終焉

「滅びよ、不完全な種に価値は無い。不完全なこの世界に、滅びあれ」




《アルバ、やるべきことは理解しているな?》


あぁ、解ってる。


「生き残るだけだ」


アルバは雲が覆う天を睨んだ。




世界を、炎が覆った。

空に輝く星々は、最期の輝きの後に崩壊する。

ただ一つ、この星を残して。


あぁ、これが、神の力か。

異能でも、魔術でも、傷が癒せない。


「ウラノスか。何故我らを裏切った」


天上から声が聞こえてくる。

それは、この世界に、この宇宙に、ただ一つ残ったこの星の、ただ一人残された人間へと掛けられたものだった。


「この期に及んで我の名を呼ぶか。貴様らの前に立っているのは、我ではない、アルバだ」


怒りを込めた声は、かすれていた。

肌は焦げ、黒く染まる。

腕は音を立てて地面に落ちる。

動くだけで崩れる身体で、背後を見る。


あぁ、護れないなぁ。


消えた街に、唇をかむ。

唇は、歯に触れると、くしゃりと崩れる。

身体が崩れても、痛みは無かった。

既に感覚は麻痺していたから。

ただ、苦しかった。

心臓も、肺もも、その機能をほぼ停止させていたから。


ウラノス、俺さぁ、護りたかったんだ。

作戦は理解していた、知らない誰かが死ぬことも、見たこともない街が消え去るのも、解ってた。

だけど俺、人を……護りたかった。


「答えぬか」


たとえ小さくかすれていたとしても、聞き逃すはずはない。

アルバという者に、興味は無かった。


「滅びの時だ」


天を覆う雲が、地面へと無数の雷をおとす。

だがそれらは、アルバへと向けられたものではない。

アルバの頭上、一際大きな雷雲があった。


「お前達は、もっと早くに俺を殺すべきだった」


雷雲がピカっと輝いた。


「俺の、俺たちの……勝ちだ‼」


焼けた喉で、アルバは天に咆えた。

落ちる轟雷は、闇に飲まれた。


「久しいなゼウス。貴様が殺せなかった男が、還ったぞ」


闇の中から一人の男が現れる。

黒い髪、黒い目、少し幼さを残した顔。

だが、その雰囲気は、その風格は、強者のものであった。


「よくやった。後は任せよ」


その微笑みは、強者にのみ許されたもの。

圧倒的な強さがあって初めて、この状況で他者に笑みを送れる。


「今更何の用だ。世界は終わる、既にそれは決まっている。残るは貴様らのみである」

「全知全能だという割に、随分と知らないことがあるのだな」


男は全能神を相手に笑顔で煽った。


「我は魔王、魔王アマデウスである。そして、貴様ら神々が殺し損ね、貴様ら神々を殺す者だ。そして見よ、これこそが神殺しをなす者達である」


アマデウスの背後、闇が広がり、その中から人が出てくる。

ギルド、騎士団、つい先刻まで戦っていた者達が、世界から消失した者達が、今此処に集っていた。


「何千年、何万年の時を、神々の理不尽に虐げられてきた。幾度となく、世界は滅ぼされてきた…………今こそ、反撃の時だ‼」

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