第168話たまには…

学校から帰った二人は、制服姿でベッドに横になり、晴斗は凜の胸に顔を当てて目を閉じて、凜は頭を擦って甘やかしていた。


急に擦られなくなり、凜が起き上がろうとすると、晴斗は回した手に力を入れて逃がさなかった。

「晴くん起きてたの?」

「起きてるよ、もう少し横に居て」

「着替えないと制服がシワになるよ、晴くんもお着替えしようね」

「子供扱いやめてほしい‥‥」

「子供じゃないなら着替えてね」

「…もう少し制服姿の凜を抱き締めたなぁ」

「良いよ、もう少しだけだからね」

「…やっぱり凜は優しい、甘えても嫌がらない」

「晴くんが大好きだから嫌がらないんだよ、晴くんに甘えられると‥可愛いと思っちゃうの…母性本能なのかな?」

「知らない」

「そっかぁ、男の子だもんね」

「…う、うっせぇな」


凜にクスクス笑われ抱き締めらめていた、バタンとドアの閉まる音が聞こえて麻莉菜が帰ってきた。

「麻莉菜が帰ってきたよ、もう着替えよっか」

「もう少し‥だから」

「もう少しって言って一時間経ってるよ…晩御飯はあーんしてあげるから‥着替えようね!」

「麻莉菜の前でしてくれる?」

「…うん」


凜が恥ずかしがると、晴斗が笑い始めた。

「やっと恥ずかしがってくれたね、約束ね」

「うん」

「着替えさせようか?」

「もう‥‥私が‥甘やかしたいの‥」

「分かったよ、着替えさせてね」

「良いよぉ」


急に凜がニヤつくと、晴斗は自分で着替えてそそくさとリビングに逃げていった。


凜も麻莉菜もリビングに入ってきた、晩御飯の支度を始めると、晴斗もお風呂の支度を始めた。


リビングに戻ってくると、麻莉菜に見詰められていた、晴斗は首を傾げて「んっ?」と聞いた。

「晴兄からの挨拶聞いてないよ」

「おかえり、麻莉菜」

「ただいま…ねぇ、今日もない」

「なにが?」

「頬にキスだよ」

「しないよ、一度もしたことねぇよ」

「頬なら良いって言ったよ」


晴斗は頭を抱えて「顔向けてくるから二度も口にキスしそうになっただろ、三度目は無い」といい放つとソファーで横になった。

「晴兄ー、口だけ晴兄ー」

「毎日しつこいし…しつこい女は嫌われるぞ」

「…ケチ」


麻莉菜がいつも通りに静かになると、晴斗はテレビに視線を向けた、晩御飯がテーブルに並ぶと、晴斗はポケットに手を入れて待っていた。

「晴くんたべないの?」

「えっ‥‥食べさせてくれないの?」

「…忘れてた」


晴斗はニコニコしていると、凜は自分の頬を叩いて「よし」と言った。

「晴くん熱くないからね、お口開けてね」

「…赤子の相手をしてる言い方じゃなくて、他に言い方ないの?」

「無いよ、お口開けてね」


晴斗は積極的な姿を見て、凜に視線を向けることが出来ずに、目を閉じた。

「こら、目を閉じるとこぼすよ」

「…ごめん、積極的な凜に驚いてな」

「晴くんの望みですよね?」

「…あぁ、外でしてくれないかな?」

「まだ無理ぃ」

「ですよねぇ」


二人が静かに見詰め合って笑っていた、すると、直ぐに咳払いが聞こえて同時に振り向いた。

「二人でイチャイチャと‥‥私って邪魔?」


麻莉菜は肩肘をついて、箸でテーブルに何度も叩いて怒っていた。

「麻莉菜は邪魔じゃない、何度も聞くな」

「二人だけで‥‥イチャイチャと」

「…はぁ?」

「凜姉ちゃんだけ可愛がってぇ」


麻莉菜は眉間に皺を寄せて、二人は睨まれて一緒に謝ったが「もう怒ったから!」と怒鳴られた。

「謝ったよね?」

「どうして晴兄は開き直るの?」

「知らん、器が小さいよ」

「晴くん、麻莉菜の気持ちも分かってあげて‥‥」


麻莉菜は手に箸を握り締めて、近づいてくると、晴斗は刺されると思い身構えていたがギュッと箸を持たされた。

「…わ、私にも食べ指して」

「嫌だね、凜が食べさせてきたんだよ」


晴斗は即答した、すると、子供が隣で地団駄を踏んで怒っていた。

「おい、下の家に迷惑だからやめろ」


晴斗は声のトーンを落として怒ると、麻莉菜は肩を落として席に戻った。

「麻莉菜、晴くんは意味があって怒ったんだよ」

「……」


俯いて声も届かない麻莉菜を見て、晴斗は凜に耳を引っ張られて小声で怒られ始めた。

「目付きが変わって怖かったよ、私から見ても麻莉菜に冷たいよ」

「変に期待させたくないんだよ、諦めさせないといけないだろ」

「…分かるけど‥麻莉菜とは小さい頃から遊んでたから、可愛い妹なの、あんなに落ち込んだ姿なんて見たことないよ」

「でも…」

「でもじゃない、可愛がってあげて…好きな人に睨まれて怒られると悲しいよ‥苦しいんだよ…」

「…可愛がるとためにならないんだ、凜の優しさが仇になるぞ、叶わない恋心を折ってあげないといけないんだ、優しく接しすぎると次に恋したとき‥相手が酷く感じないために酷くしてるんだよ、麻莉菜のことを考えてるんだよ‥俺は俺のやり方しか知らない」

「…」

「学校で、麻莉菜って同じ男子と毎日歩いてるの知ってるよね?」

「うん」

「デート相手なんだよ、昼休みに中庭で二人で食べてた、自販機で飲み物も買って貰ってた、自販機の前で一度だけ背後から抱き付いて来たけど、相手が悔しがってた‥分かるよね?好意を持ってる男子が優しいか知らないけど、いろんな恋をしてほしいんだ、俺は変わってるけど‥意味がなく酷くて当たってない、先のことまで色々考えてる」


凜は少しだけ悩んでいた、晴斗はのんきにご飯を食べていた。

「……でも、麻莉菜の気持ちも考えてほしい」

「俺は加減が出来ない‥てか分からないんだ…今恋をしている相手に優しく接しられると、俺から気持ちが変わらずに、気持ちが強くなって、凜より自分だけ見て欲しいってなるんだ…分かれ」

