第158話俺じゃない
翌朝
スマホのアラームで早めに起きると、リビングでテレビをつけずに液晶を眺めていた、凜も麻莉菜も声を掛けてたが気づいていなかった。
晴斗は目を閉じてうとうとし始めた、手を握られて目を開けると凜が立っていた。
「おはよう晴くん」
「…おはよ」
「今日は早起きだね、まだ寝てて良いよ」
「…う‥ん」
ソファーで寝ていると、朝食で起こされ睡魔と戦いながら食べていた。麻莉菜に呼ばれて顔を向けると自分の髪に指を通してクルクル回してなにか言ってほしそうに見つめられていた。
「綺麗に染まったな」
「…に、似合ってる?」
「似合ってるよ、凜より暗い色だな」
「黒髪が多いからね、凜姉ちゃんは目立ってるね」
「麻莉菜もアシュメで目立ってるけどな」
「…か、可愛いかな?」
「元からな」
麻莉菜は口元が緩むと恥ずかしそうに目を逸らされた、晴斗はゆっくり食べ終わると、洗い物しながら怒っていた凜の頬にキスした。
麻莉菜に舌打ちをされて表情を見ると顔を引きつらせ、溜め息をつかれた。
「何が言いたい?」
「何で凜姉ちゃん‥ばっかり…」
「麻莉菜もして欲しいか?」
「…い、要らないよ」
麻莉菜は顔が真っ赤になりそっぽを向いた。
「キスが恥ずかしいのか?頬ぐらい普通だろ」
「…ふ、普通は付き合わないとしないからね」
「親戚として付き合ってるよね?」
「…本当に晴兄って何考えてるかわかんない」
「てか、麻莉菜も俺の頬にキスしたことあったよな」
「…あるけど‥‥」
「凜からキスしてくるときもあるよ」
凜は「言わないでよ」と怒っていたが、晴斗は凜の口にキスした。
「ごめんね」
「…うん」
「目の前でキスしないで‥私の気持ち考えてよ…見たくない」
「見なきゃ良いんじゃないの?」
「そういう問題じゃない…晴兄はバカだから‥鈍いんだよ」
数分間麻莉菜に怒られた、寝室で黒染めスプレーを手にして洗面台で染めていた、麻莉菜が入ってくるとスプレーを手に取り見ていた。
「後ろ染まってないよ、私がしてあげる」
晴斗が屈むとスプレーを吹き掛けられた。
「染まったよ」
「ありがとう」
学校に行く支度が終わってリビングに来ていた。
「麻莉菜は友達と学校に行かないのか?」
「一緒に行く」
「なら、早めに行くか」
三人で学校に向かっていた、凜も麻莉菜もキョロキョロしていた。
「田舎者二人が俯くな」
『だって見られてる』
「髪染めて目立ってるからだろ」
「晴くんは自分が目立たないように染めさせたの?」
「…ひ、否定できない」
「晴くんだけ黒髪にして…最低」
「ごめん…でも二人とも可愛いさが増したよ」
学校に着くと下駄箱で、凜も麻莉菜も友達に話し掛けられていた。
…これで俺が目立たなくなったな。
晴斗は一人で教室に向かった、フードも被らずに教室に入ると自分の席に座った。
「あれ? 晴斗って銀髪アシュメじゃなかった?」
「モデルの晴のことだろ?マジで勘違いすんな」
「晴斗に似てるんだけどなぁ?」
「笑うな、てか似てるだけだろ」
「そういうことにしとこうな」
溜め息を付いて、スマホを触っていた。
「晴くん置いていかないでよ」
「友達が群がってたからな、邪魔すると悪いと思ってな」
凜は自分の席に座って言ってきた。
「晴くんだけ黒髪に戻してずるいよ」
「凜‥黙りなさい」
「だって晴くんだけ朝スプレー…」
晴斗は凜の膝に股がって頬を両手で挟んでいた。
「黙らないとプリクラの時みたいに…」
「……」
晴斗はスマホを取り出して、キスの待ち受けを凜に見せてニコッと笑みを向けると小声で言われた。
「…誰にも見せないでよ」
「…凜は学校のアイドル的存在なんだよ、俺のって言いたい‥見せたい」
「…我慢してよ、内緒って約束したでしょ」
「内緒にするからキスして」
「…ばか」
晴斗は自分の席に座ると凜に言った。
「髪染めてから可愛さが増したね」
「凜ちゃん可愛いよ…晴斗くんは黒髪に戻したんだね」
急に金髪の美優紀から言われると「俺は染めたことないから黒髪なんだよ」と優しく教えると言われた。
「晴くん隠さなくても良いのに」
晴斗は舌打ちをして美優紀に伝えた。
「お前が晴くんって呼ぶな、呼んでいい人は凜だけなんだよ」
「ごめんね、晴斗くんはモデルの晴だよね、昨日から晴くんって裏で呼ばれてるよ」
「…何で勘違いするんだろうな」
「そっくりで、今まで先輩に絡んでたから目立ってたし、顔覚えられてるんだよ」
「だろうな、でも俺じゃない」
チャイムが鳴るまで数人の男女が廊下から「晴居た」「本当に晴くん居たよ」と聞こえて手を降られ、話をやめて突っ伏した。
…黒髪にしたのに。
隣から視線を感じて横を見ると、凜が肘をついてこっちを見ていた、目が合うと睨まれた。
「オレワルクナイ」
「……」
「…ごめん」
授業が始まると、先生に「黒に染め直したんだ」と言われ、黙り混んだ。
先生が「髪が明るすぎて目立ってるよ」と授業が始まる度に凜に言うと、晴斗は「元々、義妹は可愛いので目立ってますよ」と教えていた。
