決戦

天上から現れるは最初から完成された神々。

見上げるは、世界を滅ぼされ、尚も立ち上がった未完成なる種族。


「さぁ、武器を構えろ。倒すべき敵は目の前にいる。敵の数は万を超える、だが、問題はないだろう?今まで戦ってきた相手は、隣に立つ仲間たちは、もっと、ずっと強かったのだから。終わらせよう、このくだらない神話を」


アマデウスの言葉に、皆は動き出した。


「無駄だということが、なぜわからぬ」


天上から落ちる雷を、地上から昇る雷が相殺した。


「安倍晴明、此処に蘇った。肉体のある今ならば、陰陽術も扱える。卑弥呼、僕に協力してくれ」

「それはいいが、あれの相手は私たちではない。私たちは、八百万、大和の神々を討ち滅ぼす」

「八百万って、出来るものなの?」

「私は、卑弥呼であり、天照大神である。高天原の支配者を、舐めるなよ」


辺りを炎が包む、温かで、心を満たす柔らかな炎。


「巫きくの、巫術廉、そこで見ていろ。力の扱い方を理解したならばついてこい。君達が相手するべきなのもまた、大和の神々だ」


卑弥呼は笑い、巨大な鏡を空へと写した。


「安心しろ、天地開闢の創造神を相手取るだけだ」




「トキ、俺たちの相手は分かってるな?」

「当たり前。僕らはトト神とアトゥム神から力を奪っているのだから、エジプトの神々を倒さねばならない」

「わかってるならそれでいい。手加減なんかするなよ?」

「当たり前だ、全力で滅ぼす。特に、オシリスの奴はな」


トキとレオ、二人が並ぶその背には、太陽と月が浮かんでいた。

夜と朝が交わる世界。




「まったく、ぐちゃぐちゃじゃねぇか。でもまぁ、また会えてうれしいぜ、カラミティ」

「僕もだよ、夜行。それじゃあ僕たちは、太陽神を殺そうか」

「あぁ、今度こそ、正真正銘本物の神。俺達で、太陽を喰らおうじゃねぇか」


カラミティと夜行の周囲を、暗闇が覆う中、二人は天を見上げ獰猛に笑った。




「まったく、皆好き放題動くのだから、困ったものだ。さて、全て護り切れるだろうか」

「おい、もっと楽にしろ」


ロウレイは突然背を叩かれた。


「イアソン、船はどうしたんだ?」

「それは今どうだっていい。お前はまず周りを見ろ。ここにいるのは皆選りすぐりの強者たちだ。自分の身は自分で守れる。だから、お前は本当にやばい攻撃だけ防げばいい。まぁ、神の攻撃なんて全てやばいに決まってるけどな。それでも、一人で抱えるな、お前はお前らしく、だ。協力してくれそうなのもいるようだしな」


