アインスの作戦2

見慣れたビルのすぐ近くにある、裏路地へとトラックを止める。

トラックから降り、アインスは巫にメモを渡す。


「これ何?」

「その座標にトラックをテレポートしてくれ」

「いいけど、ここに何があるの?」

「内緒」


人差し指を立てて笑った。

巫が手を触れると、トラックはその場から消えた。




「ん?」


畳の上で寝転がっていたクロは、上空から降ってくるものに気が付いた。

外へ飛び出し、軽々と天高く飛び上がった。

落下物へと近づくと、刀に手をかける。

抜いたことすらわからないほどの早業で、細切れにした。


妖し組の屋敷、その上空に出現させるか。

一応結界は張ってるが、さすがに意思もなく攻撃されちゃあ、結界をすり抜けちまう。

何処のどいつだよ、意思もなく転移させやがったのは。


脳裏に、白髪赤目の少年の姿が浮かぶ。


意思のない奴とは、戦いたくねぇなぁ。




「んー、今日は朝から大変だったなぁ」


巫が体を伸ばしながら喋る。


「確かにな。朝起きると、新人二人がテレビを見てて、妖退治に京都まで」


アインスが今日の出来事をつらつらと並べる。


「昼頃には、白銀の紹介。その後いなくなったアインスを探して、騎士団の刺客を、捕らえて脅して駒にした」


アインスの言葉に巫が続く。


「その時間は、暁焔の監視して、一に報告してたな。それで、銀行に盗みに行ったら、よくわからない妖たちに襲われた。さすがに死んだと思ったけど、さすが一、全部読んでたわけだ」

「本当にすごいよ。アインスが居れば、この戦い勝ったも同然だ」


アインスに絶対の信頼を置く二人は、笑ってアインスを称賛する。


悪いな、俺はそろそろ、退場の時間だ。


「術廉、頼むぞ」

「あぁ、任せろ」

「え、何の話?」


二人の間ではすでに話がまとまっていた。

巫には伝えられない話が。


「内緒かな」


アインスは笑ってごまかした。




ビルの正面、ウィンドウを開けてなかに入る。


「アインス、ようやく来たか。今までどこに……おい、その腕」


アインスを見つけるなり近づいてきた男は遅まきながら、アインスの無くなった腕に気が付いた。


「気にすんな、お前のせいじゃねぇよ黒鉄。それに、この戦いは、死ななきゃ問題ないから。ギルドも妖組も騎士団も、怪我や呪いは全部治る。死なない限り、いくらでも戦えるから、安心して大怪我してこい」


そうアインスはへらへらと笑う。


「んじゃ、書類渡すために部屋行くぞ」

「……わかった」


納得がいってない様子だが、何も言わずにアインスについていった。




「ほいっ、これが用意したものだ。その書類に書いてある通りに行動すれば、問題ない。相手の情報はしっかりと載ってるから、よく読んで対策したまえ」


机に置かれていた書類を手渡し説明する。


「対策は俺が考えんのかよ。これ計画書じゃないのか?」

「ん?計画書だぞ、逃走経路までバッチリのな。ただ、対策はお前の戦い方に合わせる必要があるから、自分で立てろ。さっきも言ったが情報は載ってる、暗記するレベルで読んでおけ」

「そう、だな。あぁ、わかった。これ以外に渡すものは?」

「無いよ。しっかり押さえとくから、敵にだけ集中したまえ。あ、無いとは思うが質問は今日中な」

「わかった。それじゃあ、ありがとね」


黒鉄は、お礼の言葉を言って部屋を出て行った。


「悪いがおまえの分はまだ出来てないから、明日起きたら部屋まで取りに来てくれ。それまでには完成させておく」

「これからまた働く気?」

「あぁ、徹夜で仕上げるから安心しろ」

「体が大丈夫だからって、無茶はしないでね」


アインスを心配しながら、巫は部屋を出て行った。


「一。もしかしてきくのは、君の体を」

「あぁ、三大欲求のない不老の肉体だと思っている」

「それで騙すために普通の食事をとってなかったのか」


そう言って、皿に乗せられた白いキューブ状の物を見る。


「人の体は、ブドウ糖さえあれば生きていけるそうだ。それを知って真っ先にそれだけで生活をしてみたんだが、別の世界から来た俺も、ブドウ糖だけで生きていけるみたいで、結構楽出来てるかな」