周りの男女から「また同じこと言ってる」と言われ、晴斗は営業スマイルを向けた。
「抱き付いて歩いたりしてるけど、やっぱり付き合ってる?」
男子に言われると、即答した。
「家族だから付き合わなくても絆で結ばれたからな…あとはお嫁さんにするだけだな」
後半笑いながら皆に教えた、凜は俯くと頬が染まり、クラスメートが言ってきた。
「本気か冗談か分かんねぇな」
「俺の気持ちが他人に分かってたまるかよ」
「てか、妹に睨まれてるぞ」
凜を見ると、何故か握り拳を膝の上で作って睨まれていた。
「学校で怒る時って毎回俺だよね、最近は相手にされてる感じが嬉しいだけなんだ」
「後で二人きりで話そ」
「本気で怒ってる?」
「怒ってないよ」
「だよね」
凜にぎこちない笑みを向けられると同時に、先生は手を叩いて「話し終わったね、授業始めるよ」と言われた。
午前中の授業が終わった。
凜が弁当箱を二つ持って一緒に教室を出ようとしていたが、数人の視線を感じ取っていた。
空き教室に入ると鍵を閉められ、凜は机に弁当箱を置いて振り向いた。
「…皆の前でお嫁さんにするって言わないでよ」
「嫌だった?」
「…凄く嬉しかったよ、今日の晴くんは口が軽いよ」
「凜は俺のって言いたくなるんだ」
「自慢しなくても、晴くんしか見てないよ」
抱き締められた、ニコッと可愛いらしい笑みを向けられ、つま先立ちをしてキスされた。
「…お弁当食べよ」
「……」
無言でお弁当を開けて二人きりの教室で食べていた。
「モデルさんってバレてるね」
「まだ誤魔化せるよ」
クスクス笑われた、食べ終わると床に座り直し、膝に座られて抱き締めていた。
「昼休みは凜と二人きりが落ち着く」
「私もだよ…周り‥気にしなくていいから…」
急にキスされてクスクス笑われると晴斗も仕返しにキスした。
「…太もも握らないで‥手形が付くでしょ」
「正解したから跡つけ…」
「だめです」
「学校なんだよ、ダメ?」
「…キスだけにして」
一度キスして立ち上がった。
「教室戻ろ」
「…あと五分で良いから膝に座らせてよ」
「跡付けるかも知れないよ」
「……」
なにも言わずに床を叩く凜の横に座ると、膝に座られキスされていたが「足痛い」と言われて苦笑いを向けていた。
「ごめん」
「良いよ、人前で触ったらダメです」
「あっ、太もも手形付いて‥心霊現象だな」
「もう晴くんが付けたんでしょ…続きはお家‥麻莉菜が居ないときね」
「囁くな、笑うな、誘うな…今‥地獄だよ」
お腹を押さえて笑われ、廊下にこっそり二人で出たが、数人の生徒に見られながら自分達の教室に戻った。
教室に戻ると、恵が晴斗の椅子に座ってファッション雑誌を友達と見ていた。
「晴斗くん座る?」
「座ってて良いよ」
凜は友達と晴斗も載ってる雑誌を見ていたが、友達から足に手形がついていると指摘され、美優紀が言ってきた。
「そこの変態モデル」
「誰がモデルや」
「正直モデルだよね?」
「だから、俺じゃねぇよ」
「晴くん座らして」
凜を膝に座らせて抱き締めると、また美優紀が言ってきた。
「寂しくて抱き締めてるのかな?」
「うるせぇよ、寂しくねぇよ」
急に女子に「寂しいんだ」とからかわれて笑われると、美優紀に近付いた。
「ちょっと来て」
「何?襲われるの?」
「…マジでふざけんなよ」
「凜ちゃん好きなんでしょ、私でもいいの?」
「……」
晴斗は静かに教室を出て飲み物を買って、戻ってきた。
…俺の席空いてるわ
溜め息を付いて自分の席に座ってお茶を飲んでいた。
「晴くん私のお茶無いの?」
「ごめん忘れてた、はい」
晴斗は飲み掛けを渡して、躊躇なく凜は飲むと「えぇー」とクラスメートの声が聞こえた。
「何で皆してこっち見てんの?」
「………」
晴斗が聞くと教室が静寂に包まれ、凜はボトルを静かに返してきた。
「何で無視されてんの、凜は何でかわかる?」
「わかんないよ」
「だよな!」
晴斗は首を傾げていると、肩を叩かれ美優紀が教えてきた。
「飲み掛け渡して、躊躇なく凜ちゃんが飲んだからだよ」
「それだけ?しょうもねぇ~、皆も友達の飲むだろ…あれか、間接キス想像する小学生かよ」
晴斗は笑うと、クラスメートの女子に言われた。
「親しくても男子の飲まないよ」
「俺は男女関係なく友達のなら飲めるけどな」
言うと「やっぱり変わってる」と男女にこそこそ言われたが、触れなかった。
チャイムが鳴ると授業が始まった、また先生に、凜は髪の色を指摘され、また晴斗が「元から義妹は目立ってますよ…可愛いから」と返すとクラスメートに呆れられていた。
午後の授業が終わった。
ホームルームで凜は担任の島野先生から職員室に向かうように言われていた。
「凜も呼び出されたんだぁ」
「…晴くん何で呼ばれたか知ってるの?」
「知ってるよ、一緒に行こ」
「…うん」
二人は教室をあとにした。
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