ハンスvsローラン

輝く聖剣は、激しい火花を辺りに撒き散らせる。

格上を相手しているというのに、ハンスは驚くほどに落ち着いていた。

相手の動きについていける。

必死では無いというのに、今までで一番動けていた。

身体が軽く、思い通りに動く。

意識との間にラグは無く、何ものにも縛られない自由を感じていた。


あぁ、あぁ、これは楽しいな。


速度を上げ、より強く打ち合う。

だというのに、限界が見えてこない。

自分がさらに強くなれると思うと気分が高揚する。

だからだろうか、気付けていなかった。

強くなり続けるハンスを相手に、未だ後れを取ることなく打ち合い続けているという異常さに。

突然吹き飛ばされた。


「いいね、すごくいい。君は今も強くなり続けている。それが僕はとてもうれしい。君が至る場所を、僕にも見せてくれ」


その微笑みは強者のもの。

その言葉は強者のもの。

ハンスは自分とローランの間にある越えられない壁を目の当たりにした。

絶望的なまでの差を目にした。

そして笑った。

自分がどこまで強くなれるかはわからない、けれど、あれほどまでに強くなった者がいる。

それは決して届かぬ場所、だが、たどり着いた者がいた。

ならば自分も、いずれその高みへ。


「聖剣よ、我に力を」


ハンスは剣を構える。

聖剣はその刀身を赤く染め、圧倒的な魔力は紅い霧の様に可視化できるほどだった。


「……聖剣よ、我に力を」


ローランもまた、剣を構える。

聖剣はその刀身から色が無くなっていく。

透き通った色、剣であると理解はできるが、完全な透明であった。

魔力は光を屈折させ、空間をぼやけさせる。


「君では、僕には勝てないよ」

「知っている。だが、自分がどこまでやれるのか、それを試すくらいはいいだろう。ただそのためだけに、俺は命を懸けたのだから」


二人は同時に地を蹴った。

二振りの聖剣がぶつかり合い、出力を上げるような甲高い音を辺りに響かせる。

魔力が物理現象すら引き起こす空間。

荒れ狂うが如き魔力が、身体を傷つける。

呼吸が困難になるほどに空間内を支配する魔力。

視界が明滅し意識が曖昧になる。

そんな状況だというのに、ハンスはさらに力を上げる。

眼が充血し、輝く聖剣は、激しい火花を辺りに撒き散らせる。

視界はぼやけ、耳は遠のく。

今にも倒れるこの状況で、ハンスは笑った。

剣を弾き、打ち合った。

金属同士がぶつかり合う音を何度も響かせながら、二人は戦う。

方や今にも意識を手放すギリギリの状態、方や未だその微笑みを崩さず余裕のある状態。

力の差は歴然、勝負はすぐについた。

一際大きな音を鳴らし、剣がぶつかる。

ハンスはローランの一撃を、受け止めることが出来なかった。

いつの間にか背後にまで移動しているローラン。

すでに攻撃は済んでいた。

ハンスの首からは血が流れだす。

薄皮一枚のみを首の部分を一周するように斬り、心臓の部分に血が少し流れる程度の、それこそチクリと刺した程度の傷刺し傷を、一撃で殺せるような場所全てに、死なないように、だが、攻撃を当てたことがわかるように傷が付けられていた。


「これは殺し合いではないからね。僕は君と戦えてよかった。君のおかげで、僕はさらに強くなった。ありがとう。またね」


ローランは楽しげに軽い足取りでどこかに行ってしまった。


今のが、本気?

きっとそうなのだろう。

全力の手加減、俺の眼には見えなかったあの速度が、寸止めが出来る全力。


「遠いな」

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