イアソンの視線の先には、胡散臭い笑みを浮かべる男がいた。


「それでホームズ、一体次は何をするの?」

「同じだよ。攻撃を逸らして援護する」

「な、今度ばかりは無理だ。あのでかいのでさえ死にかけたのに、それを造った奴らなんて」

「あぁいや、君は彼らを殺してきてくれても構わないよ」

「……本気?」

「私は別に、君が誰かを殺したところでどうとも思わない」


ワトソンはホームズの言葉にしばらく固まる。

そして舌打ちをすると、雰囲気が変わった。


「チッ、ジャック・ザ・リッパー。手を貸せ。霧夜の殺人を始める」


辺りを霧が包み込む、その中へと入っていくワトソンの後ろを、何も言わずにジャックは付いて行った。




「ふむ、神々であるか。ならば……」

「「武神が居ろう、儂の相手をしてもらおうか…………む?」」


顔を見合わせた老人は、口角を上げた。


「ほぉ、これほど強き武人がいるのか」

「いつか手合わせ願おう」


天を見上げ、二人の老人は地を蹴った。




「出鱈目過ぎるだろ。年齢を考えろ」

「馬鹿か、まずは異能も魔術も無しにあんな動きしてて人間の限界とか言ってることに驚愕しろ。あれは人間の限界じゃなくて、人間やめてんだよ」

「あぁ、アインス。なんだか久しぶりだな」


突然話しかけてきたアインスに、微笑みを向ける。


「非、俺は戦えなくてやることが無い。だから俺の指揮下に入って俺の命令通り動いてくれないか?」

「ん、あぁそれは構わないが……俺をあの天に届かせる方法でもあるのか?」

「ある。少し待てば足場はできる。お前はまだあの老人二人ほど出鱈目じゃないからな、少し待っていろ。待つのが嫌なら、盾を足場に上ってもいいぞ」

「あぁ、わかった。なら、盾を足場にして上ろうか」

「……まぁ、好きにしろ」


そう言って非は神々の攻撃の中でも威力が高いものへと飛び込んでいった。




「俺はお前を許したわけじゃ無いからな」


そこは荒れた大地で唯一の花畑。


「知っているとも。だけど協力しなければ勝てないからね。ということでアルトリウス、僕が君に魔術をかけてあげよう」

「危ない魔術じゃ、無いですよね?」


マーリンの言葉に、アーサーは心配そうにする。


「安心してくれたまえ、成長の魔術さ。今だけの泡沫の夢だけれどね」

「今すぐかけろ」

「あぁ、もう急かさない急かさない。それじゃ二人とも、頑張っていこうじゃないか」


そう言って三人は、剣を握り空を翔けた。




「よぉ、久しぶりだなぁ狢」

「あ、おじさん。生きてたんだ」

「もちろん。おじさん行き汚いからねぇ」

「ほんとおじさん汚い」

「反抗期辛いなぁ」

「って、おじさんが生きてるのとかどうでもいい。そんなことより、どうやって殺すの?」

「……簡単さ、人間と同じ。どこぞの剣士よりも鈍感だから、相手の攻撃に合わせてやれば、こちらの攻撃に気付くことなく死んでくれる」


そんな簡単に出来たら苦労しない。


「空は飛べないよ」

「だからまず、ナイフを投げる。気付いた奴はこちらに攻撃してくるから、それに合わせてもう一度投げる」


説明しているだけだと思いきや、狐は実演していた。

眼前に迫る炎。


「鈍感な神様は気付けない。自分が死んだことにすら」


炎は当たる直前に消え去った。


「神様ってのは完璧でな、自分が死んだら自分の権能まで完全に消える。だから、攻撃が届く前に殺せば、怪我無く終わらせられるってわけだ」


なんでこう、おじさんも先生も、出来て当然みたいに言うんだろう。

普通出来る訳ないじゃん。


「ただ、あんまり速い奴には手を出すなよ。殺すのが間に合わずにこっちが死ぬ。いやぁ、人間には辛いねぇ、空が飛べないから簡単に殺せない。師匠なら、きっとあの空を翔けまわれるだろうに」


狐は空を羨んだ。


「そんな出来もしないこと言ってないで、自分に出来ることをして」

「はいよ、それじゃあ殺しますか」


二人の暗殺者はその手にナイフを握った。




「なぁマゼラン。どうしよう、人がいないせいで異能が使い物にならない」

「俺もだ黒鉄。持ってる兵器が神のせいで動かない」


戦闘の手段を失い途方に暮れる二人に、背後から声がかかる。


「そんなあなた方に朗報です。どうぞこの二人をお使いください」


天の部下である者達であった。


「僕では、アインスという男のようにはいきませんが、それでも、あなた方に神殺しをさせてあげましょう」


胡散臭い男は、二人に微笑んだ。




「骸、頼めるか?」

「えぇ、構いません。私が神の権能を裂きましょう。ですので、貴方が」

「あぁ、俺が、その命を絶つ」


炎と瘴気は、空を舞った。




地面を這う鎖が、空へと延びる。


「さぁ、攻撃の届かぬ者は、この鎖を上れ。神の権能さえも弾く特別製の鎖だ、落ちることなど、決してない」

「そうか。なら、さらに落ちにくくしようか」

「ん、俺の鎖に、魔術や異能は効かないぞ」

「魔術でも、異能でもない。ただの……幸運だ」


そう言うと男は鎖の上に腰を下ろした。

その時、鎖に向け神々が放った攻撃が、突然その軌道を変えた。

攻撃は霧の中へと吸い込まれるように入っていくと、軌道が逸れ、盾に受け止められかき消された。


「お前は、一体」

「僕かい?僕は、運が良いだけのただの人さ」


男はミカエリスに微笑みを向けた。




「グリモワール、魔導書か」


本を広げる女性に話しかける。


「ラヴクラフト、何か用?」

「少し手伝ってくれ。巨神がいる。フレイやシナーの手を煩わせる程のことじゃないから、倒したいんだけれど、如何せん僕の子供たちの攻撃は通用しそうにない。だから、君の持つ武器を貸してくれないか?」

