第119話遊園地…③凜は優しい

五人でお化け屋敷に着くと、逃げようとする麻莉菜を子供のように抱っこしていた。

「麻莉菜と二人で入りたいんだよ、怖がりだから。」

「……下ろして。」

「また、逃げるよね。」

「もう逃げない。」


麻莉菜を下ろすと走り、凜の後で隠れたが、晴斗はまた抱っこしていた。

「晴くん、嫌がってるよ。」

「麻莉菜は俺と入るのが嫌だったか、そうだよな、年頃の女の子だもんな、彼氏と入りたいよな。」


寂しそうに麻莉菜を下ろすと、澪さんを見ていた。

「澪さん、一緒に入りますか…俺怖がりなんです。」


澪さんはプルプルと首を横に降ると、晴斗は祐希に視線を向け、ため息をついた。 

「祐希でいいか‥行こ。」

「ため息つくな…い、行かねぇよ。」

「彼女の前で怖がるなよ…三人は待ってて、すぐ出てくるからね。」

「怖くないぞ。」


晴斗は強引に肩を組むと、不適な笑みを三人に向けて、病院がモチーフのお化け屋敷に入っていった。

…祐希の奴一人で腕組んでるし距離近…怖いんだな。


晴斗は中間手前まで来ると、全力で出口に向かって走った。出口から出ると、三人を見つけ、息を切らして近寄って行った。

「待たせたね。」

「祐くんはどうしたの。」

「置いてきた、次麻莉菜と入りたい…やっぱり彼氏と入りたいか。」

「…晴兄は‥私も置いて逃げるんでしょ。」

「可愛い麻莉菜を置いていかないよ、本当に麻莉菜と入りたいんだ。」

「…晴兄を信じるから、本当に置いて行かないでよ。」


晴斗は頷くと、麻莉菜の手をとりお化け屋敷に入っていった。中に入るとビーカーや、手術室など霊安室を見て、晴斗は祐希が泣いてないか心配したが、奥に進むにつれ脅かされ、麻莉菜は何度も「キャー」と言うと、手を握り締められていた。

