第157話一緒に

ゴールデンウィークが終わって学校が始まった、パーカーのフードを被って学校に向かって二人で登校していた。

「ねぇ…何で晴くん見られてるの?」

「知らない、凜が見られてるんだよ」

「私は目が合わないよ、晴くん見てるじゃん」

「…確かにな」


男子も女子も通りすがりに、晴斗は何度も目が合って困っていた。

「あの子達知り合いなの?夜遊びの相手?」

「ちげーよ」

「キャー言ってたよ、何で晴くんだって言われてるの」

「フード被ってんのに知らねぇよ、モデルの晴のことだろ」


晴斗は全く面識の無い高校生の女子に「晴くんだよ」とこそこそ言われていた。

「マジで遊び相手じゃない、信じてよ。」

「何で中学生が晴くんって言うの?」

「あの制服同じ高校の生徒じゃないのか?」


晴斗は顎で、凜にスカートに一本の白い線が入った生徒を教えた。

「はぁ、一本線は中学生なんだけど」

「中学生が何で同じ方向に歩いてんの、中学校あったか?」

「バカにしてるの?中学校も同じ敷地にあるんだけど」

「はぁ、そんなこと今知ったんだけど」


晴斗は初めて中高一貫という事実を知って驚いてたが、凜に「バカにするのもいい加減にして」と怒られて喋らなくなった。

…校舎が無駄に多いと思ったら、俺は転校して直ぐに中学の校舎の屋上に入ってたんだな。


凜の顔を覗き混むと真剣な表情で本当に知らない人、面識が無いと何度も教えていた。

「本当に知らない人が、どうして晴くんって言ってるの?」

「…モデルの晴だろ」

「何で顔隠してるのにバレてるの? 隠れて中学生にナンパしてたんじゃないの」

「してないよ…」


凜は機嫌が悪くなるが晴斗は全く身に覚えが無かった、凜は一言も喋らなくなり、晴斗は落ち込んで学校の門を潜ったが、数人の男子も女子もこっちを見て、凜は一人逃げるように教室に向かった。


晴斗はフードを深く被り直し、イヤホンを鞄から取り出して教室に入った。

「…凜さん‥本当に知らないからね。」

「……」


凜に無視され、晴斗はクラスメートの女子に声を掛けられるが「ごめん、今静かにしてほしい」と落ち込みながら言って、机に突っ伏した。

…帰ろうかな。


授業が始まるまで晴斗は突っ伏していた、一時間目の授業が終わると休憩時間に恵に声を掛けられた。

「この晴って人、晴斗くんだよね。」

「…知らない、静かにして。」

「凜ちゃん、この人晴斗くんだよね。」


恵は隣に座る凜に声を掛けると、晴斗は横を向いて見ていたが、凜の目が泳ぐと晴斗は興味を持った。

「俺にも見せて」

「晴斗くんだよね?」


晴斗はスマホを除き混むと、陽菜のSNSのアカウントにモデル名で(優菜)と書いていた、写真を見ると初めてバイトした時、スクロールされて見ると今まで優菜と一緒に撮った仕事風景と新しい画像がアップされていた。