「えぇ、構わないわ。けれど、どんな武器が良いの?」

「そうだねぇ……」


ラヴクラフトは巨大な門を出現させた。

門が開き、中から出てきたのは、巨大な謎の塊であった。

塊と言っていいかもわからない。

霧のように無形であるようにも見える、だが、物体として、有形であるようにも見える。

ただ一つ確かに言えるのは、巨大であった。

ナイアルラトホテップとは比べるまでもない。

数倍以上のサイズである。


「アザ=トース。今の僕は完全な人間だから、このような呼び方しか出来なくてごめんね。けれど許してくれ、僕は人間であることを意外と気に入っているから」


ラヴクラフトの言葉に、アザ=トースと呼ばれたそれは、蠢くことで答えた。


「そう言ってくれてうれしいよ。それじゃあ、君には巨神を殺してもらう。君は破壊の権化であっても、聡いからね、解っているだろう、本当の神に勝てないことを」


アザ=トースはその身を少し縮ませた。


「だから君に武器を、神を殺せる武器を渡そうと思う。有形であり無形である君ならば、その姿を変えることもできるだろう?だから、武器を持てるよう姿を変えて戦ってくれ」


ラヴクラフトの言葉に、アザ=トースはその身を回転させた。


「それじゃあ、あの子が持てるような大きさの武器を出してくれ」

「え、えぇ、わかったわ」


本を一冊取り出す。

ページが勝手にめくられ、紙が宙を舞う。

アザ=トースの上空辺りに、紙は集まった。

手を空へ向け、振り下ろす。

その動きに呼応して、紙に描かれた人の中から、巨大な剣が降ってき、アザ=トースの隣に刺さった。


「さぁ、その剣を手に、巨神を殺すんだ」




「……クロイと言ったか、お前、俺と協力しろ」


角を生やした青年は、黒髪黒目の男に話しかけた。


「げ、酒呑童子。協力するなら他を当たってくれ。お前とはやりづらい」


クロイは眼を逸らした。


「やりづらいなんてことは無いだろう。互いに弱点を補えるはずだが?」


酒呑童子の言葉に、顔を歪める。


「俺の力によりお前の力は軽減され、暴走することなく、理性を保ちながら戦える」


酒呑童子はクロイに煽るように笑いかけた。


「……チッ。お前は俺のそばにいることで、俺の力に反応して強くなれる」

「その通り。だから俺たちは相性がいい。理解したのなら、早く力を使え。神殺しだ」




「あらあら、どうやら困っている様子。私が助けてあげますわ」


幼い見た目でありながら、気品ある立ち振る舞いの少女。


「お前の扱いに困ってるんだ‼」


少女の微笑みに、男は苛立っていた。


「あら、宮廷魔術師であるあなたが、姫である私にそのような口を利くだなんて、いけない子」

「私はもう宮廷魔術師ではありません。それに、サインという名前がある。あなたの知っている私ではない」

「ふふっ、そう言いながらも、言葉遣いを変えてくれるところ、可愛らしいままね」


サインはかつて仕えていた少女の扱いに困り果てていた。


「なんだか楽しそうですねぇ。僕も混ぜてください」


不敵な笑みを浮かべる少年が、サインの背後に立っていた。


「そう睨まないでください。妖組、騎士団、ギルド、協力して戦いましょう。神様、殺せるでしょう?」


挑発してくる少年に、サインは鼻を鳴らす。


「僕は大英雄の弟子だ。あの人の背を追っているんだ。神を前に止まっている場合じゃない」


サインはそう言うと、陣を展開した。


「そう。なら、私を援護なさい」


少女は双剣を取り出しサインの前に出た。


「しかしひm……シャルル、君が全線で戦うなど、本来あってはならないことなんだ」

「姫で構わないのに。でも、確かに私が前に立つのはおかしいのかもしれない。けれど私は、誰よりも前に立ち、人々を引っ張っていけるような姫になりたいの」


それは……。


「わかりましたよ。その選択の先、貴方は決して後悔しないことを、僕は知っている。今回限りです、僕が貴方を戦場に立たせる。決して死なせはしないですからね」


サインはシャルルに強化の魔術をかけ始めた。


「それでは僕は、神の権能、その一部を剥がしましょう。大丈夫、今回は、仲間を気に掛けていますから」


少年は微笑むと、天へうたった。




「こんな清々しい気分は初めてだ。ずっと願いを叶え続けていた。人の醜い部分ばかりを見てきた。けれど、それでも俺は人が好きだった」


男は、天を見上げる。


「それに、願われたから」


