第161話意地①

晴斗は朝起きて朝食を食べ終わると着替えてリビングにいた。麻莉菜は椅子に乗って洗濯物を干し、凜は洗い物をしていた。


晴斗は手伝うと注意されるため、二人をソファーに寝転んで眺めていたが、凜に言われた。

「晴くん、変なところ見てない?」

「見てないけど」

「麻莉菜、気を付けてね、晴くんは寝転んでるからパンツ見えてるはずだよ」


麻莉菜は制服のスカートを押さえて睨んできた、凜は洗い物が終わると横に座った。

「やっぱり見えてる、麻莉菜の見てたでしょ」

「見たんじゃない、見えてたんだよ」

「何で開き直るの?」

「事実だからだな」

「毎回見てたの?」

「違う、毎回見えてたの」

「何で真似するの?麻莉菜もスカート押さえなくて良いから怒ってよ」


麻莉菜は椅子に立って怒ってきた。

「晴兄、見えてるなら教えてよ、いつも見てたの?」

「だからな、いつも見せられてたんだよ」

「…見せるはずないでしょ」

「そうなの?毎回椅子に乗って干してるし、手伝うと休んでてって言うからさ」

「…晴兄って本当にキモイ」

「ごめん」

「本当にこっち見ないで…本当に気持ち悪い」

「……」


その後、数分間二人に怒られ、麻莉菜は友達と学校に向かった、残された二人は静かにテレビを見ていた、晴斗は黒染めスプレーで髪を染めてリビングのソファーに座った。

「…膝に座ったらダメ?」

「ごめんね」

「どうして‥」

「俺は凜を諦めたんだ、最近我慢できない‥せめて麻莉菜が居ても‥家では抱き締めたいしキスもしたい…小さいわがままなんだ」

「……」

「親戚に見られると恥ずかしいんだよね、もう諦めるしかないんだ、辛いんだ、苦しいんだ…家ぐらいは落ち着きたいのに落ち着けない」

「…頑張るから‥捨てないでよ」

「捨てないよ、家族なんだからな」

「……やだよ」

「俺に嫉妬しないでね、家族なら応援してね」

「どういうことなの?」

「さぁな…彼女でも頑張って作るってことかな?」

「…恥ずかしがっても捨てないって言った‥‥嘘だったの?」

「他人の前での事なんだよ、身内に隠さなくていいよね、麻莉菜は俺が好きじゃないんだよ、好いてるだけなんだよ」

「麻莉菜も恥ずかしがってるだけ、私達の邪魔したくないだけなんだよ」

「ずっと邪魔されてるよ、最近‥やめてって言われる度に辛いんだよ、身内の前で恥ずかしがらないで」


凜は両手で顔を隠して啜り泣いていた。

「…頑張るから捨てないで‥晴くん‥もう少し待ってよ」

「もう少しって何日間?」

「…分かんないよ」

「ごめんね、もう少し待つから膝に座っていいよ」

「…うん」


泣かれると、心を痛めて膝に座らせ抱き締めていた、啜り泣く凜の背中を擦っていた。

「やっぱり泣かれると辛い…」

「…ごめんなさい‥‥捨てないで」

「もう身内の前だけでも‥恥ずかしがらないでよ」

「…頑張るから‥ごめんなさい」

「分かったよ、泣かせてごめんね」

「…私が悪いの、いつかこうなるって分かってた‥覚悟してたけど‥‥大好きな人に言われると…辛いよ」

「ごめんね」


落ち着くまで背中を擦っていた、凜は落ち着くと「こんなに好きになった人初めてだよ、晴くんも私が好きだよね‥どうなのお兄ちゃん」と独り言を晴斗の胸に言っていた。

「ちっ、初恋は俺じゃねぇのかよ、気に入らねぇなぁ」

「…嫉妬しないで、私の初めていっぱいあげたでしょ、まだ足りないの?」

「足りないねぇ、凜の初めては全部俺が取るって決めてんだよ」

「キスもデートもバレンタインチョコも誕生日のカップケーキもペアルックのプレゼントも初めてホテルでしたことも…他に何が欲しいの?」

「うーん、内緒」

「晴くんが色々経験してたことに‥嫉妬してるよ」

「俺が経験してないことなら何してもいい? 例えば今の学校でイタズラしたことないよ‥どうかな?」

「絶対に嫌」

「なんでぇ、ドキドキが凄いよ」

「経験したことあるの?」

「内緒だね、楽しいよ」

「ばか、晴くんは鬼畜‥本当に鬼畜」

「何も言ってないんだけど…」

「…言い方でわかるからね」


晴斗は笑いながら頭を擦ると、凜は目を閉じた。

「もうキスはしないよ‥ごめんね」

「なんで‥やだ‥おはようもお休みもしてないよ」

「凜から麻莉菜の前でキスして来るまでおあずけな…待てよぉ」