「……」


晴斗はまた、のんきにご飯を食べ始めた、凜も静かに食べ始めたが、言いたげな表情を視界にとらえた。

「言いたいことがあるなら言って」

「…晴くんは三人で暮らしてるのに‥酷く当たり続けるの?」


晴斗は頭を掻きながら伝えた。

「優しくしても良いけど、本当に加減が分からないんだ、抱き締めるかも‥」

「抱き締めても最近は怒ってないでしょ」

「なら、頬にキスするかもしれない」

「…口にキスしなかったら怒らないよ」

「口に求められるとするかもなぁ」

「今まで断ってたから、しないでしょ」

「凜は優しすぎるよ、時には厳しくしないと」

「麻莉菜が可愛いんだもん」

「そっか…まぁ、優しくしてみるね」

「麻莉菜に優しい晴くんも大好きだよ」

「…そういう、優しすぎる所が好きになったんだな」


晴斗は一度深呼吸した、麻莉菜を見ると目が合い逸らされて近づいた。

「食べさせてあげるよ、さっきは怒ってごめんね」

「晴兄なんて知らない、食べたならどっか行って」


麻莉菜に嫌われたと思い、凜を見るとニコッと笑みを向けられて頬にキスして謝った。

「落ち込ませてごめんね」


麻莉菜に一瞬睨まれたが、目が合うと頬を染めてそっぽを向いた。

「…キ、キスなんかで、お、怒ってるんだから…絶対許さない、凜姉ちゃんだけ可愛がってればいい」

「ツンデレかよ、照れなくても挨拶だからな、勘違いするなよ」

「…うぅっ…好きになっても‥こっちから断るから」


麻莉菜の落ち着きのない姿を見て、からかいたくなっていた。

「そっか、凜への気持ちが冷めたから‥好きになろうと思ったのに」

「えっ……でも‥断るから」

「晴くんのからかいかたは鬼畜だよ、麻莉菜は晴くんの表情見ても本当か冗談か分からないんだよ…怒るよ」

「ごめんね」


凜に謝ると、麻莉菜を見て見詰めた。

「冗談だからな…毎日しつこくキスを頼まれて、誘惑してきた罰だからな」

「……」

「お風呂に入ってくるから一人で食べてね」

「…」


麻莉菜が食べ始めると凜がドアに指を指して、晴斗はお風呂に向かった、入浴後は寝室に入って、窓を開けて夜風を感じていた。


ガチャっとドアの開く音がした、外を眺めていると背後から抱き締められて手を握った。

「晴くん悩み事?」

「凜が友達と遊びに行くと寂しいんだ‥事故してないか心配…」

「私は子供じゃないんだよ、心配しないで」

「俺の両親も子供じゃなかったよ…まぁ、寂しいときに麻莉菜と二人きりにされて優しくされると‥俺は何をするか自分でも分からない、また温もりで忘れたくなるかも」

「抱き締めても怒らないよ」

「人肌、酒?…まぁ‥同じ失敗するかも‥‥寂しいと気が狂う‥身内とは言っても血の繋がりもない…」

「心配しなくても、晴くんは考えすぎなだけ…」

「キスを少しは心配だよね」

「…うん」

「まぁ、俺の考えすぎだな、何も起こらないね」

「何も起こらない、晴くんが考えすぎなだけ」


晴斗は凜を正面で抱き締めると「俺を怒ってよ」と辛そうに伝えた。

「まだ悪いことしてないでしょ」

「悪いことしてからは遅いんだよ」

「考えてもダメだよ、今は疲れ正常な判断ができてないんだね…私が横に居るから寝よ、寂しくないよ」

「俺は疲れてるんだな」

「そうだよ、あと、晴くんは私と暮らせて幸せなんでしょ」

「学校とかバイト終わりに、凜が居るから幸せだな」

「私が遊びに行っても、帰ってきたら何してもらおうかとか、お散歩したり、友達と遊びに行ったら良いんだよ」

「分かったよ」


ベッドに横になると、直ぐに晴斗は抱き締めて目を閉じた。

「…凜も抱き締めて」