…はぁー誤魔化そう…プライベートまで載せんなよ。

「…残念だが俺じゃない」

「へぇ~、買い物で優菜ちゃんと友達って言ってたよね」

「友達だけど‥それ俺じゃない」

「晴斗くんの髪色と一緒だねぇ」

「恵はな~にが言いたいのかなぁ。俺じゃない」


晴斗は何度も違うと教えるが、周りから質問攻めに合い、無視して授業が始まるまでフードを掴んでいた。


午前の授業を真面目に受けて昼休みになった。

 晴斗はクラスメートに呼ばれて視線を移すと、麻莉菜が廊下に立っていた。

「何、用事があるなら凜に言ってね、今日疲れてんだ」

「晴兄のことで質問されて疲れるんだけど」

「知らないって言え」

「晴兄が誤魔化してよ、髪染めてるからフード被ってるのって聞かれるんだよ、染めてるけど違うって言っといた」

「皆の前で染めてる言うな…ちび」


廊下に居た麻莉菜と会話してたが、麻莉菜は教室に入ってきた。

「今何て言った。」

「麻莉菜は小柄で可愛いって言いました、フードから手を離して下さい、僕が悪かったです…皆見てるので教室に戻ってください。」


麻莉菜は周りを見て教室から出ていくと、晴斗も出て行こうとした。

「晴くん二人で話そ」

「…もう質問攻めで疲れたんだ」


晴斗はお弁当を受け取ると、教室から出て行って屋上で一人、食べていた。


スマホを確認すると、陽菜から「もうバレてる?」という文字と笑っているスタンプが送られていた。

「大変だよ」


返信してお弁当を食べていると「晴くん」と声掛けられて体がビクッと反応して振り向くと、凜がお弁当を持って立っていた。

「晴くんがナンパしてたって疑ってごめんなさい」

「誤解が溶けたなら良いよ」

「誤魔化せないね、私に晴くんのこと聞いてくるから逃げてきた」

「誤魔化せるよ、一緒に食べよ」

「…うん」


凜は食べ掛けのお弁当を食べ始めた、直ぐに晴斗も食べ終わった。

「晴くん付いてきて」

「外は寒いか?」

「うん」


凜に付いていくと空き教室に入り、鍵を掛けられた。

「膝枕してあげる」

「急にどうした?」

「…スカートだと嫌?」

「嬉しい」


凜が床に座ると膝に頭を置いたと同時に言ってきた。

「私だけの呼び方だったのに‥知らない子に晴くんって呼ばれたくない」

「…ごめんね、バイトしなきゃよかったね」

「今は嬉しい…お兄ちゃんがモデルさんなんだもん」

「お兄ちゃんって呼ぶな…てか言っとくけど契約切れるからな」

「…晴くんの活躍見たかったなぁ」

「アホか、見んでいい」

「ねぇ…本当に中高一貫って知らなかったの?」

「…知らなかった‥ごめんね」

「晴くんは他人に興味ないからだね、直さないとダメだよ」

「…分かった」


お互い静かになると、晴斗は凜を見上げ目が合うと何度も逸らしていた。

「晴くんどうしたの」

「…二人きりで目が合うと恥ずかしいね」

「そうかな?私は二人きりの方が恥ずかしくないよ」

「俺は恥ずかしいよ」


パーカーで顔を隠して教えると、捲られてクスクス笑われ頭を擦られていた。

「バイト大変なの?」

「ゴールデンウィークは大変だったな」

「…頑張ってたもんね…夜遊びも」

「一言余計だな」


凜を見ると目を閉じていた、晴斗はずっと見つめていると急に笑われた。

「どうして見てくるの」

「…見てない」

「薄目で見てたんだよ」

「…可愛いから見てたんだよ、言わせんな」

「もっと言ってよ」

「てかさぁ‥今日の朝無視されて寂しかったんだけど」

「だって他の子に晴くんって呼ばれて‥嫌だったの」

「なんかごめんね」


二人は、チャイムが鳴るまえに教室に戻ると、晴斗の歌っている動画を数人が見ている後ろ姿が視界に入った。

…どうなってんだよ、音は聞こえないから良いけとさ。


机に突っ伏すと誰かがイヤホンを外したのか、自分の声が聞こえてチラ見すると、良太がこっちを見てニヤついていた。

…お前かぁ。


無視してイヤホンを付けて周りの音を遮断していたが、頭を叩かれて顔をあげると、先生が立っていた。


怒られて授業が始まると、クラスメートは英語の授業を良いことに、島野先生に動画を見せていた。

「本当に飯島くん上手いね、発音も良いよ」

「俺じゃねぇよ」

「晴くん、怒ったらダメだよ」

「…お、俺じゃないのに」

「飯島くんだよね、髪の色も顔もそっくり」

「彩花はな~に言ってるんだい? 俺の髪は黒だよ…その動画知らない」

「晴くん、先生を名前で呼ばないよ」

「怒んなよ、朝から勘違いされて疲れてんだよ」