《お願い事?うーん、この子の健康かしら。幸せになって欲しいのはもちろんだけど、元気が一番、でしょ》


母さん……。


「俺は、生きるために戦う。俺は俺の幸せのために、仲間と共に明日を目指す」


それは加護であった。

かつて人々の願いを叶え、神として崇められた唯人の、加護であった。




「終焉なんて物はもうこりごりなんです。私はもう、居場所を失いたくはない」


ソルトは、その身体から糸をのばす、ソルト本来の異能、粒子操作。

ソルトは既に神を見た、そのつくりを見た。

ソルトは既に、神を殺せる武器の作り方を理解していた。




「神?あれは神なのか。神は悪である、倒すべき敵である」


早乙女天は天を見る。


「何処に居る。正義を名乗る悪は、何処に居る…………アストライアァァァァ‼」


あの日の憧れを、あの日の失望を、天は決して忘れない。




「よぉフレイ。勝負しよう、どちらが多く神を殺せるかだ」

「なら気を付けて飛ぶことだ、イザヤ。俺の炎に、翼を焼かれても知らないからな」


堕天使と妖精は天にあの日の厄災を見た。


「そうだな。お前も、その翅を俺に斬られないようにしろよ」

「「恨んだ相手を見て、周りを気にする余裕がない」」


森が、村が、燃えていた。

指示した奴を知っていた。

あの日届かなかった場所に、今は届く。

標的以外は眼中にない。

二人は羽で空気を打ち、高速で空へ飛び出した。




「ほぉ、神が大勢いる。冥府の神にでも挨拶して来るか。殺せるものなら殺してみろって」


男は笑顔を崩さず、地を蹴り、道中いた神々を殺し、その身体を足場に、天高く、何処までも上って行った。




「少し、格好付け過ぎじゃないかアマデウス?」

「シナーか。許せ、この戦いが終わるまでは、魔王として居させてくれ」


アマデウスの表情は、優しかった。


「イリス、アルバを治してやってくれ」

「言われずともするつもりだ」


イリスは、ハンスに抱えられているローランに魔法をかけた。


「大丈夫か、アルバ?」

「にい、さん……?」


目を覚ましたアルバを、ハンスは抱きしめた。


「問題はなさそうだな。では、四人ともさっさと前線に出ろ。お前たちが主戦力だ」


アマデウスに言われ、シナー、イリス、クロ、ローランの四人は、各々の武器を構え、眼にも止まらない速度で空を翔けた。


「アルバ、よくぞ生き残った。お前のおかげで、我々は神々を相手に、勝利することが出来る。先に感謝しておく」


そう言って、背後にいたアルバたちに向かって話していたアマデウスを狙った、光速の神が一柱いた。


「「アマデウス⁉」」


二人は動くことが出来なかった。




「悪い、アマデウス。遅くなった」


煌びやかな服を着た男。

正面から迫っていた神を、手で触れることもせずに容易く殺して見せた男。


「「王様?」」


アルバとハンスの二人は、その男に見覚えがあった。

二人が国を出る前、一度だけ見た。


「あぁ、俺は乃神のがみ。乃ち神である。まぁ、神殺しの方が適切だがな」


乃神は笑って天を見る。


「おぉ、おぉ、いつの日か逃がした神々がいるじゃないか。アマデウス、俺も前に出るが、構わないな?」

「好きにするがよい。我を案じるな。最強の名は伊達ではない」

「そうかい。なら……ちょっと殺してくる」


天を上り、乃神は神々の中心で止まった。

羽は無かったが、男は空を飛んでいた。


「ここはもう、俺の領域だ」


乃神を攻撃しようとするも、あらゆる攻撃は乃神に届く前に消失する、無効化される。


「俺は、お前らよりもずっと強い」


神の身体は破壊される。

内側から、武器が飛び出し身体を刺し貫いたり、膨張し、破裂したりしていた。

その時だった、背後に近付く存在に気付いた。

咄嗟に、空中に剣を作り出し、背後へ向ける。


「なんだ、味方だったんだ。同系統の力に吸い寄せられてきてみたけど、僕より弱いね」


乃神と同じように空を飛ぶ、剣を持った少年がいた。


「お前がローランか。お前ら規格外と比べられちゃ、誰だって弱者に回るほかないだろう」

「…………」

「なんだ、驚いたのか?俺は驕らない、慢心しない。だって俺は、全知全能が、どれほど無知無能であるかを知っているからな。わかったら、さっさと神を殺せ」

「わかってる。君のことを少し知りたかっただけだ」


ローランは、優しげな表情のまま、次の神を殺しに行った。

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