竜の因子

アーサーたちは夢から覚める。

瓦礫が散らばる街。

高くそびえる巨大な城。

紛れもなくそこは現実だった。


「な、腕が……破壊されている⁉」


砕かれ破壊された両の腕。

残された戦いの痕跡は、別々の攻撃によるものだった。


「アルトリウス、これは」

「あぁ、託されたんだ。全てを出し切り倒せないのなら、次へと繋げる。俺たちは、これに応えなければならない。それこそ、全身全霊で」


二人は闘志を燃やす。

託されたものの強大さ、託した者達の意志を感じ。


「アーサー、魔力は足りているか?」

「全然足りない。けれど、魔力が尽きる前に破壊する」


城を見上げ剣を構える。

聖剣は光輝き、天へと続く光の道を作り出す。


「エクス……」

「エクス……」


剣を振り上げ、勢いよく振り下ろした。


「「カリバーーー‼」」


唸るような音を立て、光の奔流は城へと直撃した。

しかし、光が治まればそこに見えるのは、小さな傷がちらほらとついた巨大な壁。


今ので、これっぽちしか……。


「アーサー、教えてやる。過去、アーサーが死んだ理由は、自滅だった。これからすることを、決して真似するな」


アルトリウスは胸を握りしめ、唇を噛み締める。

目を瞑り、何かを求めるように、苦しそうな表情をする。

アルトリウスの身体を赤い炎に似た何かが覆う。

瞼を開きその中から覗いたのは爬虫類のような縦長の瞳孔だった。

眼からは血の涙を流し、その肌には、薄く鱗のようなものが浮かび上がる。

呼吸は荒く、病気を疑うような状態だった。

赤い炎のようなものを剣へと纏わせると、突きの構えをとる。


「穿て」


その一言と共に剣を突き出した。

鈍く赤い光、竜巻の如きその光は、巨大な壁へと届いた。

それと同時、当たりに異常な衝撃と轟音が響いた。

削り合うが如きその音は、耳をつんざくようで、辺りへの衝撃は、肌を切り裂くよな風となる。

アルトリウスは雄たけびを上げながらすべてを出し切った。

倒れ込むように、地面へ剣を突き刺し体重を掛けた。

鱗は引き、眼から血は流れてはいたが、既に普通の眼に戻っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……くっ、駄目、か」


肩で呼吸をしながら、傷を広げることしか適わなかったという結果を見て悔しがる。


「今ので十分。見せてあげる。アーサー王は、赤き竜」


アーサーの背から羽が生える。

身体を鱗が覆い、頭には角が、剣を握る手は鋭い爪を持ち、歯は牙へと変わり、その眼は細く鋭い。

一度の羽ばたきで、赤き竜人は最高速度に達し突撃した。


「俺は神が嫌いだが、あぁ、こうして差を見せられると、少しだけ、神の加護を持つ者が羨ましい」


そうして全てを出し尽くしたアルトリウスは、ついに剣ですら身体を支えられなくなり地面へと仰向けに倒れた。

滅んだ国の王の戦いを眺め、微笑みながらに消えて行った。


結末を見届けられないのが、とても残念だ。


アーサーは両手で持った剣を傷へと刺す。

火花を散らせながらさらに奥まで刺し貫こうとアーサーは羽を羽ばたかせる。

破片が飛び、少しだけ奥に入った。

まだ先が刺さっただけではあったが、十分であった。

アーサーは雄たけびを上げ、剣により一層力を籠める。

剣は赤く光り輝き、巨大な爆発を起こした。

連続爆発。

次第に爆発は弱まっているように感じたが、それは違った。

剣が徐々に徐々に奥まで刺さって行き、城の内部で爆発を起こしていた。

その時、音が消えた。

辺りを包み込む眩い光、遅れて聞こえる今まで以上の爆発音。

光が過ぎ去った後見えたのは、大きなひびが多数でき、そのひびから炎を噴き出す巨大な城の姿だった。

アーサーは力を使い果たし、元の姿で地上へと落ちていく。

力なく、それでいて剣だけは決して離さずに。

意識のないアーサーは、空中で消えた。

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