先生は溜め息をついて言ってきた。

「先生も疲れてますよ、他のクラスで授業すると毎回動画を見せられて、私の受け持つクラスに居るよねって聞かれて…はぁ」

「聞かれてなんて答えたんすか?」

「似てるだけって答えてあげたからね、安心していいよ」

「いやいや、俺って確信してますやん」

「飯島くんってすぐわかったよ、髪色も髪型も同じだったからね」

「ま、まぁ‥俺じゃないですけど…普通‥教室で言うか?」


クラスメートは晴斗だと勘づいていたが、違うと言い張って授業が開始された。



午後の授業が終わって放課後を迎えた。

 晴斗は静かに教室を出て行こうとしていたが、クラスメートの男子にフードを捕まれ睨み付けていた。

「触んな」


良太も近付いてくるとフードに手を伸ばされて払い除けた。

「フード脱いで見せろ、晴斗はモデルじゃないんだよね?」

「髪型が可笑しいから見せたくないんだよ…またなぁ」

「晴くん一緒に帰ろ」

「モール行って帰るから先に帰ってね」


晴斗は凜を置いて教室から走って逃げた、下駄箱に来ると麻莉菜が友達と歩いていた。

「麻莉菜は友達とモール?」

「うん」

「俺もモール行くんだけどさ、途中まで一緒にいこ」

「…良いよ」


麻莉菜と友達と学校をあとにした、モールにつく頃、名前を呼ばれて振り向くと凜が腕を組んで横断歩道を赤信号で足止めされていた。

「待ってよ」


麻莉菜達と別れ、凜が渡ってくると言った。

「学校以外で知り合いに会うと嫌がるからさ、麻莉菜達と向かってた」

「…一人で帰るの寂しい‥一緒にいく」

「友達と遊びに行って良かったのに、まぁ一緒に行こ」

「うん、何買うの?」

「黒染めスプレー」


モールに着くとドラッグストアに来ていた、黒染めスプレーを手に取り凜を見るとヘアカラーを見ていた。

「凜も染めるか?」

「染めないよ」

「染めたら良いのにな」

「…黒髪が嫌いなの?」

「凜ならもっと可愛くなると思ってね」

「どの色が似合うと思うの?」


屈んで色を選んでいると、凜も屈んで言ってきた。

「…真剣に選んでるけど、染めるかわかんないよ」

「染めなくて良いよ、真剣に選びたいんだ」


晴斗はグレージュを手に取り、凜に進めていた。

「凜はこれだな、今日染めようか?」

「…似合わないよ」

「もっと可愛くなるのになぁ、麻莉菜を俺好みにするから買って帰るね」


晴斗は笑って教えると、凜は怒っていた。

「だめ…私が染めたい」

「本当に? 帰ったら染めようね」

「…やっぱり染めないとだめ?」

「染めなくて良いよ、代わりに麻莉菜を染めるからね」


レジでヘアカラーと黒染めスプレーを買った。

「帰る?」

「うん」


モールから出て裏路地に入り、人気がなくなると手を握って歩いて帰った。

「おかえりなさい‥晴くん」

「ただいま」


着替えると凜を膝に座らせた。

「どうしたの?寂しいの?」

「違うよ、もっと可愛い凜を見たいんだ」

「…イタズラしたいの?」

「違うよ‥染めて欲しい、可笑しかったら黒染めスプレーあるし‥イメチェンしよ」

「…良いよ」


凜の手を引いてリビングでお風呂の支度と準備していた、シェイカー容器に1剤と2剤を入れてシェイクさせていた。

「いつまで振るの?」

「泡立つまで」


1分もしないうちに泡立つと、晴斗が手袋を付けていた。

「自分でやりたかった?」

「晴くんにして欲しい」

「服に付いたらいけないし、脱いでね」

「…う、うん」


泡を塗り込み、40分放置することにした、凜に呼ばれた。

「…寒い」

「気が利かなくてごめんね」


ブランケットを出して掛けてあげた、ソファーに座り直したが凜はぎこちなく立ち上がると隣に背筋を伸ばして座った。

「もう寒くない?」

「…少し寒い」


掛けるものがあるが見渡していると「膝に座って良い?」と聞かれて座らせた。

「晴くん…服に付いちゃうかも」


晴斗が上の服を脱ぐと、凜の頭に付いている泡が肩に付いて謝られた。

「一緒にお風呂入ってくれたら…許す」

「麻莉菜も一緒に住んでるんだよ」

「だから何? また凜と入浴したい‥駄目?ずっと我慢させるの?」

「…もう‥こっそりだよ、バレたらダメなんだからね」

「はーい」

「…静かに入る約束出来る?」

「うん、出来る限り静かにするね」


二人が話しているとガチャっとリビングのドアが開く音がした、麻莉菜は「あっ…ごめんなさい」と言って、すぐに俯いてドアを閉めた、リビングに入ることはなかったが晴斗は「麻莉菜来て」と呼ぶと俯いて入ってきた。


