得されると勉強を始めた。数時間経つと教科書やノート等をテーブルの上から片付けた。


晩御飯をご馳走になっていると「ただいま」と言う声が聞こえて、祐希がリビングに入ってきた。


祐希が席に着くと、晴斗は視線を感じ取っていたが向くことはなかった。

「二人は昼前に行ったのか?」


急に祐希に聞かれて、晴斗と凜は噎せていた。

「祐希兄ちゃん、ご飯中なんだよ」

「すまん」

「入り方が分かんないのか?悪いが俺も知らん!親に聞け」

「…き、聞けるかぁ」


皆の前で晴斗がお腹を抱えて笑うと、凜は恥ずかしそうに笑い、麻莉菜と大人二人は首を傾げて困っていた。

「聞きたいことがあるのか」

「と、父さん‥別にないよ」

「入り方知らないんじゃ?もう行ったとか?」

「晴斗、ご飯中なんだよ」

「真似すんな」


たわいもない話をしながら食べ終わると、祐希はそそくさとお風呂に向かった、晴斗も付いていこうとしたが、凜に肩を捕まれた。

「晴くん、一緒に入ったらダメ、なに言うか分かんないんだから」

「なら、一緒に入ろ」

「ダメ!」

「麻莉菜、一緒にお風呂入ろ」


呼ばれると、直ぐに麻莉菜は振り向いたが「嫌だ」と断られた。

「なぁんだ、誰も入ってくれない…」

「何で晴兄って聞いてくるの? 親の前で聞いて恥ずかしくないの?」

「無いね、二人で入る方が楽しいし、一緒に入るだけで恥ずかしがる意味がわからん」

「晴兄はバカだからね、わかんなくていい」

「凜は何度か…人前じゃ…なかったら」


晴斗は凜に口を塞がれた。

「いい加減黙りなさい」


こくこく頷くと手を離された、晴斗はソファーに座る麻莉菜の横に座った。

「来ても入らないから」

「…別にいいよ」


晴斗は麻莉菜の膝に頭を置いて横になったが、凜に耳を引っ張られた。

「痛いって、一緒に入るならやめる」

「もう知らない」


凜は怒るが、晴斗のお腹の前に座って、こっそり手を繋がれた、握られた手をギュッと握って遊ぶと真似され、凜は一人でクスクス笑っていた。

「明日も一緒に勉強しような」


凜は振り向いて「うん」と言いながら頭を擦ってきたが、麻莉菜にこっそり髪を引っ張られていた。

「はぁーーー」


大きめの溜め息が聞こえて三人が視線を向けると、祐希が腕を組んで仁王立ちで立っていた。

「お前らは三人で暮らしてるよね、毎日イチャついてんのか?」

「イチャついてる?どこが?」


晴斗はキョトンとした表情を凜と麻莉菜に向けて聞いた。

「心配しなくても、お兄ちゃんは澪ちゃんにしてほしいか、晴兄に嫉妬してるんだよ」

「あぁ、妹を取られたと思ったのか‥取ってないからな」


晴斗は祐希に手を振って教えた。

「誰が妹に膝枕された晴斗に嫉妬するか」

「…えっ細か…凜にされたいのか?」

「バカか…膝枕に頭撫でられ、身内とイチャついてるじゃねぇか」

「何で祐希って怒ってんの?」

「知らない、澪ちゃんとイチャつきたいからだと思う」

「なるほどな、ただ頭置いてるだけで‥イチャなのか…」

「あと、三人とも背後見ろ」


ソファーから起き上がりテーブルに視線を向けると、大人二人は椅子に座って、なんとも言えない複雑そうな表情をしていた。

「リビングに入ってから‥複雑そうな表情してんだよ」

「なんで?」

「…もう俺は‥呆れてなにも言えない」

「そっか、どうでもいい」


晴斗はテレビに視線を戻すと、悟さんの声が聞こえた。

「本当に晴斗くんは、娘に手を出してないよね?」


深い溜め息をついて振り向くと、大人二人に視線を向けて正座していた。

「無いですよ、僕は凜一筋、手を出すのも凜、酒で過ちも犯しましたが、麻莉菜がベタベタしてくるほど…自分にとっていかに凜が大切な存在か分かってくるので、麻莉菜に出すことはないですよ」

「そ、そうか」


恥ずかしげもなく暑く語ると、凜は恥ずかしそうにしていたが、どこか嬉しそうに笑みが溢れていた。一方で麻莉菜は横腹をつねってきたが手で払い退けた。

「凜の存在が生き甲斐なんだ…気付かずに泣かせてしまうかも知れないけど、本当に大切だよ」

「……うん」


皆の前で凜を抱き締めて伝えたが、麻莉菜は背中を突っついていた。

「なに?」

「ねぇ、晴兄‥‥私も大切?」

「麻莉菜も皆も大切だよ」


麻莉菜はムッとしていたが、晴斗は凜を抱き締めたままだった、少し顔を除くと涙目になっていた。

「また泣かせて‥ごめん…」

「…嬉し涙‥だよ」

「良かった、中学から人の感情が読むのが苦手なんだ…」

「見てたから‥知ってるよ…まだ抱き締めてて」

「皆の前だよ」

「…今はいいの‥このままで」


数分間背中を擦っていた、凜が顔を離すと笑みを送られた。

「まぁ、二人はもう少しこそこそしろよ」


祐希に言われて振り向くと、まだ立っていた。

「ああいう通りから出てくるのも…その‥控えろよ」

「おぉ、忘れなかったのか…」

「お兄ちゃんは二人と何処で会ったの?」

「……」


麻莉菜から純粋に聞かれると、祐希は逃げるようにリビングから出ていった、凜は布団を敷きに向かい、晴斗は静かにお風呂に向かった。


入浴後、ソファーに座ってスマホを触っていた、すると、頭を撫でられて振り向くと、凜と麻莉菜が立っていた。

「どうした?」

「晴くん、まだ寝ないの?」


時間を確認すると、23時前だった。

「あぁ、もうこんな時間か…寝よっか」


晴斗は立ち上がると、大人に挨拶をして寝室に向かった。敷かれた布団で横になると、凜はそっと布団に入ってきたが、麻莉菜は逆を向いて横になっていた。

「麻莉菜は拗ねてるのか?」

「…凜姉ちゃんの肩にマークがついてた、変態がつけたんでしょ」

「二人で風呂入ったのか?」

「うん……いつ付けたの?」


凜に小声で聞かれると「今日、肩甲骨に」と真顔で教えた。

「…言ってよ、知らなかった」

「ごめん、忘れてた」

「もう‥良いよ」


晴斗は一度深呼吸していた。

「俺が付けるなら首に付けてるぞ、こそこそ肩なんかに付けないよ」

「‥どうだか」


麻莉菜は振り向くと、何とも言えない表情で「凜姉ちゃん、おやすみ」と優しく言って、晴斗には言ってくれなかった。

「おやすみ、凜」

「晴くんも‥おやすみなさい」


凜は眠そうに目を擦っていた、数十分後、晴斗も欠伸をして凜の寝顔を見て眠った

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