魔力がないせいでいくら魔術の知識があっても魔術が使えないアインスは、必要な栄養が単一だったことに少しばかりの感謝をしていた。


「きくのは、君を心配している」

「知ってる」

「きくの達が、君の友人たちが、君がいなくなれば悲しむ」

「大丈夫、きっと乗り越えられる」

「君は、別れが辛くないのか?」


アインスの雰囲気が変わった。


「俺に感情はわからない。友人がなんなのかも、別れの辛さも、悲しみも……それはもう、不要だと切り捨てた」


虚ろな目、淡々とした話し方、まるで心がないような。


「だから俺は別れが辛くはない。頼むぜ、俺の体」


いつものように笑うアインスは、無理をしているように感じた。


「……わかった。君がそれでいいのなら、俺は構わない。高校時代、君に声をかけられた時から、君の命に従うと、そう決めていたんだ。さっきのは、最後の反抗ってとこかな。それじゃあ……さようなら」


椅子に座るアインスに、悲しそうに微笑んで、部屋から出て行った。


「さ、仕事するか」


そう言って、感情なく、キーボードを打ち始めた。




霧に包まれた街の中、死体が散乱している広場で火花が散る。

二人の子供が、大人を相手に戦う。

一人は可憐な少女、双剣を手に、舞うように戦う

もう一人は勇敢な少年、身の丈ほどの剣を握り、全身を使って剣を振るう。

二人は、連戦に次ぐ連戦により、体力を消耗しきっていた。

二人が勝負を決めようとしたとき、少女の足から力が抜けた。

何とか踏みとどまったものの、その隙を相手は見逃さない。


「———姫っ‼」


少年は声を荒げ、護るために、駆け抜ける。

少女と敵の間に、無理やりに体をねじ込む。

振り下ろされるナイフを剣で防ぐも、地面にたたきつけられる。

流れるように少女へと攻撃する。

すでに動けるようになった少女は、ナイフをいなし、その勢いで相手の腕に剣を刺す。

もう一振りの剣も使い、右腕を斬り落とした。

痛みに顔を歪めながら後方に逃げるが、少年の攻撃が左から飛んでくる。

咄嗟に体をそって避けるも、剣によって遮られた視界に、少女が飛び込んでくる。

頬を掠めるもこれを避け、距離を開ける。

しかし、少年の剣に乗り、吹き飛ばされる少女が一瞬で距離を詰める。

直線的な攻撃なうえ、距離も開いていたため、少女を避けたのだが、少女が左腕を掴んだ。

突然加わった力に、骨が悲鳴をあげながら、身体を180度回転させる。

がら空きとなった背中から、少年の剣が貫いた。

相手は血を吐きその場に崩れた。


「終わったようだね」


霧の中から、一人の男が姿を現す。


「おじさま、見ていらしたのね」


疲れて地面に座り込んだ少女が微笑む。


「当然だとも、私は君達の保護者だからね」


そう言って笑う男を睨み、少年は口を開く。


「おじさんは手を出さないでって、言ったよなぁ」

「あぁ、覚えているとも」

「だったらなんで、手ぇ出した」

「あら、そんなことをしていらしたの。いけない人だわ」


そう言って、少女は剣を握る。


「待て、今は座っていろ。いくら外傷がほとんどないとはいえ、1000人の殺し屋を相手に戦ったのだ、休憩しろ」


しぶしぶ剣から手を放す。


「なぁ、おじさんはなんで俺たちの戦いに手を出したの」

「保護者だからだ。君たちに大事が無いよう、時折手を出していた」

「……なんとなく察しているが、一応聞いておく。最後、ねえ…姫様を助けなかったのは何故だ」

「そんなもの、君が間に合うからに決まっているだろう」


なんとなくわかってはいたその答え。

けれど、本人の口から出たその答えに、苛立ちを押さえられなかった。

剣を握り、地を駆ける。

剣は男を切り裂いた。

しかし、手ごたえはなかった、男の体は、靄となって消えた。


「まったく、休んでいなさいと言っただろう。剣など持たず、今は休め」

「腹立つんだよお前。何度も危ない場面はあったが、お前が手を出さない時は、必ず自分たちだけでどうにかなる。お前は的確に俺たちを助ける。俺たち以上に俺たちの限界を知るお前が嫌いだ。その何でもわかるみたいなすました顔も大嫌いだ」


そう睨み叫ぶ少年に、男は苦笑いを浮かべる。


「それはしょうがないことだ。私にはすべて解ってしまう。すべては知らずとも、すべてが解る。それがこの私、シャーロック・ホームズなのだから」

「…そう言うところが、一番嫌いだ‼」


そう吐き捨てて、二人の子供は霧の中へと帰っていった。


「…………そういうところと言われても、私は解らない」

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