麻莉菜は目を擦りながらドアの前に立っていた。

「泣いてるけど、どうした?虐められた?」

「…違うよ、何で二人は裸なの…リビングでしたの?」

「えっ‥何を?」

「…言わせないでよ、見たくなかった…辛いよ」

「俯いてるから勘違いしてるぞ、凜の髪を染めてるんだよ、凜はブラ付けてるし、ズボン履いてるよ」


麻莉菜は顔を上げて凜の髪を見た、すると、顔が真っ赤になるが安心していた。

「ブランケットで隠したかと思って‥変なことしてたと思ったでしょ、凜姉ちゃんも下着姿見せても平気なの?」

「…毎日一緒に着替えてるから、晴くんに下着見られてもあんまり恥ずかしくないよ」

「晩御飯も作らずに抱きついてもらったの?裸同然なんだよ」

「晴くんなら良い」

「…凜姉ちゃん変わっちゃったね、昔は男子に声かけられると黙り混んでたのに…」

「晴くんのおかげだね」

「俺のおかげなのか?俺は凜のおかげだよ」

「元不良で口が悪かったね…今でもたまに捲し立ててるよ」

「…ごめんね」


麻莉菜は不良という言葉に反応しなかった、晩御飯の支度を麻莉菜は始めた。

「残り物だけで良い?」

「良いよ、先に凜とお風呂入ってくるね」

「わかった…えっ‥」


凜に後ろから蹴られ、麻莉菜は手が止まって「もう一回言って」と言われて「凜とお風呂」と言いながら、凜の腕を掴んでリビングのドアに向かっていた。

「は、晴兄は後で入って」

「麻莉菜と入るってこと?」

「違うよ、別々に入りなさい」

「何で、凜も良いよって言ったよ」

「…そういう問題じゃない」


凜に手を振りほどかれ先にお風呂に向かっていった、晴斗は麻莉菜に「ちょっと寝室で横になるね」と一言言ってリビングをあとにした。


着替えを片手に寝室を出ると、麻莉菜と廊下で会った。

「何で着替え持ってるの?」

「お風呂入るからだな」

「凜姉ちゃんが入浴中なんだから‥駄目」

「…何でぇ‥肩に泡が付いて気持ち悪い‥お風呂入る」

「晴兄子供みたいなこと言わないで」

「…何で邪魔するの?お風呂ぐらい家族なら入るだろ」

「高校生にもなって入んないよ」

「はぁ?今でも俺は幼馴染みと入ってるわ」

「男子とでしょ」

「男女関係なく入ってる、麻莉菜がおかしい」


麻莉菜は唇を噛んで、睨み付けて言ってきた。

「女子って何歳?まだ子供でしょ」

「同い年と一個上の幼馴染みだな」

「…と、とにかく一人で入りなさい」

「…嫌だって言ってんじゃん、凜と入るから手を離してよ…」

「うじうじしないで来なさい」


晴斗はソファーに座らされ落ち込んでいた、凜がお風呂から上がると晩御飯を食べ始めたが、晴斗は喉に通らなかった。

「晴くん食べないの?」

「…一緒に入りたかった」


凜は耳打ちして言ってきた。

「今度麻莉菜が居ないとき入ろ…私も晴くんと入りたい」

「…約束だからな」

「うん」

「…せめて一口食べさせて」


凜にミートボールを食べさせて貰うと「元気になったぞぉ」と一言言って、晴斗もお返しにミートボールを食べさせながら髪を見て言った。

「なんか、ミルクティー色になったね」

「…明るすぎて目立っちゃうよ!」

「凜は元々可愛いから目立ってるよ」

「……」


照れる表情を見ながら食べ終わると麻莉菜を見て「お風呂入るね」と一言言って入浴に向かった、


入浴後、リビングに入ると麻莉菜がヘアカラーの余りの泡を持ってきた。

「…私の無いの?」

「無い、ごめんね」

「…余りの泡で晴兄みたいな髪にしたい。」

「アシュメってこと?」

「晴兄とお揃いがいい」

「俺はグレージュじゃないよ、シルバーと…」

「良いよ、アシュメにして」

「ミスるかも!」

「…晴兄信じる」

「困る、まぁサランラップ持ってきて」

…可笑しかったら黒染めスプレーだな。


泡を付けるとサランラップで数十ヶ所巻いていた。

「俺は学校で、質問攻めで疲れてるから寝るね」

「おやすみ」

「40分したらお風呂入って、明日見せてね」

「うん」


晴斗は一人で寝室に入ると、布団に潜り込んで30分ほどで眠りに付いた。




















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