「…ペットじゃない‥今日から頑張ります‥お願いします」

「俺から見ると‥透明すぎる尻尾が左右に揺れてるよ」

「……」


凜が頬を膨らませると、晴斗は頭を擦って「よしよし」と言ったが、キスされそうになり、膝から下ろして、足を掛けて寝かせると走って外に出ていた。


10分程待っていると、ムスッとした表情で出てきた。

「……プイッ」


凜が何度も口でプイップイッ言いながら顔を逸らす姿を見て、晴斗はお腹を抱えて笑っていた。

「なんで目を合わせないのかな?」

「…プイッ」

「頑張って新しい彼女作ろっと」

「…プイップイッ」

「なに?」

「だめ、まだ別れてないよ」

「知らないよ、俺は今日からフリー…」

「…もう知らない」


晴斗が手を出すと払われ、ムスッとした表情を見てケラケラ笑うと、横腹を殴られた。

「暴力女は嫌いだね」

「……ばか、もう晴くんなんて嫌い」

「そっか、俺は好きなのに嫌われたな、頑張って彼女作るね…今までありがとう」

「嘘だから、まだ大好きだよ」

「はて?教室で聞かないと聞こえなくなったな」

「もう…寂しくなっても慰めてあげない‥晴くんが頼ってくるまで‥もう知らない」

「良いよ、凜が麻莉菜の前でキスしてくるまで相手にしないからな」


教室に着くと自分の席に座っていた、晴斗は背後から肩を叩かれ振り向くと、美優紀が居た。

「凜ちゃんと喧嘩したの?」

「してないよ」

「本当?凜ちゃん落ち込んでるよ」

「気のせいだろ、毎日一緒に居るし、仲良しなんだけど」


凜も女子達に「どうしたの、喧嘩したの?」と聞かれていた、何にもないよと凜は返事をしていたが、クラスメートの女子に言われた。

「こういうときに彼氏なら慰めてあげなよ」

「はぁ?毎回しつこいぞ、何で凜が彼女なんだよ、違うからな」

「いつも抱きついてるよね?違うの?」

「チゲぇよ、スキンシップだよ」


凜にも友達に聞かれ「晴くんはスキンシップが激しだけ、違うって言ったでしょ」とめんどくさそうに教えると、美優紀が聞いてきた。

「凜ちゃん好きなんでしょ」

「大好きだけどなに?」

「堂々と言って恥ずかしくないの?」

「恥ずかしくないね、言いたいときに言わないと落ち着かない」


晴斗が教えると凜に言われた。

「晴くん、他の子にスキンシップはダメだからね」

「凜に関係ある? 俺が誰にでも抱き付くとか‥思わないでね」


いつも通りのチャイムが鳴り、授業が始まった。

 休憩時間になる度に、何度も廊下から「晴くん」と知らない女子に声を掛けられると突っ伏していたが、隣の凜は耳元で何度も舌打ちしていた。

…黒染めしてるんだけどなぁ、フードの方が目立たないな…


午前中の授業が終わった。

 いつも通りに凜からお弁当を受け取った。晴斗は自分の席で一人で食べようとしていたが、クラスメートの女子に言われた。

「今日の晴斗くん不自然だよ、凜ちゃん避けてるよね?」

「気のせいだろ…多分、抱き締めたりしてないからだと思うよ」


教えると、少し考えて納得していた、晴斗は弁当を一人で食べることをやめて良太達と食べていた。

「ちゃっかり座って珍しいな、月城さんと喧嘩した?」

「マジでしてない、そんなに不自然か?」

「お互いが避けてる感じに見えるよ」

「普通に接してるんだけどな、可笑しいな」


晴斗は首を傾げながら言うと「俺の気のせいかもな」と言われて、友達と食べていた。食べ終わるとそのまま話していたが顔に冷たい物が当たって振り向くと、凜がお茶を頬に当ててきた。

「ありがと」

「……」


凜は数秒間、晴斗の顔を覗いて一瞬頬を膨らませると立ち去った。

「今のなんだ?」


晴斗は友達に聞くと「抱き締めないから寂しいんだろ、あぁー‥羨ましい」と悔しそうに言われた。

…凜はいつまで我慢するんだろうな。


チャイムがなるまで友達と話して凜とは会話しなかった。チャイムが数回鳴って放課後を迎えた。

「晴くん帰ろ」

「どっかに寄って帰るか?」

「今日バイトでしょ、遅刻しないために帰ろ」

「帰るかぁー」


バイトと聞いた数人の男女から詰め寄られた。

「優菜ちゃんのサインもらってきてよ」

「竜二さんの写メ撮ってきて、サインも」

「花ちゃんに紹介して」

…瞳さんって大学生だから人気ないのかな?