「目覚ましをセットしてるからね、少し待ってね」


目覚ましをセットし終わると、抱き締められて背中を擦られていた。

「晴くん」

「…なに?」

「下がらなくて良い?今日はお胸で寝なくて良いの?」

「恥ずかしそうに言ってくれないと‥俺が恥ずかしくなる」

「私は毎日恥ずかしいよ、晴くんも恥ずかしがらずに甘えてね‥笑わない、外では見せない晴くんの姿も好きなんだよ」

「…凜が頭良さそうに感じた‥」

「こら、調子に乗らないの、晴くんより頭は良いの!」

「そっかぁ‥どうでもいい」

「もう……寝る前にキスして欲しい人って居ませんか?」

「…ここに居ます」


凜にクスクス笑われて、晴斗はキスされていた。

「晴くんからは無いの?」

「急に感情を切り替えるな、ビックリする」

「ごめんね、晴くんからのが欲しい」

「言い方で変な気持ちになる、まぁいいよ」


晴斗は優しく濃厚なキスをしていた、凜は目を閉じていたが頬が染まり、耳まで真っ赤になっていた。

「もう寝よ」

「……歯磨き粉の味がしたぁ」

「歯を磨いたからな、凜も寝ようね」

「やだぁ、もう一回するの」

「しないよ」


晴斗が断ると、凜からされたがぎこちなかった。

「…頑張って甘やかしたのに‥ご褒美もない‥もう寝ない」

「あと少しだけだからな‥また甘えるね」

「いっぱい甘えて、大きい赤ちゃん、ママって呼んで良いよ」

「…うっせぇな」

「呼び慣れてないと…」


うるさい凜の口を塞ぐように濃厚なキスをして塞いだが、直ぐに回された手で背中を叩かれた。

「息の仕方忘れたのか?鼻で吸えよ」

「…急にされると‥嬉しいけど、苦しかった‥嫌いじゃない…」

「なに言ってんの?てかモジモジするな、寝るぞ」

「…もう寝ちゃうの?続きは…」

「ねぇよ、てか続きってなんだよ」

「…ばか‥言ってないから」


晴斗が優しく抱き締めると、凜も抱き締めてきたが、部屋がノックされた、凜が鍵を掛けなかったのか、麻莉菜が枕を持って入ってきた。

「二人ともお話終わった? 寂しいから一緒に寝よ」

「全部聞いてたんだな‥てか、聞こえてたんだね、まぁ、おいで」


麻莉菜は小走りで近づいてくるとベッドに飛び乗り、挟まれて横になった。

「血の繋がりないのに、本当に二人が妹みたいだな…今は幸せだよ…ありがとう」

「晴兄らしくない、強引で変態で馬鹿で鈍感で‥まだあるけど…死ぬ気?」

「死なねぇ、てか‥うるさい」

「うん、晴兄らしくなった」

「ちび…追い出すぞ」

「晴兄らしい…追い出せないくせに」

「……」


急に二人に笑われるとうつ伏せになったが、二人はこそこそ話終わると、麻莉菜に抱き締められた。

「晴兄のために落ち着く女性になるからね」

「その前に身長伸ばしてね」

「私も怒るよ、晴兄のペースを崩すと静かになるんだって」

「お尻触るからな」

「晴兄が落ち着くなら良いよ」

「絶対触らない、凜と交代して」


凜が麻莉菜を笑いながら抱き締め、麻莉菜が晴斗を力強く抱き締めると諦めた。

「俺は誰に?壁?何処に抱きつけばいいの?」

「私を抱き締めて良いよ」

「麻莉菜に?…ハァー、口にキスしてきたら追い出す分かったな」

「分かったよ」


晴斗は抱き締め返すと、静かに寝ようとしたが、麻莉菜の鼓動がうるさかった。

「麻莉菜の心臓って飛び出ないよね?うるさいんだけど」

「…出ないよ、静かにして」

「ごめん、寝る…二人ともおやすみ」


静かになると凜が先に寝息を立てていた、晴斗も後を追うように眠り、麻莉菜も二人が寝ると眠った。

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