…麻莉菜は小柄だけど、力が強いな…からかってみるか。


晴斗は手を振りほどき、五メートル程走ると止まり、振り向くと麻莉菜は走って付いて来ていたが、お腹にダイブされ抱き付かれていた。

「……お、置いていかないって言ったのに。」

「ごめんね、直ぐに止まったよね、置いていってないよね。」

「…置いていってないけど、怖かった。」

「ごめんね、怖がらせてごめんね。」

「…もう逃げないで。」

「周り見なくていい、おんぶするからジャケットで顔隠してくれるか。」

「……うん。」


晴斗はジャケットを脱いで、麻莉菜の頭からかけるとしゃがんでおんぶすると、周りを見えないように出口に歩いて向かった。外に出ると祐希は怒っていた。

「何で逃げた。」

「怖かったのか。」

「…怖くないけど。」

「怖くても、楽しかったよね。」

「確かに楽しかったよ。」


外に出てしゃがんで下ろそうとするが、麻莉菜は降りようとしなかったが、凜に睨まれると無理やり下ろし、凜の手を握り、五人でジェットコースターの列に並んでいた。

「晴くん、無理してるよね。」

「してるよ。」

「…無理しないでよ。」

「乗ったら、動けなくなるって分かってても、皆楽しそうだし、俺だけ乗らないのは‥さすがにね。」


皆と話ながら、順番が回ってくると乗ったが、皆が叫んでるなか、晴斗は死にそうだった。ジェットコースターから降りると、凜は近寄ってきて心配していた。

「晴くん座ろ、ベンチあるよ。」

「…肩貸して。」


晴斗は後ろから凜の肩を両手掴むと下を向いて案内してもらった。ベンチに着くまで三人は楽しかったのか話して笑っていた、ベンチに座ると凜に背中を擦られていた。

「晴くん、顔色悪いよ。」

「…は、吐きそう…帰りたい。」

「休んで帰ろうね。」


三人に帰りたいと言うと、さすがに晴斗の顔色を見て心配していたが、麻莉菜に話し掛けられていた。

「晴兄も乗ってくれて楽しかったよ。」

「…久しぶりに麻莉菜と遊べて楽しかったぞ。」


時間を確認すると、まだ15時だったが。皆も帰ろうと言うと、晴斗は「麻莉菜も連れて帰って。」と言って先に帰らせようとしていた。

「晴兄と凜姉ちゃんと帰りたい。」

「…事故して、大切な麻莉菜を怪我させたくない…今日だけわがまま言うな。」


祐希も澪さんも麻莉菜に晴斗の体調を見て「先に帰ろう」と言っていた。

「晴兄も凜姉ちゃんも家に帰ってきてよ、黙って帰らないでよ。」

「…顔見せに行くよ、帰りは遅くなるかも。」

「家で待ってるからね。」


三人が帰ると、凜と二人でベンチに座っていた。20分程で、少しは吐き気が収まっていた。

「…楽になった、帰ろ。」

「まだ、顔色悪いよ。」

「…ここはうるさい‥静かに横になって休みたい…帰ろ。」

「うん、事故しないでよ。」


遊園地は騒がしく、晴斗は家で休みたかった。二人はバイクに股がり走ってたが、運転してるとまた吐き気に襲われていた。


凜にインカムで「もう無理」と言って路肩に止まって、インカムで会話していた。

「…吐いたら楽になるよ。」

「俺でもさすがに、人前で吐くのはためらうんだ‥せめて人気のない場所。」


凜はスマホ片手に、場所を探してくれたのか「静かな場所が近場にあった、もう少し頑張って。」と言われ「静かな場所か…案内して」と消え入りそうな声で答えていた。


バイクで10分も掛からず、到着すると…晴斗は直ぐに分かってしまった。

…ホテルか、そんな元気無いって言いたいが、吐きそう。


凜に手を引かれ、部屋に入るとトイレに駆け込んで吐いてたが、凜に優しく背中を擦られていた。

「……休んでて、見せたくない。」

「晴くんなら、汚いと思わないよ。」

「…お世辞でも、嬉しいよ。」


何度も吐くと落ち着き、口をゆすいで、ベットに倒れこむと、凜も横になった。

「…凜のおかげで、だいぶ楽になった、ありがとう。」

「顔色も少し良くなったね…抱き締めていい‥しない方がいいよね。」

「…抱き付いて良いけど、吐いて歯磨いてないからキスしないでね…少し寝たい。」

「…寝て良いよ。」

「…凜は優しいな…将来良いママになるね。」

「……からかわないでよ。」

「…ごめんね。」

「…………」


直ぐに晴斗は眠りにつくと、一時間程で目を覚まし、隣を見ると凜は寝ていた。

…寝てるのか…体調は良くなったけど、変な汗かいたし、シャワー浴びよ。


シャワーを浴びてると視線を感じ、ガラス越しにベットに視線を移すと、凜と目が合い、そっぽを向かれた、シャワーを浴び終え歯を磨いてベットに向かった。

「起こしてごめんね。」

「……う、うん…も、もう大丈夫なの。」


凜は晴斗と目が合ってから、逆を向き、目を合わせようとしなかった。

「こっち向いて、体調が悪いのか…よそよそしいぞ。」

「……」


凜は小声で言うが、晴斗は聞き取れなかったが、晴斗も横になり、抱き締めると体が震えていた。

「寒いのか。」

「…ち、違うよ…恥ずかしいの。」

「自分でホテルに誘ったからか。」

「……うん。」


凜は晴斗の手を引いて、ホテルに入ったことを恥ずかしがっていたが、凜と目を合わせ晴斗は言った。

「俺の体調を考え、静かな場所探してくれたんだよな、誘われたと思ってないよ、凜は本当に優しい、もっと好きになった。」

「……」


凜は何も言わず、晴斗の胸で顔を隠していた。

「何度も歯を磨いたんだけど、キスしていい。」


凜が顔を上げて目が合うと、目元が潤んでいたがコクコク頷き、頬を染めて目を閉じるとキスをしていた。

「…短いキス‥ダメ。」


恥ずかしそうに言われ、耳まで真っ赤な表情を見て、晴斗は平常心を装いキスしていた。お互い少し息が荒くなると、お腹に股がられキスされていた。

…本当に綺麗だな‥


急に凜はキスを止め、自分で服を脱ごうとするが、手が震えて脱げないでいた。晴斗は直ぐに腕を引っ張ると抱き締めていた。

「連れ込んだと思って、使命感があるんじゃないのか、体も震えて泣きそうになってまで無理するな。」

「無理してない……し、してほしいって言うのが‥恥ずかしいの。」

「本当に無理してないか。」

「……うん、晴くん‥好きにして。」


耳元で恥ずかしそうに言われ、耳朶を甘噛みされたが、理性は壊れず、凜の頭を優しく撫でていた。

「でも、また今度な。」

「…求めたから‥ダメなの。」

「吐き気も無くなったけど、本当にそんな気分にならないんだ。」

「ギュッと‥強く抱き締めて。」


凜が落ち着くまで抱き締めてると、耳元で「晴くん大好きだよ…シャワー浴びてくるね」と囁かれキスされた。



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