晴斗は囲まれていた、「飯島晴斗がバイト行くぞ」と発した男子の声を聞いたのか、廊下に居た他のクラスの生徒に「モデルに会わせろ」「サインか写メ買うぞ」と言われ、晴斗は大声を出した。

「まてい、俺のバイトはモデルじゃねぇよ」


だが、冷たい視線が突き刺さり、数秒静かになると、呆れた表情を向けられていた。

「晴斗くん、冗談言わなくて良いよ」

「嘘つきか?冗談だよな?」

「自分だけ良い思いするんだな」

「隠さなくてもバレてるぜ」


まだ、クラスメートに言われていたが、晴斗は顔色一つ変えなかった。

「マジで普通のバイトだからな」

「普通のモデルのバイトってことだよね」

「なら、何のバイト?」

「コンビニ?」

「なぜ聞く?」

「ファミレスだったな、帰るから通して」


晴斗は両手を正面に伸ばして、真っ直ぐ進んだが、凜の姿が消えていた。

「凜‥下駄箱で待ってるからな…」


晴斗は数回言うと、袖を引っ張られ振り向いた。

「晴くん、何度も呼ばないで」

「ごめんね、帰ろ」


学校をあとにした、下校中の凜が小走りで一軒家の前に走り出した、近付くと、白い花が手入れされていた。

「白くて小さなお花が咲いてるよ」

「鈴蘭だな…」

「よく知ってるね」

「雪と幼い頃色々あってね、俺の気持ちにちょうど良い花言葉だな」


凜に花言葉を聞かれると「家族になってくれてreturn of happinessなんだよ」と教えた。

「えっ?何て言ったの?」

「凜が居るとreturn of happiness」

「全然分かんないよ、日本語で言ってよ」

「超簡単に教えると、俺は凜が居ると幸せなんだよって言ってんだよ、ポンコツが‥恥ずかしいから何度も言わせんな」

「照れないで日本語で言ってよ…ばか」


静かに帰ると、凜は後ろを付いてきた。

「晴くんがお兄ちゃんで良かった」

「そうか、俺も凜が妹で良かった」

「…お互い‥happyだね」

「発音悪いけどな」


凜の声が震えていたと分かり、振り向くと、凜の頬は染まって涙目になっていた。

「なんか‥ごめん」

「違うの‥私と居ると幸せって言われて‥嬉しくて‥ずっと晴くんと居たいと思ってるから‥嬉しくて‥‥言わせんな」

「真似すんな、外で泣くな」

「…誰のせいなの‥喜ばせんな」

「だから真似すんな」


凜に駆け寄られると背後から制服を捕まれ、背中に顔を当てられた。

「…何も言わないで‥このまま居させて‥‥」

「生徒が見てるが‥良いよ」

「…言わないで」

「勘違いされるぞ」

「…晴くんが言い訳してくれる‥」

「宣言しないんだな」


謝られると、歩道をのんびり歩いていた「凜ちゃんから抱き付いてるって珍しいね」と声を掛けられて振り向くと、クラスメートの女子が居た。

「ちょっと喧嘩になって泣かせてしまった」


凜は啜り泣きながら「喧嘩してない‥お願いだから‥自分を悪く言わないで」と言われ、友達を見ていた。

「…晴くんと喧嘩してないよ、してたら一緒に帰ってない」

「凜ちゃんに嬉しいことがあったんだよね?」


まるで、子供をあやすように凜に言っていた。

「…うん」

「晴斗くんも自分を悪く言うと、凜ちゃんが悲しむよ」

「他人に最低と思われても、真実を凜だけでも知ってくれてるなら良いんだよ…見ての通り、甘えん坊を泣かせたのは俺だからな」

「…ばか」


晴斗は手を振って背を向けて歩き出したが「凜ちゃん、お家に帰ったらお兄ちゃんに甘えるんだよ、バイバイ」と友達に言われ、凜に背中をポコポコ殴られ、摘ままれていた。

「…ばか‥ばか」

「ごめんね、好きな人って虐めるって言うじゃん」

「…もう、小学生じゃないでしょ…ばか」

「凜は甘えん坊で恥ずかしがり屋で人見知りだから‥中身が小学生だぞ」

「寂しがり屋で甘えん坊で、私が居ないと泣きそうなんだから‥寝るまで私の太ももをずっと触ってるし…変態な赤ちゃん」

「昨日の夜触ってません」

「麻莉菜が部屋に入ってくるまでお腹とかお尻とか触ってました、麻莉菜のスカートの中も朝覗いてました、本当に変態なんだから」


晴斗は拗ねていた。

「麻莉菜の話は関係ない」

「何度も言ったよね!どうして他の子の見るの?私のだけ見なさい触りなさいって言ったよね…目を離すと何するか分かんないんだから」

「おはようといってきますのキスしてなかったよね? 帰ったらお帰りのキスするつもりだったけど‥もうしない、絶対しない」

「なんでよ」

「…悪いと思ったよ、キモイとか気持ち悪いって何度も言われて‥本当に反省したんだよ、許してくれたから、俺も麻莉菜の前でキス

ぐらい我慢しようと思って、学校で寂しかったし、いつも通り二人きりになって一緒にゴロゴロしようと思ってたのに、ネチネチ言われたら…とにかく、もういい」

「…謝るから」

「麻莉菜の前でキスしてくれるまでなにもしない、マジで怒ったからな」

「……」


二人は静かにアパートに着いた。












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